入れ替わりました(銀時⇔近藤) 弐
 
町内会剣道大会会場につくと、試合は既に神楽ちゃんの番になっていた。
定春の試合結果は…、うん、まぁ無効試合だよね。
「弱っちぃアルな!定春、仇は取ってやったアルよー!」
試合を終えた神楽ちゃんが控えていた定春に飛び付く。
…でも、待って?
神楽ちゃんが持ってるそれ、竹刀じゃない…。
近藤さんもポカンとしてる。

「え、と…。新八君?これはどういう…。」
「二試合は捨て試合にして残り三試合で頑張ろう作戦ですよ。銀さんが言ったんですよ?」
相変わらずといえば相変わらずだなぁ銀ちゃん。
「あ、次は僕なんで!銀さん、ちゃんと準備しといてくださいよ?」
そう言って新八君は試合に必要な物一式を持って、依頼人の元に銀ちゃんの到着を知らせて準備を始めた。
(依頼人の人、すごい華奢な男の子だなぁ…。)
眼鏡瓶底だし、背は高いけど運動は得意じゃなさそうな印象。

「近藤さん、あの…。」
「心配しなさんな。今は万事屋だから、ちゃんと依頼は応えるさ。」
「良かった…、ありがとうございます。」
「ははは、真弓さんは万事屋達が大切なんだなぁ。」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
もうそういう歳じゃないんだけど、これがキュンとしてしまうわけで…。
駄目だなぁ、どう見ても銀ちゃんなんだもん。

「あ、新八君の試合が始まりますよ!」
決して大きい会場じゃないけど、客席は全部埋まってる。
ぐるりと見回せば、なるほど、本当に自由な大会みたい。
プロ、アマ、老若男女、天人、何でもあり。
大会概要は『剣道と判断できれば良し』のみ。
(な、なんてメチャクチャな大会なの…。)

「ふむ…。さすが道場の子だな。」
感嘆の声を漏らす近藤さんを見上げて、視線を新八君に移す。
風を切った竹刀が的確に相手の面に降り下ろされる。
一瞬会場はしんとなり、一気に歓声が湧く。
万事屋チームの初勝利だ。

「すごいすごい!新八君、勝ちましたよ!」
近藤さんの両手を握ってぶんぶん振っちゃうくらい私は興奮していた。
(新八君、万事屋のお仕事しながらも稽古頑張ってるんだなぁ、すごいなぁ…!)
「あ、の!真弓さん!?は、激しい…ッ!」
「! あ、っと…。ごめんなさい、嬉しくてつい。」
気付いたら手を握りしめて急接近してたみたい、ふと見上げた先は銀ちゃんの顔。
(ち、近い近い…!!)
そう思ったのは近藤さんもだったようで二人で照れ合う妙な状態になった。

「銀ちゃん、何してるアルか?発情するなら試合終わってからにするヨロシ!真弓もヨ?」
「ちょ、神楽ちゃん!?」
いつの間にか私達の横には酢コンブをくちゃくちゃ言わせてる神楽ちゃんがいた。
「よ、よーし!試合頑張るぞー!万事屋さんだから、頑張っちゃうぞー!」
近藤さんすごい目が泳いでるんですけど…、嘘付くの苦手そうだなぁ…。
そうこうしていると試合を終えた新八君が駆け寄ってきた。
「新八君、お疲れ様!すごかったよ!私、感動した!」
「あはは…真弓さんにそう言ってもらえると何だか照れます。」
はにかみながら、新八君は後頭部に手を当ててガシガシ掻く。
この仕草は銀ちゃんもよくやっていて、伝染ったのかな、なんて思う。

「銀さん、頑張って下さ…って、いや、無茶やって相手に怪我させても困るし、明らかに手を抜いても失礼だし、…えぇと、」
「…ああ、試合う相手には敬意を持って全力で向き合うさ。それが礼儀だからな。」

「「……え?」」

新八君も神楽ちゃんもポカンとしている。
(しまった、銀ちゃんはこんな真面目なこと言わない!)
いや、言うんだけど!言うんだけどね、ここぞって時は!
「っ、銀ちゃんだって、たまには良い事言うもんね!ね!?」
「お、ぁ、おお!言う言う!銀さんは真面目な事言います!銀さんは剣道大好きです!銀さん、試合も頑張りマス!」
私が名前を強調して振れば、近藤さんは目を泳がせまくりながらそう答えた。
っていうか、近藤さん、まさかそれ、銀ちゃんのつもりですか?
全然違いますよコノヤロー。
名前連呼するとか、物真似界ではタブーですよー。

そそくさと逃げるように立ち去ろうとした近藤さんが突然足を止める。
「あ、忘れないうちに。新八君。」
くるりと振り返ったその顔はまた真剣だった。
「姿勢も構えも、馴染んでよく身に付いてる。これは相当量の鍛練の賜物だ。太刀筋が乱れたのは実践経験による反射だから心配しなくてもいい。安定させるなら重心はもう少し下、…あ。……と、銀さんは思いマシタ。あれ?作文?ってことで行ってきまーす!」
逃げるように試合に向かう近藤さん。
「銀、さん…?」
「何か今日おかしいアルな、あの天パ…。」
首をかしげながら二人は近藤さんの背中を凝視している。
いつも一緒にいると分かるんだよね、きっと。
見た目が同じだって、中身別物だもの。

「ふ、二人とも!銀ちゃんの試合始まるよ!」
話題を変えてみたけど、試合を見つめる二人の顔がますます怪訝になる。
「ど、どうし…、」
私も二人から視線を外し、近藤さんを見る。
そうして、私は一瞬呼吸を忘れてしまった。
いつもの気だるそうな銀ちゃんとも、たまに真面目にしてる銀ちゃんのそれとも違う。
(綺麗…。)
真っ直ぐの立ち姿、視線、そして剣捌き。
基本もここまで極めれば、きっと芸術と呼べそうだ。
動きのひとつひとつが丁寧で美しい。
それは恐らく会場の全員がそう感じていたのだと思う。
誰しもがそれに目を奪われていたのだから。
普段の真選組局長としての実践的な剣ではなく、道場の模範的な動き。
気が付いたら、試合は終わっていた。
静寂を塗り潰す、割れんばかりの拍手と歓声。
「すご…。」
どちらとも付かず、新八君と神楽ちゃんが言った。

「す!すごいですね!坂田さん!」
誰よりも試合に興奮しているのは依頼人の男の子だった。
「はっはっは!いやいや、相手もなかなかの猛者だったよ。」
(近藤さんって、もう銀ちゃんを装うつもりないよねコレ…。)
「憧れます!僕なんて家が厳しくて運動に関われなくて、剣道も通信教育でしか…。って、これもう言いましたね。」
(通信教育って上達するのかな?相手がいないわけだし…。)
親にバレるとダメなら、道場にも通えないもんね。
だからこそ、この色んな人がいる大会なのかな?

何事にも挑戦する事は素晴らしいと思う。
それは前に進む事、今より先に進む事。
…私は、ずっと大事な事を先延ばしに放置しているから、本当に尊敬する。

「誰かと剣を交わしたことは?」
「先程、新八さんに、少しだけ。」
「…ちょっと構えて。」
依頼人に構えさせて、その姿勢を直していく。
「うん、なるべくその姿勢を意識して。維持はしなくていい。動けなくなる。」
「…は、はい!」
「あと、相手は恐らく君より強い。だから、遠慮はいらない。せっかくリーチがあるんだ、手足は思いっきり伸ばせ。」
「分かり、ました!行ってきます!」
近藤さんにトン、と背中を押しされて彼は試合に向かった。
「近藤さん、今の…。」
「ああ、付け焼き刃だが無いよりはマシだろう。」
「…今の、全く銀ちゃんぽくなかったです。」
「マジでか!?」
そういえば、近藤さん、どこかの道場にいたんだよね。
何だか懐かしそうだもん。
さすがに武装警察になってしまった今は、そうそう一般の大会には出られないだろうし。

大将戦ということで、やはり現実は甘くは無かった。
試合は残念ながら負けてしまって、二勝三敗でチームは予選敗退。
「坂田さん、今日はありがとうございました。アドバイスこれからも実行しますね!」
「あぁ、頑張れよ!」
負けてしまったけれど、依頼人の男の子はすっごく晴れ晴れとした笑顔で、見てるこっちがお礼を言いたくなるくらい。
どうやら親を説得出来たら本格的に剣道を始めるらしい。
その時は是非うちに!と新八君が宣伝していた。

そんな心暖まる光景を見ながら、軽い溜め息をひとつ。
(近藤さん、すごいなぁ…。)
何だか銀ちゃんじゃないのに、しっかり万事屋なんだもん。
やっぱり伊達に真選組局長じゃないんだなぁ…。
優しいし、真面目だし、一生懸命だし。
ちょっとストーカーなとこあるし、かなり露出癖あるけど。
(でもさ、でも。)
銀ちゃん…何してるかなぁ…。

「さて…。真弓さん、そろそろ…。」
「あ、はい!」
「どうしたアルか?銀ちゃん?」
「今日何だかおかしかったですし、…困ったことがあるなら僕らにも言ってくださいよ。」
詰め寄る二人。
ずっと一緒に銀ちゃんと行動をしている彼等を誤魔化すのはもう無理かも。
(入れ替わってるなんて話が漏れれば大変なんだよね、近藤さんの立場的に。)
でも、この二人なら大丈夫じゃないかな。
そう思って、ちらっと近藤さんを見上げる。
バチッと目が合うと近藤さんは、任せとけ、みたいな顔をした。

「そーそー。銀さん、今日おかしいの。ずっとムラムラしてっし、真弓と二人きりになりたいわけ。こっからは大人の時間だから。子供はここで解散でーす。気を付けて帰りやがれコノヤロー。」
ぐいっと肩を抱かれる.
(…って、え?近藤さんだよねコレ?)
やれば出来る子だったとは…って、違う!
やめてー!恥ずかしいー!二人の教育に良く無いー!って私、お母さん!?
「さ、ささささ最低だよ何言ってんだアンタ!!」
「不潔アル!天パが伝染るネ!!」
本日一番の銀ちゃんっぽい言動だけど、二人からの評価は最悪の様子。
いや、この場合はきっと大成功なんだけど。
「そ、そうなの!銀ちゃん今日おかしいから私が病院に連れてくね!うん、よし、行こう銀ちゃん!」
肩に回された手を掴んで会場を後にする。
遠くから、真弓気を付けるアルよー!、と神楽ちゃんの声が聞こえた。

「真弓さん、…怒ってる?」
「え?」
「さっきの万事屋を想像してみたものの、自分でも流石に無いかなぁ、とは…。」
「あ、や、銀ちゃんっぽかったです!二人の反応も上々でしたし!」
「何か万事屋に同情しそうなんですけど…。」
「同情するなら依頼をくれーって言いますよ、きっと。」
そう言って笑い合う。
繋いだ手はまだ離さない。

分かってる、中身は銀ちゃんじゃない。
でも、滅多にこんなチャンス、無いし。
あー、何で今日に限ってこんなに銀ちゃんのこと意識しちゃうの!

このドキドキを振り払うように、少しだけ早く歩いた。


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