▼2014.05.05(Mon) 君がおはようと言うまで(トーマサ)
嗅ぎ慣れぬ薬品のにおいだというのに、それがトーマのものであるというだけでささくれた心も穏やかになるというくらいなのだからつくづく自分は単純で分かりやすいものだと思った。十年も経ってはいない、たった数年離れていただけの相手から子供の頃よく嗅いでいた消毒液にも似たにおいが染み付いて離れなくなっていたことは、再開して一番驚いたことかもしれない。でも、よくよく考えてみれば納得のいくことだった。相手方の事情を、詳しくとまではいかないが軽くは聞いていたし、なんとなく想像もついていた。全てが終わったらきっとそうするのだろうなと、まるでそれが義務であるかのように。
未来の自分など微塵も考えられなかった自分からすればトーマの半ば定められていたような人生は、少しばかり窮屈にも思えた。その時は奴の理念とか理想とかに頭を働かせられるほどお世辞にも賢くはなかったし、今だって別にそうじゃない。ただ多くのことを学び体験し、トーマとの距離も当時からすれば驚くほど縮まった今は、この道こそが彼の望んだものなのだなと思える。思えるように成長した。トーマは、決して他人に決められたレールの上を走るような人間ではない。トーマは常に己で選択し、道を歩いてきたのだ。
いつの間にか数センチ高くなっていた背は広く、大人の男のものだ。知っている、昨夜それを深く刻み込まれたばかりだ。揺さぶられる度に強く匂ったのは薬品と、何よりも濃い雄のにおいだ。つい思い出して目眩がする、燻る熱を逃がすのにだいぶ焦らされたことまでも思い出してしまい、シーツの海に身体を縮こませてさらに沈んでいった。
多分そろそろ気づいてこちらを向くだろう奴にどう返事したものか、柔らかな朝の葛藤にまだ少し足りない頭で悩んだ。

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