#1:この人は王子様だ、なんて
 
「好きです!!」
「…はいはい。」
「愛してます!!」
「…そりゃ、どーも。」
「大好きです!!」
「…遠慮しまーす。」

むむ…、なかなかに手強い。
でも大丈夫!
今のが100回目だったから!
くらえぇぇぇっ!!!!

「101回目のプロポーズ!結婚してください!!」
「もう帰れェェェ!!!」

かくして、私のプロポーズは失敗に終わった。
三度目の正直なんて嘘だ。
だってこれ、もう連続三日目だもん。
はぁ、と溜め息を吐く私と、何故か同じように溜め息を吐く私の好きな人。
何てこった!以心伝心ですねお揃いですね!!

「毎日毎日飽きねェな…。つーか、今ので何でいけると思ったか逆に知りたいわ…。」
「えっ!銀時さん、私の事知りたいの!?嬉しいっ!!」
「違ェェェ!!何なのそのポジティブ!!」

私の好きな人、坂田銀時さん。
ここかぶき町で万事屋をやってる、何と社長さんなのです。
やだ私ったら将来は社長夫人かぁ…なーんて!
いやいや、私は働く奥さんでいたいから、今の仕事を辞めるつもりはないけど。

「つか、お前仕事中だろうがよ。サボってんじゃねェぞ、コラ。」
「えぇー!せっかく運命的に出会えたのにぃ!!」
「何が運命だ!パトカーで俺に突っ込んで来やがって!危うく銀さん死ぬとこだっただろうが!!」
「突っ込むとか、そんな銀時さんったら!!えっち!」
「ちょ、何で頬染めて…って、バカヤロー!何勝手にエロい方に妄想始めてんだ!!お巡りさーん!変態がいますぅー!!…っつーか、テメーも見てねェで止めろマジで!!」

パトカーの助手席に座っている人物を睨む銀時さん。
だけど、その人物からは当然のようにリアクションは無し。
だって許可取ったもーん!

「やだ銀時さん…!私とは目も合わせてくれないのに、何で副長ばっかり見つめるんですか!変態!!」
「変態はお前だァァァ!!早く見廻り行けコノヤロー!!」

トンッと背中を押されたかと思うと、銀時さんは脱兎。
は、早い…あれじゃ追い付けそうにない…。

「…もう気は済んだか?」
「んー。まだ足りないけど、我慢します!」

パトカーの運転席に戻り、土方副長に頭を下げる。
毎朝毎朝、沖田隊長のバズーカ襲撃で起きるらしく、最近とても寝不足のご様子。
それがそろそろ深刻らしく、明日の朝の快適な目覚めを約束したから、真選組の規則そのものを体現したみたいな副長の前で今みたいな暴挙が出来たわけです。
ちなみに私は明日の朝、沖田隊長が副長を襲撃する前に寝込みを襲います。
副長にはきちんと目覚ましで起きて頂く、これが約束内容。

真選組には基本的に女はいない…事になっている。
女中さんとか身の回りの事をしてくれる人はいるけれど。
私は、それこそ道場破り的に真選組に入隊した。
生まれた時から攘夷戦争に参加する事を前提にした剣術だけの人生。
私をそう育てた両親はその攘夷戦争で消息を絶ったのだけど。
結局私は一度も戦場に立てないまま、攘夷戦争が終わってしまった。
剣術しか無く、親もいない。
だから刀一本で生きるしかなかった私は、用心棒や傭兵や賞金稼ぎもやった。
実践でも申し分ない実力はあると思う。
…そう、だから私は真選組に来た。
自分がどこまで通用するのか試したかったのもあった。
そして隊士たちを薙ぎ倒してる最中、沖田隊長に取り押さえられた。
今考えたら無謀だったとは思うけど、剣術では沖田隊長に次いでいる、という評価を貰って今もここにいる。

実は銀時さんとの出会いも真選組のおかげ。
数日休み無く、ただただ浪人の張り込みをしていた私の横に気配もなく現れた銀髪。
「なァ、お前顔色悪ィぞ?ちゃんと生きてっか?」
「うるさ…、私は、」
言いながら視界がぐにゃりと歪み、
「危ねェ…!!」
私は見ず知らずの銀髪に抱き止められていた。
どうやら私が思っていた以上に体は緊張とか消耗とか、限界だったみたい。
その時に、この人は王子様だ、なんて思っちゃったのだから仕方ない。
そのまま意識を失った私を放置せず、張り込みも続けてくれた銀時さんは本当に紳士だ。
目覚めると(すごく渋々だけど)コンビニ袋からプリンを取り出して私にくれた。
あの時は隊務就きたてだったから、睡眠も食事も蔑ろになってて。
それに気付いたのが、同じ真選組じゃなくて、通りすがりの銀時さんだった。

それが、私と銀時さんの最初の出会い。
通りすがりだった彼は名乗りもしなかったし、私も名刺なんか持ってないし、この恋は今だけのものだって思ってた。
けど、どうやら真選組と銀時さんは何だか腐れ縁みたいな関係で、その後も会う機会に恵まれた。
その度に、ちゃんと食ってるか?、とか声を掛けて貰ったりして。
そりゃ好きになっちゃうよ、こんな優しい人なんだもの。

…まぁ、勿論ある程度の距離感があったからの優しさではあるのだけど。
だから今みたいに頻繁に、ほぼ毎日会えるようになると、銀時さんの私への対応はどんどん雑になってきた。
(最初は「好きです」って言ったら、顔真っ赤にして「か、考え直せ!」って狼狽えてくれたけど、今は「はいはい、どーも」だもんね。)
銀時さんは積極的な女性が嫌いらしい、というのは、万事屋の眼鏡君からの情報。
だけど、銀時さんが私の事を好きって言ってくれない以上、私から言うしかないじゃない…。

「副長、恋って切ないですね…。」
「…食堂の戸棚に差し入れの苺大福があるから我慢しろ。」
「さすが副長…!あはは、元気出ました。」

正直、ちょっと辛くなってきてるのが現状。
私が追って追って、銀時さんが拒否して拒否して…、それがもうずっと続いてる。
私も内心ではどこか気付いてる、これは叶わない恋なんだって。

「うぜェけど、やめる必要ねェよ。あれはお前なりの挨拶なんだろ?」
「…ですね。っていうか副長、女心分かりすぎじゃないですか?好きになりますよ?」
「お前が野郎の事を諦められるンなら、どーぞご自由に。」
「ふふっ、屯所戻ったらお茶淹れて差し上げます。」
副長は世間では鬼なんて呼ばれてるけど、厳しいだけで冷たい人とは違う。
部下の面倒見も良いし、…あ、上司の面倒見も良い。
自由すぎる上司と部下をまとめられるのは本当に彼くらいだろうなぁ。
仕事中に私情を挟むなとは言いつつも、今だって部下の相談に乗っちゃってるし。

…それなら、もうひとつ相談したい事が私にはある。
「あのー…副長。私もそろそろ斬り込みに参加したいんですが…。」
そう。
腕っぷしを買われたはずの私はまだ、大きな戦闘には連れて行ってもらえていない。
これは多分、土方副長の優しさの一種なんじゃないかと思う。
なので、私の今の主な仕事は女でしか立ち入れないような現場の見廻りだったり、検挙だったり。
基本的に刀を使うような場面にならないものばかり。
牽制の為に抜刀した事はあるけど、本当にそれだけ。
「人斬りかお前は!…物騒な事言うンじゃねェよ。そうそう斬り込みがあって堪るか。」
「……先週、ありましたよね?何で私も連れて行ってくれないんですか?私の実力なら足を引っ張らない自信はあります!あ、斬るなと言うなら峰打ちも得意ですよ!」
「…ンな事ァ、隊士なら全員知ってる。必要ねェと思ったから連れて行かなかった。それだけだ。」
「……。それなら、私は最初から真選組に必要じゃないじゃないですか…。」
私には、腕っぷししか無いんだって。
可愛げも教養も何も無い、剣術しか取り柄が無いのに。
「…必要かそうじゃねェかは、お前が決める話じゃねェよ。…ッこら、運転中に俯く奴があるか。」
わしゃりと髪をかき混ぜられる。
実力が足りてるのに連れて行ってもらえないのは、私があくまで女だからだ。
…悔しい。
誰よりも戦える自信があるのに。
人質になんてならないし、万が一なったら自刃する覚悟だってあるのに。
私の命は、真選組に捧げてるのに…。

「…傷付きました。副長の分の苺大福も下さい。」
「簡単に傷付いてんじゃねェよ、バーカ。…最初からそのつもりだ。ついでに茶も淹れてやろうか?」
「う…、お茶は私に淹れさせて下さい…。生意気言ってすみませんでした。斬り込みに呼んで頂けるよう精進します。」
「お前にはお前にしか出来ねェ事をやってもらってる。…真選組には馬鹿しか居ねェんだから、あんま難しく考えんな。」
うーん、難しく考えるな、か…。
でも考えちゃうんだよ。
銀時さんの事も、真選組での私の役割の事も。
恋も仕事も上手くいかないんだから、考えない方が難しい。
難しく考えない事が難しいように考えちゃう…ってあれ?混乱してきた。

まぁ、今は苺大福の事だけ考えよう。
待っててね、苺大福。


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