入れ替わりました(銀時⇔近藤) 参
 
「……着きましたね。」
何だか時間が掛かったような気がするけど、やっと真選組に到着。
近藤さんに会ったのは午前中だったのに、もう夕刻。
(銀ちゃん、ここにいるんだよね…?)
近藤さんがそうだったように、銀ちゃんも今の今まで別の人の姿で過ごしたってこと。
きっと心細いに違いない。

「じゃあ、俺はなるべく喋らないようにしてるから、俺になってる万事屋を呼んでもらって良いかな?」
「はい! すみませーん!近藤さんいますかァァァー!?」
敷地に入って大声で近藤さんの名前を叫ぶ。
当の本人は私の真横にいるんだけど。

突然入口で声を上げたから、何人かの隊士はこちらを見たけれど。
私の横にいるのが見た目銀ちゃんだからか、誰も近付いて来ない。
真選組も実のところ、二分されている、と思う。
山崎さんみたいに「銀ちゃんに友好的な人達」と、
土方さんみたいに「銀ちゃんに非友好的(に見える)な人達」。
こっちを見てるけど、近付いて関わろうとしてくれない人はきっと後者なんだろう。
…まぁ、自分から厄介事に巻き込まれたくは無いよね。
だからと言って、ここで引き下がる訳にもいかないし。

「こーんどーうさーんー!!いーませーんかァァァ!!?」
こんだけ騒いで構ってくれなかったら暴れてやろう、そう思っていた時だった。

「あァ?うるせーと思ったら…。万事屋ンとこの…、有村っつったか。」
「あ!土方さん!」
真選組に個人的にお世話になった事は無いけど、銀ちゃんを通じて何人かは知り合いがいる。
土方さんもその一人。
そんな土方さんは、さっきまでどこかに出掛けてたのか、その手にはコンビニの買い物袋が握られていた。
「お買い物ですか?」
「ん?あぁ、ちょっと、…な。」
何かを言いかけて土方さんは言葉を止めた。
その表情には疲労が見える。
「お前らは何しに来た?…ッと、今日は静かだな万事屋ァ?何か企んでんじゃねェだろうな、あァ?」
「ははは、企んでるなんてとんでもない…。」
小さく呟きササッと視線を落とす、見た目銀ちゃんな近藤さん。
それを見て、土方さんはこれでもかってくらい瞳孔開いちゃってるし…!
銀ちゃんが喧嘩買わないなんて不審だよね、やっぱり。
「あ、の!近藤さんがお妙ちゃんとこに忘れ物しちゃって、届けに来たんです!近藤さんいますよね?」
「近藤さん本当懲りねェな…。いや、いるにはいるんだが…。」
あー…とまたまた言葉に詰まる土方さん。
「何だか調子がおかしくてな。今朝、全裸でいたところを捕獲したんだが、…これ。」
がさりと買い物袋が私の目の前に突き出される。
中身は…アイスにプリンにゼリーにぜんざい、…ジャンプといちご牛乳。
思わず、私は近藤さんを見上げる。
「確定しましたね。」
「…ああ。」


「御用改めであーる!!!」
土方さんに案内してもらって、スパーンと勢いよく近藤さんの部屋の襖を開ける。
銀ちゃんは…、いたいたいたー!!
畳にだらーっと寝そべって鼻をほじってるその仕草は、まさに銀ちゃん!
(だ、だらしない!)
「ちょ…、突然なに…、って真弓…?」
上体を起こしながら、見た目近藤さんな銀ちゃんが私の名前を呼ぶ。
近藤さんは私の事、呼び捨てにしたりしないし、今のマダオ感はまさに銀ちゃん!
っていうか、こんな真選組局長見たら、隊士さん達泣いちゃうよ…。
いや、いつもハチャメチャな近藤さんについていけるんだし、この程度何とも思わないのかな?
何て考えていたら、もしもーし?、と気の抜けた声。
「オイ、後ろにいるの、」
「そうですよー。"銀ちゃん"ですよ、"近藤さん"?」
わざとらしく名前を言えば、銀ちゃんも事情は分かったみたい。
まだここには土方さんがいるからバレちゃ駄目だし、ちょっと他人っぽく話しかける。
この時、銀ちゃんの視線がどこにあったかなんて、私は全く気付いていなかった。

「近藤さん、これ、頼まれてたモン。」
私達の横を通り抜け、コンビニの袋を銀ちゃんに手渡す土方さん。
「そんな甘ったるそうなモンばっか食ってたら逆に体調悪化させっかもしれねェから程々にしとけよ。普段そんなの食わねェんだから…。」
土方さん、何かもうお母さんですよ、それ。
鬼の副長って絶対嘘ですよ。
…でも、何となく中身を見てそうだろうなぁとは思ったけど。
(あぁ、土方さんパシられちゃったのか…。)
これは銀ちゃん、にやにやが止まらないだろうなぁ。
ほら、そういう悪い顔してる。
「いやー、悪いなトシィ。非番にしてもらった上に、買い物まで頼んじまって…。明日までには治すから!」
「マジでしっかりしてくれよ。アンタがしゃんとしてないと隊士達に示しが付かねェんだからな。」
「がはは!任せろ、任せろ!!」

(ちょ!銀ちゃん、何しっかり馴染んじゃってるの!?)
近藤さんなんかキャラがふわふわしてるのに!
何なら格好良い部分ばっかり出してきて、不覚にもトキメク始末なのに!
心配して損した!!
ムキーっとなる私の横にいた近藤さんが恐る恐る土方さんに話しかける。
「あ、あれあれー?トシ…っとと、土方くん、今日は近藤さんに優しいんですけど、何で?」
ここまで来てまだふわふわしてるなぁ、近藤さん…。
もう何者にも染まって欲しくないよ、あなただけは。
「仕方ねェだろ。俺も鬼じゃねェし、近藤さん今朝から様子おかしかったから一日休ませることにしたんだよ。」
「へ、へー…。」
「まぁ、買い物に関しては交換条件出されちまったからな。」
「交換条件?」
近藤さんが不安そうな顔をしてる。
「明日から一週間は、トイレに行ったら必ず手を洗う。意識飛ぶまで飲まない。人前で脱がない。志村妙との接触禁止。つまり一週間は真面目に働くってな。」
「おう!破ったら切腹するって約束な!」
「オイィィィィィ!!何勝手にそんな約束してくれてんの!無理だよ無理無理!一個も守れる自信無いわァァァ!!急に戻りたくなくなってきたァァァ!」
自分の知らないところで命懸けの約束をさせられてると知り、叫び出す近藤さん。
っていうか、戻る、とか言っちゃダメ!!
土方さん、ビックリしちゃってるから!
何でお前が慌てるのって顔しちゃってるから!
あと、死ぬほど難しい条件じゃないからねソレ!?
その様子を見ながら銀ちゃんが近藤さんの体なのに、死んだ魚みたいな目で私たちを見る。

「相変わらず賑やかな奴等だなぁ!…それに、何?毎日愛の狩人活動頑張ってる俺に当て付けてるのかな?"万事屋"と、"真弓"サン?」
死んだと思った目が、私の名前を呼ぶ瞬間にギラリと光る。
え、銀ちゃん、どうしたの…?
「何…を…?」
「手。」
「!!?」
言われて、自分の手を見て、心臓が飛び跳ねた。
(うそ、私ずっと近藤さんと手を繋いだままだった!?)
「二人はお付き合いしてるのかなー?…詳しく聞きたいな、その辺り。」
「…近藤さん、それ以上は野暮だぜ。」
いつの間にか煙草を咥えて煙を燻らせている土方さんが会話を断ち切ってくれたけど、空気は気まずいまま。
銀ちゃん、何だか怖い…、どうして…?
慌てて近藤さんの手を離し、小さくゴメンナサイと頭を下げた。
「えへへ、…銀ちゃん、昨日意識無くなるまで飲んでたみたいで、まだ千鳥足なんです!だから、ね!」
「そッ、そーそー!まだふわふわしてるから黙っときまーす!!」
(近藤さん、上手く逃げたな。)
もう、ふわふわキャラ確定しちゃってるもの。
それを見て銀ちゃんはうんうんと頷いて見せる。
「あぁ、なるほど!じゃあ仕方無いなァ!」
声は明るくて笑ってるみたいなのに、何で銀ちゃん怒ってるみたいな目をしてるの?
彼女でもないのに、勝手に銀ちゃんと手を繋いだから?
そういう関係に見られると困るから?
(…やだな、あんなに意識して、あんなに心配してたのに。)
近藤さんが銀ちゃんの姿で優しくしてくれるから、私一人舞い上がって。
それでも私にはいつもの銀ちゃんが一番だなんて思っちゃったりして。
あー、何か泣きそう。

「有村、近藤さんに渡すモンがあんだろ?」
「あ、…」
土方さんは本当に空気が読めるなぁ、なんて感心しちゃう。
私が泣きそうになってて、言葉が出なくなったのに、気付いてる。
その理由は知らないにしても。
きっと近藤さんに銀ちゃんとの関係を茶化されて恥ずかしくなった、なんて思ってるのかも。
(私の気持ちなんて今はどうでもいい。)
私なんかを頼ってくれた近藤さんに依頼の恩返ししなくちゃ。
銀ちゃんも、ずっと近藤さんになりきったままも大変だろうし…。
「俺に渡す物…?」
「そ、そうでした。近藤さんがお妙ちゃんとこに忘れ物してて、」
そこまで言ってヤバイと思った。
当然、忘れ物なんて持ってない。
でも土方さんがここにいる以上、そんなことは言えないし。
「と、届けに、来たんだけど…。」
どうしよう。
何て言葉を続ければ良いのか分からなくて頭が真っ白になる。

その様子をじっと見ていた銀ちゃんから怒っていた目が色が消える。
「あぁ!ハイハイ!アレか!無いと思ったらお妙さんのところにあったとはなぁ!」
突然、まさかの銀ちゃんからの助け船。
「いやー、助かったよ!じゃあ、あっちで受け取らせてもらおうか!」
「……え?」
銀ちゃんはすっと立ち上がって私の背中を押して廊下に出た。
「あ?近藤さん、どこに…。」
「トシィ、察してくれ。俺がお妙さんのところに忘れるものなんて、そりゃもう人に見せれないものだから!恥ずか死するから!真弓サンがそれ臆せずに持ってるとこなんて見たらお前ら全員ムラムラ死するから!」
「「ちょ、何言ってんだァァァ!?」」
近藤さんと土方さんが綺麗にハモった。

「あ、アイスは冷凍庫に入れといてくれ。あと…、ザキが戻ってきたらすぐ呼べ。」
「……分かった。」
銀ちゃんに背中を押されながら廊下を歩く私が振り向くと、溜め息を付きながらも土方さんがアイスをしまいに行くのが見えた。


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