寂としているこの室内で、なんとなく倒れ伏せて目を閉じた。冷たいフローリングが何かを語りかけてくるようで、そっと耳を澄ます。遠くの方で扉が開く音がしたのは気にせずに、死んだように体を投げ出したままでいる。
「そんなところで何してるんだ」
「別に、」
仰ぎ見た九十九屋の顔は陰ってよく見えない。良い具合に部屋の青と黒が混じり合って、まるで水族館にでもいる気分。さながら水槽で溺れる魚は自分か。もがいている姿を想像したら、なんとなくお似合いだと思った。でも息苦しくなるのはここではなく外なので、ガラス張りの水槽はきっとあちら側。たくさんの魚が群れをなして、溺れないよう馴れ合いながら生きている。濁りきった水のせいで、中はよく見えない。彼らにとってこれは、生きにくくもあり生きやすくもある、とても微妙な環境。
「……なにこれ」
「飴だな」
「なんでここにあんの」
「つられて起きてくるかと思って」
「馬鹿じゃないの」
九十九屋に一つ落とされた飴玉は、さながら魚の餌のようだった。多分あの甘ったるい球体を口に放り込んだなら、他の魚と同じように自分は群れの中の一つでしかなくなってしまうのだろう。自分が魚なら、奴はきっとガラスの向こう側で手を叩いて自分を嘲笑う観客。
今すぐこの、薄く見える透明な壁をぶち破りたくなった。
「お前がそんなんだとなかなか張り合いがなくてつまらないな」
「お前は俺に何を期待してるんだよ」
「それは折原自身が気づくべきことだろう」
気にくわない笑みも何かも、こちらに引き込めたならよかったのに。


(:20120301 加筆修正)
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