みんなから人気な、彼は

今日も僕以外のPCと出掛けているのかな。





小さなとくべつ
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ぼうっと、空を見上げる。
今日も僕は一人でエリアにいる。


(つまんないなあ…)


黄昏の騎士団も、随分復活して。
トキオはカイトみたいに、あちらこちらから呼び出しを受けるようになった。

最初は、僕やミミル達くらいだったからよくエリアに行ったけど。
最近は…あまり行ってない。

グランホエールで話はできるけど、それじゃなんだか足りない感じがして。


(………なに考えてるんだろ、僕)


バカバカしい、と思考を中断する。
想いを募らせても、叶うわけでもないし縛るだけ。
帰ってミミルのリアルトークでも聞いて暇を潰そうと、ゲートアウトをした。





「ミミル」
「ん?あ、司ぁー!」 


ヤッホー、と手を振る彼女に歩み寄る。
回復アイテムの補充をしているのを見て、エリアから帰ってきたばかりなのかなと思う。


「どこか行ってたの?」
「うん!さっきトキオとエリア行ったんだー!」
「………へえ」


このタイミングで、そんな事実。
いいな、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
羨ましがっても意味がない。
トキオは忙しいんだから、僕は用事を増やさないようにしないと…


「そういえばね、トキオが『最近司と冒険してないなぁ』ってボヤいてたよ!」
「………え…」


…と考えてる矢先に、ミミルがそんなことを言うからびっくりしてしまって。
その僕を見て、いいこと思いついたとばかりに手を叩く彼女。


「今から行けばいいじゃーん!!
まだトキオいるよ!」
「え、いや…」
「今呼ぶから!」
「い、いいよ、しなくて」
「え、ごめんもうメールしちゃった」
「もう…!?」


なんのコントだと言いたくなるほどのテンポで決まってしまった。
悪気がありそうでなさそうに笑うミミル。
僕は頭の中でどうしようとばかり思ってしまう。

だって、あまりにも久しぶりで。

あまり間をあけず、アイテム屋にトキオが現れる。
軽く挨拶をされたので、僕も軽く挨拶を返しておく。


「ミミル、何か用?」
「うん!さっきさ、司の話したじゃん?
いたから捕まえといた!」


捕まえられた覚えないんだけど…。
でもこの場から離脱してないあたり、否定はできない。

2人は暫く会話をしていたけど、ミミルの発案でトキオと僕の2人でエリアに行く話になってきた。
慌てて止めるも、ミミルの勢いには勝てず。
強引に背を押されてグランホエールを後にした。





「………」
「………」


…会話がない。
僕は気恥ずかしくて口を開けないのだけど、トキオはなんで黙ってるんだろう。

僕とだと楽しくないんだろうか。
ふとよぎる不安に、首を振って考えを否定する。

ああ、何を話せばいいのかな。
トキオと一緒なのは嬉しいんだけど。
これじゃ話題にならない。

他のPCが話していたネタを参考にしようかと思い巡らせて、ふと思いつく。


「……ねえ、トキオ」
「ん?」
「トキオって…本名…だよね」


その問い掛けに、本人は目を丸くしている。
聞いちゃいけなかったかなとちょっと不安を抱くも、彼は驚いたと笑って問いを肯定する。


「それがどうかしたのか?」
「い、いや…気になっただけ…」


ふーん、と不思議そうにする、彼。
まさか、ハセヲ達がリアルネームで呼び合っていたのが羨ましかったなんて、言えない。

でも、聞いておきながら僕のは言わないとか不公平だし
言ってもおかしくない流れだよねと、一人でぐるぐる考えてる自分がいる。

表情は変わってないと思うけど、なんだか頬が熱い。
そっぽを向きながら、投げやりな言い方で小さく呟いた。


「……杏、」
「え?」
「杏…僕の、リアルネーム…」


言って、更に熱くなってきた。
動悸がする。なんだか苦しい。
彼の顔をまともに見れない。


「杏かあー。
かわいい名前だな!」


明朗な声で、そう言う彼。
そろりと視線を向ければ、笑顔を向けてくれている。

胸に何かが、広がっていく感じがした。


「…2人の時なら、呼んでもいい…から」
「ホントか?
よろしくな、杏っ」


なんか特別な感じがする、と微笑む彼。
その言葉に対して、僕は小さく頷いた。

特別だよ、
僕にとっては、きみの名前を呼ぶことですら。





(久々で楽しかった!)
(やっぱ、回復は司って感じするなあ)
(…当たり前でしょ)
(トキオの回復は僕の役目なんだから)

2010.06.09



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あとがき