多分今この部屋に照らされている灯りは、奴愛用のパソコンから漏れ出すディスプレイのバックライトのみだけだ。月明かりがよく入るこの一室を、灯りが白くうっすらと照らし出す光景そのものは芸術的な何かを彷彿とさせるのだが、書類が散乱している現状はなんだか急に現実味を帯びさせる。意味もなく床に座り込み、ただその月明かりの中ぼーっとしているしかない自分は、いったい何をしようとここへ来たのかがまったくと言えるほど思い出せないのだ。大きな目的も無くし、ただ無意味な行動ばかりで笑える。多分、こんな姿一生で一度っきり。分からないけれど。
「いい天気だな」
その声が耳に入ったのは、月明かりに影がさした直後のことだった。
「夜なんだからいい天気も何もないだろ」
「月がよく見えるだろ?十分いい天気だよ」
「あっそう」
素っ気ない返事と共に会話は中断される。影はゆっくりと気配を持ちながら自分の傍らに近づき、その場にただ直立する。街のネオンの明かりも、ここを照らしたりはしない。今はその事がとても楽に感じれた。あの浮き足だった明かりはどうも疲れる。あそこには休まる場所がない。
「一つ言わせてもらえば折原、ここは一応俺の家だぞ」
「ふーん」
「面白いぐらいに無反応だな」
「だってどうでもいいだろ」
最初にここに連れてきたのはお前だ。そんな意も込めて横目で奴を見る。見上げるような体勢になったのだが、月明かりだけではよく伺えない九十九屋の表情は暗闇に溶け込んでいる。そこからは奴も言葉はなしに、やれやれといったような態度で肩を竦めて、不意に頭を撫で付けてきた。
「猫みたいだな」
ほら、鳴いてみたらどうだ?
ふざけた口をたたいた腹いせに、思いきりその手に噛みついておいてやった。


(:20120218 加筆修正)
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