浴槽に沈めた欲と願いとそれから携帯と、放りこんだあとに自分もそこへダイブした。狭くはないけれどだだっ広くもない浴槽が自分を受け止めた時、ばしゃんと跳ねるお湯と一緒に何かが弾けた気がする。もうすでに生ぬるい水はじわじわと服を侵食し、肌まで差し迫ってきた。仰向けになった体はずぶ濡れで、何をやっているんだと馬鹿にされてもおかしくはない。ああ、きっともうこの携帯は使えないな。自分と同じずぶ濡れのそれを掬い上げ、ぽたぽた滴る水滴に唇を寄せた。
折原臨也が情報屋をやめたという話は、瞬く間に広がっていった。良くも悪くも影響しだしたそれに、俺はさして喜びもしない。ただ一秒一秒流れていっている時間をベッドの上で過ごした。特にわけもなにもない、ただの気紛れでやめてみただけの趣味は、あっという間に輝きを失っていった。それと同時に、自分の瞳の光もまた、くすんで濁って分からなくなっていた。
「連絡は取れるようにしとけよ」
浴室に重低音が響く。入り口の方から流れてきている冷気は、多分それのせいだと考えた。
「携帯沈めちゃったんだよ」
「見れば分かる」
「新しいの買わなきゃなあ」
「必要ねぇだろ」
男ははっきりと意思のある即答を返した。自分の表情は笑うでも起こるでも悲しむでもなく、ただひたすらに無表情であった。それを男は見越してなのか、静かにあとを続ける。
「俺が閉じ込めるから」
四六時中、離さず動くことさえ許さない、と。それがまるで当たり前のように、男は静かに言い放った。その重みに何を感じたのか、静かに瞼を閉じる。再度その硝子玉のような赤い瞳が開いたとき、うっすらと顔に笑みを貼り付けて。
「犯罪」
「手前がそうさせたんだろうが」
「うん、そうだね」
浴槽から掬い上げられた体を、すっかり冷めきってしまった四肢を、もう一度暖めるのだと、その温度に絡み付いた。


(:20120302 加筆修正)
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