会いたい。
会いたい。

仰ぐ空は、黒かった。





一秒一秒が長いのは
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agogno






某日。昼。


「久しぶりですネ、ヴィンセント」


ひらひら。
そんなふうに手を振り僕を呼ぶ彼を視界に見つけ、
ザクス、と無意識に名を呼んだ。

がたん、と音をたてて椅子を立ち、
彼に向かって走り、抱きついた。


「会いたかった…っ」


そう心を搾る想いで告げると、彼はくすりと笑う。


「ワタシもです」


言って、僕を抱きしめる。
あたたかい感触に、僕は目を細めて身を委ねる。

13日…約二週間ぶりに触れる彼。
仕事や予定に追われて時間がとれなくて、こんなに時間が開いてしまった。

だから、こうしていられるのがとても嬉しい。

彼は続けて言う。


「お仕事、大変だったでしょう」


お疲れ様デス、と言いながら彼が頭を撫でてくれて。
その気遣いに返す言葉に詰まり、僕は彼の腕の中に埋まる。


「…どうかしました?」


頭上からきょとんとした声がする。
返事をしなかった僕を気にかけてくれたのだろう。

…別に大したことでは、ないのだけれど。


「ううん。なんでもないよ」


気にしないで、と呟くように返す。
しかし彼は何か感づいたのか、笑みを含んだ声で言う。


「気になります」


ああもう、
この人は聡くて意地悪なんだから。

そう心の中で悪態をつくが、彼には届くはずもなく。
観念して、白状する。


「…仕事…終わったけど、思うように進まなかったんだ」


その言葉に、彼は一層不思議そうに首をひねる。

…僕に聞いたことを後悔するくらい、恥ずかしくさせてあげるよ。


「あなたのことで頭がいっぱいだったから」


それを聞いて、彼は顔を赤に染めた。





(会いたい…、寂しい)
(話したい)
(抱きしめてほしい…)
(そう想うと、ため息ばかりだったんだから)

2010.01.17