※正臣と臨也が同い年


じりじりと差してくる日の光りに耐えながら、冷房の効いたコンビニからの帰途を辿る。黒髪が予想以上に熱を吸っているのか、隣を歩く彼はあからさまに顔をしかめていた。
「暑い……」
梅雨入りしたばかりの6月中旬。この頃の気候にしては珍しく、蒸し暑さに魘される日々が何日も続いていた。
「アイス買ったじゃないっすか」
「こんなものその場しのぎにしかならないよ、食べたらそれで終わりなんだから」
「文句言うんだったらくださいよ」
「やだ、食べる」
幼稚園児さながらの我が儘。単語だけで会話を終了させれば、彼の口に白いアイスキャンディーが放り込まれた。
「大体、なんで俺が講習に付き合わされなきゃいけないわけ」
「しょうがないですよー、カリキュラムでそういう風に決まっちゃってるんですから」
「冷房もない部屋で真面目に教師の話なんか聞いてられるか」
不快感を露にした顔で吐き捨てる台詞に、確かにそうだと頷ける点もあることにはあるが、そんなことを愚痴っているよりも早くクーラーの効いた家に帰るべきだと思う。
「ほーらー、臨也さん暑いならさっさと帰りますよー? そんなところでとぼとぼ歩いてたって熱中症になるだけじゃないっすかー」
「分かってるよ……」
疲労しきった表情が浮かんでいる。早くも夏バテか、この人は。まあ元よりそんな夏に強い人ではないと知ってはいたが。
「あ、臨也さん臨也さん」
「え? んむっ」
半開きになっていた彼の口に、妙案とばかりに自分の持っていたアイスキャンディーを捻り込ませる。
突然のことに反応が遅れてしまったのか、事が起きてからおよそ十秒のインターバルを経て彼は怪訝そうな目付きでこちらを見た。
「……らに」
「いやあ、暑い暑い言う口を黙らせようと思ったんですけど。臨也さん、そのまま俺の名前呼んでくれません?」
訳が分からないといったような視線で、躊躇いながらも彼は口を開いた。
「まらおみくん」
「……、……」
ああ、成る程。これはなかなか。
どうやら自分も、予想以上に暑さに参ってしまっているようだ。
「臨也さんそれあげますよ」
棒から手を離し、今度は空いた手で彼の手を掴んで引っ張り出した。
「ちょ、ちょちょちょ。正臣くん何がやらしたかったの」
「さあ? それにしてもあっついっすねー」
「? うん」
手を掴んでいる右手とは反対の左手で胸元のシャツをぱたぱたと扇ぐ。
「多分うちクーラーついてると思うんで、行きましょうか」
「うん」
「夕飯食べてきます?」
「え、いいの?」
「はい。まあ、絶対そうなると思いますけど」
後ろに視線を向けて笑う。意図が理解できたのか、途端に真っ赤になる彼の顔。
しかしまあ分かったところで、今更であるとは思うが口には出さないでおいた。
「今夜も暑くなりそうですね、臨也さん?」
「……そーですね」
ほらそこ、真っ昼間から不謹慎とか言わない。


(:20110416 加筆修正)
(:20120809 加筆修正)
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