#1.神様…私が何をしたというの…!
 
青く晴れ渡る4月始めの空。
風は少し冷たいけど、お日様の温もりが気持ち良い。
昨日もこんな天気だった。
だから、今日も昨日と同じような一日になるはずだった。

そう思い込んでいた私は、目の前の事が現実のものではない気がして、受け入れられないでいる。
「何…これ……。」
自分の家を見て、やっと出た精一杯の言葉はこれだけ。
そう、私は家を空けていた。
といっても、父が残っているので留守にはしていない。
私が体調の悪い祖母の様子を見に、病院に泊まり込んだのが昨日。
たったの一晩、家を空けただけだった、のに。
私の家の周りには数台のパトカーが止まっていた。

「オイお前、ここで何をしている?」
「!」
突然後ろから低い声で呼ばれ、振り返ると黒い服の男の人。
あれ、この制服は、確か…。
「真選組の人、ですか?…あの、これは一体…。」
「あァ?女子供には関係無、」
「副長ォ!一頻り家の中は調べました!ちょっと来てくださいー!」
会話を断ち切るように、私の家から見知らぬ男の人が現れて、目の前の男の人を呼ぶ。
「チッ…。」
副長と呼ばれた彼は舌打ちをしてから、私の存在など無視するように家に上がり込んだ。

どうして…、何でうちに真選組が!?
火事では無いみたい。
じゃあ、空き巣?
それにしては大袈裟な気がする。
…父は無事なんだろうか?
ざわつく胸を押さえ、私は近くにいた亜麻色の髪の隊士に声を掛ける。

「あ…、あの、ここで何があったんですか…?」
「あ?何って…平たく言やァ、虐殺でさァ。」
「ぎゃく、さつ……!?え?今、何て…?」
「だーかーら。この家の家主とその他大勢が死んで、俺達は後始末してんでィ。アンタは?近所の人?」

淡々と告げられた言葉に頭が追い付かなくて、質問に答えられない。
家主とは、恐らく私の父のこと。
(父が死んだ?…なんで?)
私には母はいない。
父と二人暮らし。
(虐殺なんて言うんだから、死んだ、じゃなくて、殺された…?)
一体何故。
身に覚えが無さすぎる。

質問の答えを返さなかった私に、亜麻色の髪の隊士が再び口を開いた。
「…それとも、この家の関係者?」
「!」
その声に急に現実に引き戻される。
気付いた時には背筋に冷たい汗が流れていた。
(怖い…。目付きが、さっきと全然違う。)
関係者だったら、何だというのだろう。
さも、虐殺を起こしたのが父であるような言い回しに腹が立った。

「私は、」
「おーい真弓ちゃん!買い出し手伝っておくれー。」
私の言葉を遮るように、遠くから呼び掛けてきたのは隣に住んでいる親戚の叔父さん。
私の父の弟にあたる人だ。
「真選組のお兄さん、すまないねェ。うちの子は好奇心が強くていけねェや。」
がはは、と豪快に笑うと私の背中を押して自分の後ろに隠すように立った。
「何、お宅の娘さん?こんな物騒なモンに興味持つなんて、どういう教育してるんでィ。」
「すんません。よーく、言い聞かせときます。御勤めご苦労様です。」
そのまま私の頭を押さえて、亜麻色髪の隊士の子に会釈をさせた。
私は訳が分からないまま、手を引いてくれる叔父さんに連れていかれた。

「叔父さん…。突然、何、」
「すまねェな、真弓ちゃん。…落ち着いて聞いてほしい。」
私は叔父さんの家に上げられ、先程の事を問い質す。
叔父さんには小さい頃から可愛がってもらってる。
もう一人の父みたいな感覚ではあるが、今日みたいな態度は初めてだ。
「お前さんの親父は、…攘夷組織のリーダーだった。」
「!? え、そんなの、全然…。」
「もちろん、世間的には桂一派が有名だが、アンタの親父もそこそこ攘夷志士の中では有名なのさ。」

私の父が、攘夷…?
つまり、つまり、それって…!!

「昨夜の出来事だ。攘夷の会合があの家で行われ、どこかから情報を得た真選組が、一網打尽にした。」
「…!」
「君のお父さんから、今回の会合はとても意味のあるものになる、と聞いていた。内容は知らないが、きっと真選組にとっては良くない内容だったんだろう。」
「何を、言っているの…?」
「パトカーが来るずっと前、真選組が君の家に出入りしていた目撃情報があるんだ。あれは完全に計画されていた。逮捕に留まらず斬り捨て、その上何かを調べているなら、他に繋がりのある人間をだ。」
「どうして…。」
「つまり、真弓ちゃんが娘だと知られれば、それだけの理由で殺せる奴等だ。…暫く、あの家には近付かない方が良い。」
全身から力が抜けて、その場に座り込んだ。
こんなの、まるで現実味が無い。
「嘘だ……、っ!」
脱力した体のまま、呻くように呟いた言葉は自分の声じゃないみたいだ。
「父がっ、何をしたって言うんですか!?言葉で!話せばっ、父だって、分かっ…!…な、んで、何で、殺されなきゃ、ならないんですか…ぁ…っ!!」
気付いたら両目からボロボロと涙が溢れてきた。
こんな事、叔父さんにぶつける感情じゃないのは分かっているけど、止められない。

もう、父はいない。
家にも帰れない。
私は素性をバラせない。

神様…私が何をしたというの…!

「正直、隣で、同じ有村姓の俺のところに真選組が来るのも時間の問題だろう。真弓ちゃんには、隣町にアパートを用意してある。…もし、こんな日が来た時の為に、アンタの親父が準備していたんだ。」
辛いのは私だけじゃないのに…。
それなのに私の心配をしてくれている。
「さぁ、急いだ方が良い。何かあれば力になるから。……元気でな。」
そう言いながら、叔父さんは私に地図と少しだけ中身の入ったお財布と御守りを入れた小さいバッグを持たせてくれた。
「…あ、ぁ…ありがとう、ございます…っ…!叔父さん…も、お元気で…!」
震える声で精一杯感謝を伝える。
もうここには戻れないのだという現実が、受け入れろと私の中に流れてくる。
「さよ、…なら…っ!」
深くお辞儀をして私は家を出た。

未練を振り切れず、私は足早に自分の家の前を通る。
玄関を覗き見れば、きっと一人分では足りない量の血痕が見えて、息が詰まった。
「…っ、…ぅ…。」
涙で視界がボヤける。
こんな所で泣くわけにはいかないのに。
「…、あ、オイッ!!」
「!」
パトカーの影から出てきた男と目が合う。
先程、副長と呼ばれていた人だった。
私は瞬間的に逃げるように走り出していた。


隣町までは電車は使わず、歩いて行った。
私の中にぐるぐるとある思いが湧く。
(必ず、仇は取る…。)

真選組。
正攻法では無理かもしれないけど。
…いつか。
その復讐心のみだけが、私を前に進ませていた。


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