入れ替わりました(銀時⇔近藤) 銀時side壱
 
「んァ…?」
体に伝わる震動で目が覚める。
(え、車…?痛ッ…、あたま痛ェ…。)
そっか、昨日わりと無茶な飲み方したんだっけか…。
確かゴリラと鉢合わせして無礼講ー!みたいなテンションで店の客全員で暴れまわって、気付いたら路地裏で全部戻して、…っと、それから?

「目ェ、覚めたかよ?」
運転席から聞こえた低い声と煙草の臭い。
思い当たる人物は一人だけだった。
「な、んでッ、おまっ…!」
後部座席に寝かされていた俺は飛び起きてさらに驚く。
「ギャアアァァァ!ちょ、何で俺裸ァァァ!?事後か!?事後なのかコレェェェ!?おま、善良な市民に何してくれちゃってんのォォォ!!」
俺の上にはブルーシートが被せられていたらしい。
それがパサリと落ちた。
「お、落ち着け!車内で暴れんな…!!」
バックミラー越しに俺を見て、ったく、と溜め息をつくのは土方十四郎。
で…バック、ミラー…に、写ってる、のって…。

「マジでかァァァ!何でゴリラ!?俺いつの間にゴリラになっちゃってんのォォォ!!」
「安心しろ、近藤さん。アンタは最初からゴリラだ。ちゃんと一人前のゴリラだよ。」
「フォローになってねェェェ!!」

待て待て…こいつはどうなっちまってんだ…?
何で俺、あのゴリラになってんの!?
あー、頭が痛ェ…。

俺が多串君…もといマヨの野郎に連れて来られたのは税金泥棒の巣窟、真選組。
まぁ、当然といえば当然か。
今の俺はどう見たって真選組局長、近藤勲。
その頃には、もう大体の現状は理解した。
昨日の飲み屋から今朝までの間に、俺はこの姿になった。
そうだとするなら、きっとゴリラは俺の姿になってるんだろう。
俺は路地裏から連れ出されたみてェだけど、多分俺の体はまだあそこに転がってるんだろうな。
(あれ?銀さん何だか可哀想じゃねェ?)

…そりゃ、さすがに驚いたけどよ?
踏んでる場数が違うからね、銀さんは。
今の俺が、実は皆大好き銀さんでーす!、なんて挨拶したところで誰にも信じてもらえないだろうしな。
なら、やる事は決まってる。

「なぁトシ、ちょっといいか?」
「? どうした、近藤さん。」
記憶を辿り、なるべく"近藤勲"をイメージしながら喋る。
「昨日飲み過ぎて体調がちょっと…。仕事から私生活にまで支障をきたすレベルで…、悪いが少し休んでも良いか?」
「あー…、仕方無ェな。まぁ、今朝は寒かったし、いつから全裸でいたのか知らねェが、そりゃ体調も崩すだろ…。」

おやおや、意外と上司に甘ェのな、コイツ。
駄目だよー?そんな甘やかすからゴリラになっちゃうんだよー?

「すまないな。あぁ、あと…ザキを呼んどいてくれないか?」
「……分かった。」
そう頷いて、俺をしっかり部屋の前まで連れてきて、無理すんなよ、と一言。
なにあれ本当に鬼の副長?やっさしィー。
うちの神楽と新八も、もっと俺に優しくするべきだよな、うん。
俺に優しいのは真弓くらいだよ、本当。
(そういや、今日は真弓が万事屋に来るんじゃなかったっけか…?)

あ、いけね、確か依頼入ってなかったか?今日…。
依頼より真弓の事思い出すとか、どうなのコレ。
あー…、依頼は…まァ、新八が何とかすンだろ。
部下を超信頼してっからね、銀さん。
これくらい何とかしてもらわねェとな。

問題は俺の体にゴリラが入ってるってことか。
突然往来で脱いだりストーカー行為したりしねェだろうなァ?
今まで銀さんが培ってきたもの全部パァになるからね、マジで。

いや、別に培ったものがあるとか本気で言ってる訳じゃねェけど。
(そんなん見られたくねェ相手なら、いるし。)
有村真弓。
関係は所謂、幼馴染み。
攘夷戦争の現場にはいなかったが、当時の俺の事も知っている。
俺が過去を隠さなくても語らなくても済む相手は今や数えられる程度だ。

…恋人じゃねェが、好意はずっとあった。
でもそれを伝える事も、知られるつもりも無かった。
真弓が俺の事をどう思ってっかなんざ一目瞭然。
だからこそ、もうずっとこの距離を守ってきた。
いつ死んでもおかしくねェ、俺には幸せに出来そうにねェ、なんて。
それはただの綺麗事だと目を背けたのは、一番最初から。
なのに、傍に置いておきてェなんざエゴもいいとこだ。
真弓が手に入ってしまったら、嬉しさよりも、いつか失うんじゃないかという恐怖の方が勝つ気がして。
(結局、俺が臆病だっただけだ。)
体が欲しいだけなら無理に組み敷いてしまえばいいだけ、簡単だ。
…だけど、大事にしたかった。
フラグも親密度も全部完璧に条件揃ってる。
俺の心はずっと前からアイツのモンだ。
だから、真弓がもし俺の気持ちを看破してくれれば、きっと俺はそれを言い訳にして距離を詰めれンだろうと思う。

(とか思いながら、一体どんだけ経ったんだろうな…。)
早く俺が真弓をどれくらい好きなのかを見破れよコノヤロー。
さんざ溢れてるっつの!
周りの奴等のが気付いてるっつの!!

「あ゛ー、っくそ!」
畳に乱暴に腰を下ろす。
さーて、こりゃいつまでもゴリラでいる訳にはいかねェ。
原因究明と問題解決といきますか。
まぁ、原因の答えはほぼ決まってるようなモンだ。
それを調べるには、今のこの体と立場では面倒くせェ。
土方の目もありやがるから、もし何か自身で動くなら夜中まで待つ必要がある。
だから、それまでは誰かに任せるしかねェ。

と、襖の前で足音が止まり、声をかけられる。
「局長ー?お呼びですか?」
…まさしくこういう男が適任だ。
部屋に招き入れ、その姿を見据える。
相変わらず新八と負けず劣らずの地味さ加減。
しかし、いつもミントンばっかしてるコイツの仕事は、確か監察。
情報を取りに行かせるのに不足無い。
「悪いな。違法なアルコール及び食品全般がないか調査を頼みたい店があるんだが…。」
「了解です。って、局長、今日非番になったんですよね?体辛いなら、ちゃんと休んで下さいよ?」
店の場所を聞いたジミーは俺に笑い掛けてから、では夜には戻ります、と言った。
あのマヨ野郎といい、ジミーといい、ゴリラに優しすぎやしませんかコノヤロー。
え、非番って事は休み?ちょっとどころか一日休ませてくれんの?
何それ、世間の社蓄共に銀さん抹殺されたりしない?
だってコイツ、限度越えて飲んで暴れて全裸で吐いて倒れてただけなんですけど…?

「はぁ…。」
真弓、俺の事心配してなきゃいーけど…。
(いや、実際は心配してくれたら嬉しいんだけどよ?)
万事屋にも居ねェ、新八と神楽も俺がどこに居るか知らねェとなると、アイツ町中探し回りそうだ。
…昔からそうだ、そういう奴だよ、お前は。
俺が突然いなくなったり、怪我したりしてっと泣きながら怒る。
それを嬉しいと思う俺はどうかしてる。
いつまでもこんな関係でいられるなんざ、思っちゃいねェけど…。

「おーい、近藤さん。起きてるか?」
すらりと襖を開けて入ってきたのは土方君じゃないですか。
「どうした、トシ。」
「今から見廻り行ってくんだが、何か必要な物があれば買ってくるぜ?」
おやおや、自分からパシられてくれんの?
まー、せっかくの申し出を断るのは失礼だしィ?
銀さんに必要な物なんて決まってるしィ?
「何から何まで、すまないな。じゃあアイスとプリンとゼリーとぜんざい、あ、ジャンプといちご牛乳も忘れずに。」
「はぁ!?何で、そんな甘いモンばっか!?」
オイオイ、もうそれ以上瞳孔開かねェぞってくらい瞳孔開いてんだけど。
ま、さすがにゴリラ的にもそのチョイスはしねェよな、多分。
いや、でも銀さん糖分摂取欠かすと死んじゃうからね。
「昨日、酔って岩塩丸かじりとかしちまってなぁ!がははは!」
不自然が無いように振る舞う。
(あ?回答が不自然だァ?いいんだよ、ゴリラだし!…って俺、誰に話してんのォォォ!?)
コイツだって、テメーんとこの大将の行方が分からねェなんて厄介事知りたくねェだろうしな。
これは銀さんの優しさだよ、うん。
決して意地悪して、いいように使ってやろうって事じゃないからね、マジで。

「……。」
「分かった、交換条件を出そうじゃないか。」
「交換条件?」
「おう!この際だ、俺に不満があるところは改善するから言ってくれ。あー、ただし、頑張れる範囲で。」
「…マジか。」
お、何か真剣に考え始めやがったぞ、コイツ…。
これ、明日までに元に戻れなかったら俺が辛いんじゃね?
所詮ゴリラだしと思って適当言ったのがまずかったか…。
「いや!トシ!一週間!一週間だけ頑張る!」
「短ッ!!」
顎に手を当ててこれでもかってくれェ思案する野郎を見て冷や汗が出る。
え?大丈夫だよね?とんでもない事言い出さないよね?
だって、一応お前らの上司だからね、このゴリラ。
「よし、じゃあこの一週間は、まずトイレに行ったら必ず手を洗う。」
「…あァ?」
「意識飛ぶまで飲まない。人前で脱がない。志村妙との接触禁止。」
「は、ちょ…!?」
「つまり一週間は真面目に働くってな。…一週間くらい我慢してみせてくれよ。」
「お…おう。分かった、破ったら切腹してやるわ!」
マジでェェェ!?そんなんで良いの!?
お前らのゴリラは幼稚園児か何かですかコノヤロー!!
っていうか、普段真面目に働いてないだろ、この税金泥棒共め…!!
俺は口の端が引き攣りそうになるのを必死で抑える。
「…トシ?」
「あー…いや、何でもねェ。とりあえず買ってくるわ。…近藤さんは部屋でゆっくり休んでてくれ。」
「…あぁ、頼んだ。」
オイオイオイ。
今一瞬疑われなかったか?俺。
というか、部屋にいろって遠巻きに釘刺してきたな、アイツ。
さすがに完全には騙し切れないよなァ、なんて背中を見送りながら思う。


人間案外図太いもので、気付いたらうとうとしていたらしい。
外は橙色。
あれが朝なら、こんな時間まで暢気に惰眠を貪っていたという事になる。
(おいおーい、まだマヨもジミーも戻って来ないのかよ。暇すぎて銀さん困っちゃうでしょうが!)
ごろりと寝返りを打つ。
(…何の連絡もしてねェのは流石にマズイか?)
あー、アイツらの様子も気になるしな。
あと5分したら起きて電話借りっかな…。

と、その瞬間。

「御用改めであーる!!!」
部屋の襖がスパーンとでけェ音を立てて開いた。
「ちょ…、突然なに…、って真弓…?」
俺は上体を起こしながら予想もしていなかった名前を呼ぶ。
え?俺が会いたいとか思ってたから、妄想が飛び出てきちまったの?
いやいや、間違いなく真弓本人だ。
ってか、どうしてお前が税金泥棒の巣窟に現れんの!?
しかも、すぐ横にいるの俺ェェェ!?
ドッペルゲンガァァァ!!?
…あ、違うわ、あれゴリラじゃね?
勿論、中身の話な。

何故か俺をじと目で見ている真弓に、もしもーし?、と声を掛ける。
「オイ、後ろにいるの、」
「そうですよ ー。"銀ちゃん"ですよ、"近藤さん"?」
お、強調してきやがった、…なるほどな。
つまり、真弓はちゃんと俺とゴリラが入れ替わってる事情を知っているらしい。
(真弓に余計な事してねェだろうな、コイツ…。)
襖の向こう側に土方の野郎がいるのも見える。
…ふーん、内々にしたい訳ね。
ゴリラは真弓に全部任せてるらしく、俺とは思えないくらい大人しく控えていた。

……。
………あァ?待て待て。
はァァァ!?何であのゴリラ、真弓と手を繋いでくれちゃってんのォォォ!?
銀さんでさえ、まだ手とか繋いでないんですけどォォォ!?
(勿論、ガキん時以降の話な?)
何これ…。
すんげェ、イライラすんですけど。

真弓の横をすっと通り、土方が俺にコンビニの袋を付き出す。
「近藤さん、これ、頼まれてたモン。」
マジか、本当に買ってきたの!?
ちょっとだけ機嫌直っちまったじゃねーか。
驚いて顔を見上げると、相変わらずの仏頂面がそこにあった。
「そんな甘ったるそうなモンばっか食ってたら逆に体調悪化させっかもしれねェから程々にしとけよ。普段そんなの食わねェんだから…。」
何お前、俺のお母さんかなにかですかコノヤロー。
いやいや、この状況は悪くないよォ?
コイツ、今の俺に逆らえないってことだろ?
やっべ、面白ェ…。
「いやー、悪いなトシィ。非番にしてもらった上に、買い物まで頼んじまって…。明日までには治すから!」
「マジでしっかりしてくれよ。アンタがしゃんとしてないと隊士達に示しが付かねェんだからな。」
「がはは!任せろ、任せろ!!」

むしろ、こんなんで今まで隊士に示しついてんのかよ!?
江戸の警察マジで大丈夫なのか、これ。
ちらりと本人を覗き見ると、恐る恐る自分の部下に話しかけていた。
ちょ、目が泳ぎまくってっから!
銀さんの目はそんな感じじゃねーから!

「あ、あれあれー?トシ…っとと、土方くん、今日は近藤さんに優しいんですけど、何で?」
「仕方ねェだろ。俺も鬼じゃねェし、近藤さん今朝から様子おかしかったから一日休ませることにしたんだよ。」
「へ、へー…。」
「まぁ、買い物に関しては交換条件出されちまったからな。」
「交換条件?」
おい、俺にそんな怯えた顔させるな。
何で真弓もそんなに優しい目でゴリラ見てんの。
え?ていうか、いつまで手を繋いでんの?見せ付けてんの?

会話に適当に参加しながら、俺の頭ん中はもうそればっかで。
条件聞かされてギャーギャー騒いでるゴリラの話とか、あんまり耳に入らなかった。


next

 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -