「おい鴉、早くしろ!」





クラムジネス奇想曲
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preoccupato






がつがつ。
コイツはよく食べる。

長い髪を気にすることなく揺らしながら、好きなものを口いっぱいに詰め込んでいく。


(肉だけで六品目だな…)


せっかくの休日だというのに、普段は食べ歩きができないからと引っ張り出され。
金は全額俺が負担する状況で今現在コイツしか食べていない。

少しは悪びれてみればいいものを、そんなことをしないのがこの黒ウサギ。


「ろーひた、はべらいろか」
(どうした、食べないのか)


…食べながら喋るな。
まあ口の中を見せないだけマシなのだが、落ち着けと言いたくなる。
もう少し女らしくできないのだろうか…。

そんな俺の思いなど知らない黒ウサギは、肉を咀嚼しながらきょとんとした表情でこちらを見ている。


「…腹が空いていない。
それと、食べてから喋れ」


そうか、と短く返し。
注意を聞いたというより気にもしていなさそうな表情で食事を再開する。

俺はテーブルに頬杖をついて小さくため息を吐いた。





「おい鴉」
「なんだ」
「次はあれがいい」


そう、キラキラと目を輝かせながら俺を見る。
指の先を辿り見れば、またもや肉料理の看板。


「………」


いつまで肉を食べる気なんだこいつ…。


「お前…飽きないのか」
「美味いからな」


ウサギは肉食獣だっただろうか。
俺の辞書には草食動物と記録されているのだが。

そんなことを考えて現実逃避をしていると、腕を引っ張って催促を続けるバカウサギの姿。


(ああもう、コイツは…)


子どものような瞳を俺にむけるな、と頭の中で文句を言う。
その眼差しには弱いんだ。

些細な仕返しにと頭を荒っぽく撫で回し、店屋に歩を進めた。





(おい、バカウサギ)
(なんだ)
(少しでもいいから野菜を食べろ、バランスが悪い)
(………。
…食べてやらんことも、ないぞっ)

2010.02.22




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