「……で、今年もトト子ちゃんに断られたから妥協して私のところに来たわけ?」

 頷いたサンタクロース姿の六つ子たち。今すぐ全員裸にして寒空の下に放り出してやろうかと思ったが、彼らの顔があまりにも意気消沈していたのでやめてあげた。それにしてもわざわざクリスマスの夜にニート×6にデートしてくださいなんてお願いされるトト子ちゃんを思うととても哀れだ。同情するし、毎年のことだというから呆れてしまう。しかしなんでまた毎年うちに来るのかと聞けば口々に

「トト子ちゃんがだめなら可愛くない方の幼馴染でいいやって」
「人間妥協が大切な時もあるよね」
「どうせお前も予定ないんだろ」

 順に一松、トド松、おそ松から投げつけられた言葉のナイフ。チョロ松だけがちょっと!それお願いしてる側の態度じゃないでしょ!と彼らを制してくれたが、妥協したことは否定しないあたりこいつも結局同類なのだ。いつも無垢な十四松でさえ、おかね?おかねあげたらデートしてくれる?とスレたことを言っている始末。カラ松なんて夜なのにサングラスだ(これはいつものことだが腹が立つので)。ひとりぼっちのクリスマス、通称クリぼっちとはここまで人間を醜くしてしまうのか。気の長さには自信があると自負している私でも流石に腹が立ってきた。

「あのねクソニートども」

 お金も無い、職もない、顔もずば抜けてイケてるわけじゃない、加えて長男から末弟まで揃ってクズでだらしなくてぐうたらなあんたたちの相手してくれる人なんてそうそう居ないんだよ?トト子ちゃんみたいな可愛い子が構ってくれるのなんてもう何かの間違いレベル、天変地異級だけど、私だって幼馴染のよしみが無きゃあんたたちと関わりたくなんてないし奇跡みたいなもんなんだよ自分で言うのも何だけどね、(ああなんか泣けてきた、)こんなコンビニで買った100円のシュークリーム一個で構ってもらえると思ったわけ?私の価値は100円だと思われてるわけだ。(だめだ脱線してる、ほんとはこんなこと言いたかったんじゃないのに)よおく分かりました、情が湧いて今までなんだかんだ相手してきたけど猛烈に後悔してるよ。それに、

「今年は、わたし、予定、あるから」

 いつの間にか両目からぼろぼろ涙が溢れて、最後は嗚咽交じりにそう吐き出した。六つ子は揃って口をぽかんと開けたまま信じられないものを見る目で私を見ている。無理もないと思う、だって私が六つ子の前でこんな風に泣いたことなんて久しく無かったから。なにやってるんだろうわたし。チョロ松がおろおろとした様子であの、予定って、と聞いてきたので、涙声のままそれに答えた。

「友達の先輩がバイト終わり迎えに行くから飲もうって。22時から」
「……そ、それ男?」
「うん」
「ふたりで?」
「ふたりで」
「……」
「断ったけど、もし行けそうになったらいつでも連絡してって」

 大事な話があるから、って。
 ぐす、と鼻を啜った私に六つ子たちは顔を見合わせる。……それって告白されるやつじゃないの、とトド松が口に出せば他の5人が一斉にぎょっとした顔で彼の方を見た。なんでわざわざ言うんだ、という表情。彼氏のひとりも出来たことのない私にだってそのくらい分かってるよ。だから断ったのに。

「行けますって連絡する。今から」
「なまえ、ま、待て。早まるな」
「俺たちと居た方が楽しいって絶対!」
「何でも奢るよ!だから、ね?やめよう?」
「どうせ目的も無くとりあえず経済学部に入ってみたタイプのブサイクなチャラ男なんでしょ」
「医学部」

 カラ松が私を制止し、おそ松が焦った表情でそれに加勢して、トド松が懇願じみたあまい声色で首を傾げる。一松が卑屈な表情で見たこともない先輩を偏見たっぷりに揶揄したので静かに反論すると、その短い返答だけで六つ子たちが揃って口から血を吹き出しながら床に倒れ伏した。人間は敗北感が臨界点を超えると吐血して死ぬらしい。知らなかった。

「医学部で帰国子女で曽祖父が総理大臣」
「……それ騙されてんじゃ」
「どうせ可愛くない方の幼馴染だしどうでもいいでしょ」

 なまえ、と諌めるような声色でおそ松が私の名前を呼んだ。こんな時だけ長兄らしい顔しちゃってさ。ああ、もう。こういうところが可愛くないんだろうに。嬉しい時は心から歓喜して笑ったり、悔しい時には恥も外聞も無く泣いて悔しがったり、そういう感情の発露を上手に行えるトト子ちゃんみたいな女の子はとっても可愛いと思う。トト子ちゃんに至っては顔まで可愛いからすごいよね。
 ともあれそういう類の可愛げを持ち合わせていない私は小さな頃から六つ子たちに憎まれ口ばかり叩いてきたし、相手をしてもらえるのが奇跡的なのは私の方だったのかも知れない。

「あぶないきがする」

 珍しく困ったように眉尻を下げてそう言ったのは十四松だった。そうじゃないんだよ、十四松。危ない目に遭うかも知れないなんて、そんな建設的で客観的な意見が聞きたいんじゃない。(ああなんてややこしい女なんだろう!)
 目の前のシュークリームの包みを破いてぐすぐす泣きながらすごい勢いで食べる私を、六つ子たちは呆気に取られた様子で見ていた。


聖夜のぼくたちは
こんなにも不器用で


( 行かないでって言ってよばか )

(151221)



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