『なにもできないから』
(見ぬ振りをすればいい)
『切り捨ててしまえ』
(私に火の粉はかぶらない)
そう言って無関心を決め込む世界が、僕を傷付けてゆく。
紅い涙
----------
Il mondo chiuso
「よっと」
「………扉から…入ってきてくれない…?」
昼間の突然の訪問者。
右だけの紅目に、趣向が謎の服。
馴染みとなってしまった彼は、仕事をしている僕に軽い足取りで近寄ってきた。
「まあまあ、いいじゃないですカー」
「悪くはないけど…びっくりするんだよ…?
窓からって」
ここ何階だと思ってるの、と問うが、アハハと笑う声だけが返ってきた。
「……まあ、いいけど…
なにをしに来たの…?」
「逢瀬デス」
「………僕はいつからあなたの恋人になったの…?」
覚えがないんだけど。
「やだなぁ、冷たいですヨ?」
「僕は煩い人が苦手なの」
にこ、と笑ってやる。
それに彼は「えー」とブーイング。
だって、煩わしいのは嫌いなんだもの。
嫌がられるのも嫌なはず、
なら僕に関わってこなければいいでしょう?
僕はひとりでいればいい
「…よし、じゃあ今から恋人になってくだサイ
問題ないですよネ」
「……あなた、正気…?」
このノリと雰囲気で誰が承諾するのか。
「ええ正気デスヨ。
……ワタシのモノになりなさい、ヴィンセント=ナイトレイ」
格段に落とされた声のトーンが、僕に密着して発せられる。
近すぎるその距離に、体が跳ねた。
「……やだ、よ」
「じゃあムリヤリにでもします」
覚悟してくださいね、と呟く声に、僕は勝てる気がしなかった。
(遠くから僕を傷付けてくるやつより)
(不躾に上がりこんでくるあなたのほうが)
(安心する、)
2009.09.05