少しだけ肌寒い空気を肌で感じて、思わず身を縮ませた。擦れるシーツと生暖かい掛け布団の温もりが思ったより心地よい。浮上してきたはずの意識はまた水底へと沈んでいくようだった。
ぎしりと、ベッドが軋む。
「……不法侵入罪で訴えるよ」
「合鍵渡したのは臨也さんじゃないですか。おはようございます」
ゆるゆると重たい瞼を持ち上げれば、柔らかい金髪の髪の毛が目に飛び込んだ。寝起きの自分には眩し過ぎるそれが太陽のようで、つい目を細める。
「起きれます?」
「まだ寝る、早く出ていって」
「ですよね。ところがどっこい、まだ出ていかないですよ」
あやすように撫でられ、つい眉をひそめた。楽しそうに自分を眺める視線が気にくわない。少しいつもと違う自分を見せれば途端にこれだ、だから昔から子どもは好きじゃないんだ。手繰り寄せた毛布を頭から被って、寝なおそうと試みる。
「今、臨也さんが何考えてるか当てましょうか」
別に何もやましいことをしたわけではないのに、鼓動が跳ね上がった。
「調子乗ってる訳じゃないんですよ、ただ、珍しいなと思っただけで」
ああそうか、なら満足しただろう早く出ていってくれ。声に出さない悪態を飲み込んで、しまっておく。
「臨也さんやけにそっけないですね。何かありました?」
「何も、ない」
「昨日はお帰りが大分遅かったみたいですけど」
「…………」
ストーカーかよ。心中で吐き捨てる。
「分かってるなら、寝かしてよ……」
「じゃあちょっと失礼」
ぼんやりとしていていまいちはっきりしない視界の横で、ごそごそと動く音がする。布団をいきなり捲られ、ひんやりとした朝の空気が体を冷やす。眉を歪めて嫌そうな顔をしてみるが、相手はお構いなしに俺の鎖骨辺りに触れた。子供体温なのか手はやけに暖かく、それを皮膚がじわじわと吸いとって自分のものにしていく。
「悪い虫が近寄ってた訳じゃないんですね、安心しました」
「……馬鹿じゃないの」
「馬鹿で結構です」
有利に立ちたいのかそれともただの自己満足なのか、マーキングなのか分からない痕をそこに残していく。鬱血したそれを他の奴が見たらなんと思うだろうか。
考えたくもなくて、襲う睡魔に身を委ねた。
(:20110416 加筆修正)
(:20120117 加筆修正)