それはまだ数年前のことだが、当時一度だけ世話になった臨也さんのつての(というか友人らしいのだが)闇医者に言われたことがある。勘が冴えているのかどうなのか知らないが、自分と臨也さんが恋仲にあることを言わなくても気づくあたり、あの人はきっと一生自分の中で苦手な部類に入ったままなのだろう。その人に「君も苦労するね」と、ただ一言苦笑いしながら言われた。その時は、一体何に対してそんなことを言ったのかまったく見当もつかなかった。臨也さんの性格のことかとも思ったのだが、今になってその意味が分かるような気がする。
そう、例えば、こうしてキスするときとか。
(うわっ…)
前もって言っておこう、別に悪い意味ではない。
伏せられた瞳、赤く染まる頬、荒くなる息遣い。例を挙げたものだけでも十分なほどだというのに、この折原臨也という人物は存在から何もかもが危ない。危ないというのは自分の精神衛生面上の話である。おまけに無意識なのか知らないが、弱弱しく服を握ってくる手とか、ふわりと香る彼特有の匂いとか、まだお盛んな20代前半の自分からしてみればもう猛毒そのもの。
簡潔に言ってしまえば、エロい。接触するだけでも気をつかうというのに、こうして恋人らしい言動一つとってみればもうそれは爆弾にしかならない。
(いろいろと、今日もやばい、かも)
舌を舐る度に漏れる吐息に、こみ上げてくる何か。ぐっと堪えて、ただキスにだけ集中する。というのもまた少し変な話ではあるのだが、そうしないとなし崩しに暴れだしそうな自分がいて怖い。何がって、それで彼を傷つけてしまうのではないかというのがだ。
そっちの方面に向かないようにと、考えることは今の状況におよそ似合わないことばかり。例えば、えらく差がついた身長差のこととか。今では腕の中にすっぽりと収まってしまう臨也さんの、少し不服そうな表情を思い出す。素直に可愛いなと思って、胸の奥が暖かくなった。
そのタイミングで唇を離せば、お決まりのように銀色の糸が二人の間で繋がっている。
(つくづく俺も献身的だよなあ)
足りない分の酸素を必死に取り込もうと頑張る臨也さんを抱きかかえて思う。数年前の自分が見たら昏倒するかもしれないけれど、こんな未来もいいもんだろうと言ってやりたい。
「大丈夫ですか?」
「…なん、とか」
いまだに少し荒れている呼吸音に若干心配になるものの、本人が言うのだからもう大丈夫だろうと考える。相変わらず白く病気的な何かを想像させる肌、思わず飲み込まれそうで息を飲んだ。
「獣みたいだね」
「そりゃ、男ですからね」
「よく言うよ」
恨みがましく睨み付けてくることも最近はなくなった、彼も慣れたのだろうか。ならそろそろ、次のステージへと進んでも問題はないのではないだろうかと内なる自分は囁くが、そう慌てることもないと宥める。時間はたっぷり、それこそ有り余って困るほどにあるのだから。
「正臣くん、もう一回」
可愛いけれど憎らしいおねだりに、今日だけはしっかり答えてやろうと思った。


(:20110724)
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