意思と感情がかみ合わない。

欲しい気持ちばかりが、僕を支配する…





似非渇愛
------------
Io voglio che Lei lo tocchi






「さあヴィンセント様、なんなりとお話しくださいませv」
「………えっと…」


僕はレインズワース嬢に捕まっていた。
やけに楽しそうな彼女の笑顔が、僕に話さないという道がないことを暗に示している。

ナイトレイの中庭でため息をついていた所を見られ、それがザクスのことと見破られ。
断っても有無を言わさぬテンションになっていた彼女に、自室まで連行されたのだ。

少し間をあけて、彼女が口を開く。


「何か悩んでおられたようでしたけれど」
「……まあ…」


導入におとなしく応じる。

最近、意思と感情が食い違っていて苦しい。
僕は、彼が好き。
ただそれだけで彼に好きという感情を表しているはずなのに。

彼が返してくれないと、満足できなくて心が軋む。
それはまるで渇愛のように。

見返りを求めて善意を押し付ける…
そうじゃないはずなのに、感情はその状態。


足らないと訴えかけてくる僕の心は、欲張りなんだろうか?


…そう、所々を省いて話せば
彼女は目を輝かせてこちらを見ていた。
両手を祈るように合わせている。


「ロマンですわ…!!」


何がだろう。

わけがわからず呆然としていれば、テーブル越しに彼女が僕の手を握った。


「いいですかヴィンセント様、それは悪いものではございません」
「は、はあ…」
「好きな人から愛をもらいたいと思うのは至極当然、まして渇愛かと悩む貴方に渇愛の可能性はありませんわ」


いきなり饒舌になり、熱く語りはじめる彼女。
ザクスから聞いていた乙女スイッチが入った状態だろうか…


「よろしいですか。
ザクス兄さんは変な部分に敏感ですが普通の部分には大変鈍感なのです」
「ええ…」
「ですから、言わないとあの人は気付かないと思います。言ってください」


言わない選択肢はないのか。


「…言い出し…づらいのですが」
「大丈夫です!彼はヴィンセント様にべた惚れですから遠慮はいりません」


いや、そういう問題ではなく…。


「…このままも嫌でしょう?
素直に言うのも、ひとつの手ですわよ」





その言葉に押し負けて、僕はレインズワース嬢の屋敷までひこずられるように連れて来られた。

決めたら即日決行がよろしいのよ、という彼女に勝てる気がしない。

ああどうしよう。
何を言えばいいんだろう。

案内されるままに彼女についていくと、彼がいるらしい部屋にたどり着いた。

少し対話をしていたが、待てないらしい彼女は
十秒以内に開けないと仕事を二倍にしますわよ、と脅し文句を吐いた。

さすがに嫌なのだろう、すぐに扉が開く。


「お嬢様ムチャクチャですヨ……あれ、ヴィンセント」


どうしてここに、という彼の言葉を遮るように
レインズワース嬢は僕ごと彼を部屋に倒し入れて扉を閉めた。


「ちょ…っ、何事…」
「ご、ごめん…ザクス、」
「いえワタシは大丈夫なのだけど」


何かあったんですか、と聞いてくる彼。
扉越しにレインズワース嬢の言ってくださいオーラ。

感情がまとまらない。
けれど引き返せない。

思い切って、彼に抱きついて言った。


「…寂しい、」
「うん…?」
「僕が一方的に好きみたいな気持ちになるんだ…
もっと僕に触れてほしい…」


キスでもいい、
抱きしめてくれるだけでもいい、
好きだと表現してほしい。


少しの間を開けて、彼が僕を強く抱きしめる。


「…すみません。
足らなかった?」
「……うん…」
「あまり頻繁にやるとダメかと思ってたんです
…逆だったなんて、ネ」


そう言って、唇を塞がれる。
僕はそのまま目を閉じた。





(お嬢様にはしてやられましたネェ)
(まったく…もっとヴィンセント様を押してしまいなさい)
(あの…レインズワース嬢…//)

2009.12.26