唇に指を這わせて肉の弾力のある柔らかい感触をただひたすらに感じることに努める。馬乗りになった状態で何をしているんだと言われてしまえば言い訳のしようがないこの現状。いつの間にか指は唇からさらに下の方へと移動し、鎖骨の辺りに到達していた。
決して薄くはない皮一枚向こう側にある骨の硬さ。凹凸の感触を楽しんでいると、不意に手首を掴まれた。
「満足したか」
「んー…まだ、あとちょっと」
返事を返せば、ぱっと掴まれていた手首は離され、自分はまた先程と同じように可笑しな行為に没頭し始める。
「おい臨也」
名前を呼ばれる。心なしかその音は低かった。
「何?」
「くすぐってぇ、」
「もう駄目?」
「駄目」
「分かった、退く」
体を滑らせていた指を離し彼の上から早急に退く。広いキングサイズのベッドがぎしっと軋む音がした。人二人分の体重を受け止めて沈んだシーツの海に身を委ねて、うつらうつらと船を漕ぎ始める。
「俺の体なんか触って何が楽しいんだよ」
気がつけば聞かれているお決まりの台詞に、今日は少しだけ何時もと違う答え方をした。
「体温」
「あ?」
「暖かい、でしょ」
「…まあ、」
「安心するんだよねえ…不思議なことに」
細胞にまで行き渡るその安堵感。ただ単に一肌恋しいのかそうでないのかははっきりしないが、とりあえず彼でなければ駄目だということは気づいている。
多分必需品。
「変だな」
「変だよねえ」
明日にはきっとそんなことも忘れて、縦横無尽に街を駆け回っているはずなのに。
その事実が可笑しくて、腹を抱えて笑いたくなるのを必死に耐えた。


(:20110416 加筆修正)
(:20111003 加筆修正)
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