その関係に名前をあげよう




「俺とお前はどういう関係なのだよ」
「はあ?」

昼休みになまえを呼び出してそう問えばあからさまに苦い顔をされた。腕を組んで仁王立ちのまま溜息を吐いて、なまえは困ったように下唇を噛む。

いつも俺に何かと突っかかってくるなまえは校内でも数少ない、自ら俺に話しかけてくる奇特な人間だった。妙に絡んでくるものだから仕方なく相手をしてやるうち、いつしか高尾や周りの人間には仲が良いと思われるようになってしまったらしい。事の発端は、ある日高尾が何の気無しに「真ちゃんの友達のあの娘」という表現を用いてなまえを話題に出した時、俺が間髪入れずに「友達ではないのだよ」と否定したことにある。

「じゃあ真ちゃんとあの娘ってなんなの?」

怪訝そうな顔で問われた質問に俺は答えられなかった。分からなかったからだ。俺となまえの関係に相応しい呼称が。そうして、分からないなら当人に直接問うてみればいい。という簡潔なプロセスを辿ってあの質問は成されたのだった。なまえは何やら小声でぶつぶつと漏らしながら視線を斜め下へと逸らしたあと、目を閉じて空を仰ぎ始めている。

「……何を一人で喋っている、質問に答えるのだよ」
「ああ……えっと何でしたっけ」
「しらを切るな。"俺とお前はどういう関係なのか"だ」

なまえをここへ呼び出して最初にした質問を反芻する。なまえは瞼を上げ、何とも言えないような顔になったあとほんの少しだけ苦しげな表情を見せた。けれどもそれは束の間に消え、すぐに先程の苦い顔へと戻ってしまう。その一連の表情が何を意味しているのか俺には分からない。何故かそこで高尾ならこの微妙な心の機微も汲み取れるのだろうかという思考がよぎり、鳩尾のあたりがむかむかするような心地がした。どうしてこの状況に高尾が関係するというのか。

「……あのさ」
「何なのだよ」
「緑間は、その質問の答えを私に求めることがどれだけ酷いことかを分かった上で質問した?」

予想だにしない返答に面食らう。これはそんなに酷な質問なのか?どうしてだ。皆目分からないので少々癪だが素直に首を振ればなまえの苦々しげな表情は一層濃度を増し、いっそ哀切すら滲ませるようになった。その顔は、涙さえ流していないが泣き顔のようにも見えて、ざわざわと胃の入口のあたりが落ち着かなくなる。

「それはねえ緑間、びっくりするくらい、残酷な質問だよ、」

なまえは笑った。泣きながら笑った。遂にその両目から零れた涙がなまえの頬を伝うのを、俺は見た。およそ涙なんて流しそうもないように見える、気の強さだけが取り柄のような女が、こうも簡単に俺の目の前で涙を流している。信じがたい光景に目を見開いたまま動けなくなった俺はしばらくしてようやく口を開いた。

「なぜ、泣いているのだよ」
「だって答えられるわけないでしょ」


わたしはみどりまのことがすきなのに。


零れ落ちた震える言葉に頭の片隅へ掛かっていた霧が晴れたような気がした。何故自分がわざわざなまえを呼び出してまでこんな質問をしたのか。何故そうまでして、この関係の名前を知りたがったのか。友人という呼称を認めたくなかったのか。いつも俺にいとも簡単に論破されるお前には分かるはずもない。だから特別に、教えてやるのだよ。

そうして俺が吐き出した言葉に弾かれたように顔を上げたなまえを見て、いつもじわじわと湧き出していたこの感情が愛おしさだったのだということを知った。


(121118)



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赤司か緑間で、とのことだったのであまり書いたことのない緑間にしてみました…!彼は黒バス随一のにぶちんだと思います。
めろさん、リクエストありがとうございました!



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