アナタが笑っても、
泣いても
ワタシには…――
あなたが泣く姿すら、
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Per la vista tagliata
「ザクス…っ!!」
ばたん、と強く扉を押しのけて入ってきたのは
ワタシの愛する金髪の彼。
しかしその彼がどんな表情をしているのか…
ワタシにはわからない。
「ヤァ、ヴィンセント。
今日も素敵ですネ」
「……っ、……」
挨拶に応える声はない。
おかしいな、彼の方に視線を向けているはずなのだけど。
…まあ、あの慌てた声からして
ワタシがどんな状態なのか、彼はわかっているのだろう。
「ザクス…、
見えない…の…?」
「………エェ、殆ど。
あなたの綺麗な顔が見えなくて残念ですヨ」
「…っばか……ッ」
そんなことどうでもいい、と
泣きそうな声で彼は言う。
そんなこと?
違うな、
「ヴィンセント」
「…なに……?」
手を伸ばして彼を求めれば、それに彼が手を重ねてくる。
そのまま自分の方へ引っ張り、ベッドに押し倒した。
「、な……」
「アナタがどんな表情をしてるのか見えない
…照れてるのか、嫌がってるのか、悲しんでるのか」
ただでさえアナタは隠すのが上手いから。
見えないなんて、二重に困る。
「こんなに近くにいるのにですよ……?」
「……、…」
ああ、光が消えた。
夜光は闇にのまれて、金は黒に混じる。
こんなにも愛しいのに、
こんなにも近くにいるのに
アナタが霞むこの目に、希望など見いだせなくて。
「…見えるよ……?」
「………え、」
「僕は…あなたが見えるよ…」
そう言って、触れるだけのキス。
「あなたが僕を見失っても……っ、
僕はあなたを…探せるよ…」
「…ヴィンセント」
ああ、きっと今 彼は泣いている。
光を失いつつあるワタシの瞳の代わりに、澄んだそれを。
「ザクス…っ」
「……泣かないで、ヴィンセント」
そっと、覚束ない手を彼の頬へ伸ばす。
冷えた頬は、まだ涙を流している。
ああ、
泣いてくれるほど、ワタシを想ってくれているのだね
過去に縛られ光をもたなかった、その瞳に。
「ワタシの心には、ちゃんとアナタがいますカラ…」
アナタという、光が。
(ねえ、ヴィンセント)
(、ん……?)
(目が見えなくても…体は重ねられますよネ)
(……?!
ちょ…、ちょっと待って……!)
製作 2009.10.20
修正 2009.11.28