あなたからもらうだけじゃ、だめなんだ

僕はね…、





僕から贈る、もの
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I sentimenti che io voglio portare






鼓動が速い。
ばくばくと激しく打つそれは、僕の頭にまでうるさいくらい響く。

まだ、彼が来てすらいないのに。


(くるしい)


初めて、に近い。
僕がこんなことをするのは。

手にもった小さな包みを、軽く口元にあてる。
気恥ずかしいというのか、なんなのか。

女々しいまでの感情に支配されて、息すら苦しくなる。

小さくため息をつけば、ノックする音がして。
無意味に勢いよく体が飛び跳ねた。


「ヴィンセント様。
ブレイク様がご到着ですが、お通ししますか。」
「あ、ああ…頼むよ」


エコーの報告に、更に動揺しだす心。
落ち着こうとしているのに、心拍数ばかりが上がってしまう。

それに気付いたのか、応答したエコーが続けて言う。


「…ヴィンセント様。
がんばったままにやれば大丈夫です。」


ちゃんと用意したのだから、そのままにやればいいと。
そう告げ、訪問者を迎えるために踵を返して去っていく。

従者に心配されるなんて、僕もまだまだということだろうか。


(……、)


やることは簡単。
そう、簡単なのだから気負うことはない。
大丈夫…大丈夫。

いくらか落ち着いたところで、再びノック音が響いた。
どうぞ、と言えば、何事もなく開くドア。


「コンニチハ、ヴィンセント」


白い彼はにっこりと笑い、挨拶をする。
その笑顔に見とれそうになるけれど、それを堪えて持っていた包みを彼に押し付けた。


「…これは?」
「…お菓子…」


バレンタインにちなんで、とは言えなかったけれど理解したらしく。
お礼と共に包みが離れていく。


「自分でつくったんですカ?」
「うん、」


彼の質問にも、何事にも
短くしか応えられない。
鼓動がうるさい。

ぐるぐると回る余計な感情を押しのけ、事前に考えた言葉を絞り出すように放つ。


「なにか、したくて」


その言葉に、彼はきょとんとした表情を見せる。

僕は顔が熱い。
慣れていないのも一因。


「されるより、したくて」


そう告げると、彼は少し間を開ける。
暫くして僕の顎は持ち上げられ、目の前には彼の瞳。


「ワタシに愛されるのはイヤ?」
「…っ違う、」


そんなことは、断じてない。


「あなたに愛されるのは、嬉しい。
でも…されないと安心できない気持ちになるのは、イヤ
だから、僕もあなたに…表現したいの」


受け身で不安を募らせるのは、愛情が足りなかった僕がそれを欲しがったから。

帰属できる場所を得た僕は、欲しがるのではなくて、僕から何かをしたくて。

愛されるより、愛し合いたいと思った。


「……もう、アナタは…」


かわいいことを言うんじゃありません、と零した彼は僕に軽く口付けた。
ぐっ、と胸が苦しくなる。
僕の心の容量を上回る、あなたへの想いがこんなにもある。

身を委ねれば一度だけ深く貪られて、離れていく。


「アナタに愛されたら、抑えられなくなりそうだ」
「だめ…?」
「イイエ、やればいいですヨ
…ワタシがもっと、愛して差し上げるだけですカラ」


ふふ、と笑う彼は、楽しそうだった。





(ヴィンセントはお菓子づくり好きなんですカ?)
(やったことない…けど、エコーに手伝ってもらったんだ)
(エコーくん…羨ましい)

2010.02.16