「こんにちはー!」
「おや、早いなスタン君」
「へへ♪採用されたのが嬉しくてつい♪」
「ははは、そうか」
【かけこめ☆和風喫茶】
チリンチリーン
「いらっしゃいませー!」
今日も元気に笑顔でお客さんを迎える金髪天然健康優良児のスタン。
しかし、ここは喫茶店だというのに何故か学生服の上に店のエプロンをかぶった(※着た)だけの姿。手にはおぼん。
そんな彼を指差し、丸い眼を目一杯開いて、今し方入ってきた客は口を開いた。
「あー。スタンー」
「あれ?マオじゃん、どうしてここに」
赤髪赤目の、高校生にしてはやや(かなり)小柄なマオのご来店にびっくりしているスタン。なんでここに、ということは店の名前等々を教えていないのだろうか。
「ふふー。実はリオンと帰路を共にしてるんだヨーvV」
「リオンと?珍しいな」
「ふふ、そうで「スタンに嘘を吹き込むんじゃない」
「あーリオン。いらっしゃいませー」
にこー!と向日葵さながらの笑顔をリオンに向ける。俗に営業スマイルと言うが、スタンが笑うとそんなものには見えない現実だ。
「で、リオン何しに来たの?やっぱプリン食うため?」
スタンは接客に向かない言葉使いでリオンに訊ねた。
何気なく言葉をスルーされてしまったが、リオンはスタンを横目で見やりながら言った。
「この前の朝、お前がご機嫌で話をしてたから来ただけだ。…注文はプリンだが。
それで、お前が言っていたやつはもうメニューにはなっているのか?」
そのリオンの問いに、スタンは少々首を傾げる。
しかしどうだったか完全に覚えていない(というか知らない)ようで、カウンターあたりに立っているディムロスに声をかける。
「なぁディムロス、もうなってたっけ?」
「…お前は自分の提案の現状さえ理解していないのか」
へへ、ごめんごめんと笑顔で謝るスタン。
そろそろ立ってるのにも疲れたとばかりに、椅子に座るマオとリオン。
「一昨日あたりからメニューには入っている。…まだお試し程度だがな」
「そうだったんだ!」
わあ、すげえ!といい、表情をきらきらと明るくさせている。リオンが小さく「馬鹿か」と言ったが、聞こえなかったようだ。
ディムロスは呆れた様子で、客人2人(学校では生徒)に注文は何かを訊ねた。マオはスタン提案のもの、リオンは前記のようにプリン。
ディムロスが注文を聞いている間にスタンは水を運ぶ。
そして注文が届いた頃、店に客が2人入ってきた。
お察しのとおり、ファブレさんとこの双子である。
「スタン先輩!来ましたよー!」
「あ、ルーク。ありがと!
…あぁ、いけね、いらっしゃいませだった」
ちょっと遅れてドジに気付くスタン。しかしこれが客にウケているのに、彼は気付くよしもない。
「ルークー!」
わあっ、と嬉しそうにルークを見るマオ。リオンは目で双子を追うだけで、食べることはやめない。
ルークはマオに気付いていなかったのか、「あ」と短く驚いた。
「偶然だなー。同じ席座っていい?」
「うん、いいヨー♪」
「構わない」
先客2名は賛成、双子は兄の方があまり賛成的ではなかったようだが、まさに鶴の一声、強制賛成になった。
話が盛り上がりつつある中、マオが突然話題を振った。
「ねえねえルーク、アッシュとは双子ってことはさあ、双子の神秘ってあるわけ?」
「?何それ」
「片方が怪我したらもう片方も痣か何かができるってやつだヨー♪」
そういうのがあったら運命的だよネーvと明るく笑うマオ。
しかし話題にされてる片割れのルークは軽く言い放った。
「俺からはないけどアッシュにはあるみたいだぜ」
「……マジ?」
「うん」
あるのかと聞いた張本人もかなりびっくりならしく、じーっと双子の兄を見つめる。
まあ普通、双子の神秘などないものを、一方通行ながらも持っている珍獣…いやいや、奇人がいるのだ。珍しくもなるだろう。
アッシュはアッシュで、まじまじと見つめるマオに雁を飛ばしながら訊ねる。
「……なんだ」
「ん、なんで一方通行なのかなーと思って」
「さあな」
ここに双子七不思議誕生。(というか、ただ単にアッシュが弟馬鹿なだけで電波関係なし)
そんなアッシュの態度に、ぶー、と頬を膨らませてアッシュに不服を表すマオ。
「隠すことないのにー」
「隠しているつもりもないがな」
ふん、と鼻で笑うアッシュ。
マオは納得いかなさそうだが、さすがにこれ以上食いつくこともしない。
が、愚痴はきっちりと言う。
「(ボソ)大体キミは愛想無さ過ぎなんだヨ…だから筋肉が弛んで老けるんだ」
「…あんだとチビ」
マオの密かな愚痴はしっかりとアッシュに届き、そのアッシュが普通に聞き返し…たのがマオの逆鱗に触れたらしい。
マオはアッシュに向いて更に続ける。
「チ…失礼な人だなぁっ!ルークの親父(俗に言うファブレ公爵)に見られたことがあるくせにぃっ!」
マオ、そんなこと暴露しないであげてください。(byフェニア)
それはおいとくとして、マオとアッシュの微妙な口論が始まった。
あわあわとうろたえるスタンと避難するルーク、プリンを守るリオン。仲間の反応ってこんなもんなんですか?
そこへディムロスが横入りし、
「はいはい、喧嘩は困りますよお客様」
事務的にきっちりと鎮めました。
マオはまだ不服なようだが、こんな所で補導も嫌なので大人しくなる。
「大体、笑ったアッシュなど想像に苦しむ」
「というか笑ったら雹が降るヨ」
「…人をなんだと思ってやがる」
そりゃあもちろん
「「ルークに過保護な兄貴」」
「…それとさっきの話に関連性はあるのか?」
ないですね(笑)
アッシュは頭を掻きながらため息をひとつ。
と、マオが次の人につっかかろうとした時
「はぁーい、コンニチハ。イイダコのお届けー」
店の扉を右足で蹴り飛ばし、両手で合計3つの箱を持った人物が現れた。
金髪でいつも笑顔な
「…シャルティエ」
です。(※シャルティエ双子説によりゲームでいう剣シャル)
そのシャルティエが一番に目を付けたのが(お約束通り)ディムロス達の集っているテーブル。
にこぉっ、と笑顔を6人に向け、あろうことか箱が1つのほうの腕で手を降る。
「ん、ディムロスいいとこにいるじゃないー手伝って」
手伝って?
普通に手をぶんぶん振り回すお前の何を手伝うというんだ…と顔に明記はしつつも言葉を飲んだディムロスは、軽く愚痴をこぼしながらシャルティエに歩み寄る。
「片手で全部持てるくせに…貸せ」
「えへへー、ありがと♪」
ほい、とディムロスに箱が1つ乗せられる。
持てない重さではないが、この細い腕のどこにこんな力があるのか。
もしかしたら奈良の大仏も片手かもしれない。
…と、そんなどうでもいいことはさておき。
ディムロスが荷物を持つことで、スタンもシャルティエに走り寄る。
「あ、あの、俺も持ちます」
「んー?いいよ、もう少しだしv」
「あ…はい…」
ちょっとシュンとするスタン。
そんなスタンを横目で見…ディムロスは箱の中身を(無理矢理)取り出し、スタンに向かって4つ放り投げた。
「これでも運んでいろ」
「どこに??」
「……マオ達のテーブルに、だ」
そういい、食材を運んでいくディムロス。隣を歩くシャルティエは「いいのー?」なんて笑いながら話かけている。
スタンはディムロスから放り投げられた食材(イイダコ)を持ち、マオ達の元へと帰った。
「…俺、なんか仕事してないような…」
「いいじゃん今日くらい」
「よ、よくないような…」
「いいの♪」
マオにうまくいいくるめられ、おとなしく椅子に座るスタン。イイダコをみんなに渡す。
…と、5人に4つのイイダコ。足りるはずもなく、マオが首を傾げる。
「あれ?先輩のがないですけど…」
「俺?俺はバイト中だからいらないよ」
ぐ〜〜〜。(スタンの腹の虫)
「「「「「……………」」」」」
明らかにお腹を空かせているスタン。顔をほのかに赤く染め、俯く。
すでに食べているマオはそのまま固まっていたりする。
リオンは軽く溜め息をつき、スタンにイイダコを差し出した。
「…スタン、やる」
「えぇ、いいよっ」
「プリンには合わん」
で、でもでも、とスタンはごにょごにょと言葉をあやふやにする。
「いい。食え」
「あ…ありがとう…」
おずおずとリオンの手からイイダコを取る。
「…タコ…」
スタンはじっ、とタコを見つめる。
山菜で育ってきたスタンは、タコを余り食べていない。
多分『じゃこ』と言っても疑問符を浮かべるだろう。
無言のままイイダコを一口に突っ込んでみたスタン。しかし案外デカいので半分も入らなかった。
仕方なくそこで噛み、もぐもぐと食べてみる。
…密かにみんなの注目を浴びているのにも気付かず食べる。
「……リオン!タコの中に飯が!」
「…絶対言うと思った」
イイダコ、漢字変換飯蛸。ご飯が入ってるわけではない。
そんな感じの説明をされ、スタン(とちゃっかりルーク)は目を丸く、マオはゲラゲラと大笑いしていた。
そこへディムロスとシャルティエが戻ってくる。
「……何を騒いでいる?」
「すげえよディムロス!タコの中に飯みたいなもんが入ってた!」
「…は?」
それを聞いたディムロスは、それがなんなんだとばかりにスタンを見下ろし、シャルティエはマオと同じ反応を示した。
マオは苦しいながらも言葉を発する。
「す、スタンって案外知らないことばっかだよね!」
「う…それは禁句だろマオ」
あっはっはと馬鹿笑いをする2人を前後に、スタンはいたたまれない様子で縮こまる。
ディムロスはしばらく無言で居たが、スタンの目からSOSビームを普通に見てしまい、少したじろぎながらもマオとシャルティエを鎮める。
「で。4つだった飯蛸を何故お前が食ってるんだ」
「え?あ…と、…分裂?」
「そいつは単細胞生物ではないはずだがな」
「Σうぅ…」
負けた、とばかりに涙を浮かべるスタン。一応中学三年生レベルでできる問題です。
そんな中学三年生レベルで落ち込むスタンを後目に、リオンは(まだ)プリンを食べながら言った。
「プリンに飯蛸は合わないから僕が無理矢理やった」
「…まだ食べていたのか」
「あと3つだ」
いくら頼んだんだアンタ。
「太るよー」
シャルティエも乗じてなんか言ってるし。
「…まあ、いいんじゃないの?楽しければ♪」
そんなもんなのか?
まあ、そんなこんなで今日もスタンのバイト先は
賑やかです。(強制終了)
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⇒ボツネタ
⇒あとがき