▼2014.03.05(Wed) 誰か痛みを聞いてくれ(トーマサ)
与えられるものがひとつ増えていく度、少しずつ少しずつ怖くなっていった。あまりにも無条件で無意識で、損得勘定の一切が存在しない無償の贈り物は心地よい重みを持ち、それでいて危機感を募らせることなく積み上げられていくものだから。いつかそれがまるで最初から無かったことのように目の前から消えていってしまったら、多分穏やかでいることなどできはしないと直感した。
身を委ねてしまうことへの抵抗感は次第に大きくなっていき、ある時それが爆発してしまった。煌々と輝いていた瞳は驚きの色に染まり、真ん丸に見開かれた水晶がそこから今にも零れ落ちそうで背筋に冷たいものが走った。彼を突き放した腕が震える。冗談だと笑って振りほどいた手を握ってしまいたかったが、脳裏にこびりついた恐怖がそれを止めた。
離れて、放してしまわなければきっと自分は駄目になると。去っていかれるのならば初めから遠くにやってしまえばいいと。
亡き母の笑顔がちらついた、そういえば彼の暖かさはあの人がくれたものによく似ている。刺すような痛みに耐えかねて顔を歪める。


それでも詰められる距離に、どうしてという遣る瀬無さと救いようのない安堵に泣きそうになった。
そして気づく。確かに彼の暖かさは母のそれによく似ていたけれど、母の暖かさはこんなにも痛みを伴うものではなかった。苦痛に胸を掻きむしる度入れ込んでいく、底なし沼のようだ。
なのに素知らぬ顔で笑うのだから、彼は本当に酷い奴だ。雁字搦めで逃げられなくされている自分を嘲ながら、心臓を強く押さえた。


title:獣

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