可愛げの無いところが可愛い なに、といささか棘のある声色で言ってこちらを睨み上げる瞳に高尾は苦笑した。どうやら嫌われているらしいと改めて理解しながら自分より幾分低い位置にあるその頭に手を伸ばしたらがっちりと手首をつかまれて阻まれる。 ひやりと冷たい指が手首に巻きつき、その向こうから険を増したふたつの目がこちらを見ていた。 「だから、なに」 「いや別に」 用がなきゃ呼んじゃいけないのか?と小首を傾げて自分を見下ろす高尾になまえは唸ってやりたくなる。気にしている身長を槍玉に上げて小さいだの可愛いだのと嫌味を言いながら頭を撫でくり回されるのがなまえは嫌いだった。 つかんだ手首を離さないままじとっとした目で睨み上げてみてものらくらと手ごたえのない高尾は依然どこか楽しげに目を細めてこちらを見下ろすばかり。 「むかつく……」 「ん?」 「何でもない」 ふいと顔を逸らしたなまえが高尾の手首から手を離す。 冬の外気に食まれて冷えた指先が離れていくのを目で追いながら高尾は白い息を吐いた。 「なんでそんな指冷てえの」 「冷え性」 大変簡潔な返答を残して帰路を急ごうとするなまえの手首を今度は高尾が掴む。 赤くなった指を掌で包むとまるで氷の塊を握ったようだった。血流を良くし自らの体温を分け与えるように高尾はぐっ、ぐっ、とその指を握る。 なまえが拒むように手を引こうとするのを、手首をつかむもう片方の手が阻んでいた。 「ちょっと」 「霜焼けんなるぞー」 「はなして」 「やだ」 なまえの声に少々の焦りが含まれるのを見て高尾はにまにまと笑う。見れば嫌そうに眉を寄せたなまえの頬は微かに赤らんでいるようだ。寒さのせいではないだろう。 ひっぱたかれないのをいいことに高尾はなまえの手を自分の手ごとコートのポケットへと突っ込んだ。ぎょっとしたような顔をするなまえを見てけらけら笑う。 「すげー顔した今」 「何すんの」 「寒そうだから」 「……寒くない」 「流石にそれは嘘だわ」 今日の最高気温2℃ってテレビで言ってたもん、と笑う高尾になまえは困惑した。体温に驚いた指先がじんじんと痺れるのを感じながら渋々抵抗するのを諦める。 確かにこのまま帰れば霜焼けは確実だろうし(こんな日に限って手袋を忘れてきた自分が憎い)、必要以上にあたたかいてのひらが心地良いのも悔しいが事実だった。 とはいえいくら手が冷えない体質だとしてもこれは少しばかり熱すぎはしないか。平均的な体温をゆうに飛び越えていそうな熱を持つてのひらが不思議で、なまえはその表情と声色に不機嫌さを伴ったままぽつりと零す。 「……なんでそんなにあったかいの」 「手?」 「手。」 「カイロであっためてた」 お前の指、いっつも赤くなって冷たそうだったから。 そう答えた高尾になまえは目を丸くしたがものの数秒ではっとしたようにその驚愕の色を平静で塗り潰した。そして元の憮然とした表情を取り繕おうとする。 しかし高尾のコートのポケットの中で微かに震えたなまえ右手の指先は何よりも雄弁にその動揺を物語っていた。高尾はしてやったりと言った心持ちでその右手を強く握る。 握ったてのひらからなまえの脈の速さを感じて頬がゆるむのを感じつつ、赤くなった小さな耳を見つめる。 「……左手がつめたい」 「はいはい」 もっと分かりやすく甘えてくれればいいものを。悔しげに目を伏せ、半ば自棄っぱちななまえに自分の手袋を差し出してやりながら高尾は人知れず苦笑するのだった。 (130221) あばたもえくぼというアレ……強気というより意地っ張りですかねこれじゃあ……! 期待されていたものと違っていたらすみません……里紅さん、素敵なリクエストありがとうございました! もどる |