入れ替わりました(銀時⇔近藤) 壱
 
「銀ちゃんと近藤さんが、入れ替わったぁ!?」
「ちょ、声が大きいよ!真弓さんッ!」
むぐっと私の口を大きな手で塞ぐ銀ちゃん。

万事屋にでも寄ろうかなと散歩の途中、裏道を歩いていたら呼び止められた。
そして、助けてください!、なんて叫ばれて。
誰かと思ったらふわふわの銀髪がすぐ後ろにいた。
それは、今まさに会いに行こうと思っていた人物。
しかも、え?あの銀ちゃんが私に頭を下げてる!?なんて驚いたのもつかの間。
話を聞くと、目の前の銀ちゃんは銀ちゃんじゃないらしい。

「いやぁ、でも地獄に仏だよ。この姿で屯所には戻れないしな…。どうしようかと思ってたんだ。」
眉を下げて困ったように笑う。
姿はもちろん、声も表情も全て銀ちゃんの物なのに、中身だけが違う。
「昨日は万事屋と飲み屋で遭遇してな。気付いたらこんな姿になってしまって…。俄には信じ難いが万事屋も俺と同じような状態に違いない。」
「本当に、近藤さん…なんですか?」
突然、体が入れ替わったなんて言われたって信じられるわけがない。
きっと、それは本人が一番そうに違いないけれど。
「そうです、私が近藤です。」
「いやそれ変なオジサンだから。」
ふふっと笑ってみると、近藤さん(見た目は銀ちゃん)がにこりと笑う。
「真弓さんは小動物みたいで可愛いなぁ。万事屋が構いたくなるのも分かる気がするよ。」
近藤さんは、さらっとそんなことを言うけど私の心臓は爆発寸前。
(かかか可愛いって!あの顔と声で可愛いって!)
銀ちゃん本人の口からは出てこない言葉なだけに、感動も並みじゃない。

今なら!普段銀ちゃんがやってくれないこともやってくれる!?
わぁ、すごいチャンスだよ、これ!
不謹慎?でも、ちょっとだけ!ちょっとだけだから!

恐る恐るお願いをしてみる。
「こ、近藤さん!ちょっとしゃがんでもらえますか?」
「? こう?」
しゃがんで私を見上げる近藤さんの目は何ていうかピュア!
今は上目遣いになってるし、死んだ魚みたいな目も澄んでる気がする。
これが俗に言うキュン死にですか!?
「そうです、そうです!…失礼します。」
そう言って勢いよく頭をわしゃわしゃ撫でる。
今日もふわふわ天パですねコノヤロー。
「ちょ、あ、真弓さん?な、何して…?」
銀ちゃんだったら怒るんだろうけど、近藤さんはされるがまま。
ストーカーとかゴリラとか散々言われてるけど、良い人なんだよね、基本的には。
「えへへ…普段なかなか触らせてもらえないんですよねー。満足満足!」
「あれ?二人は付き合ってるとばかり…。」
「好きは好きなんですけどねー。幼馴染みですから、何と言いますか、恋人に限りなく近いなにかです。」
「それはまた…難儀な…。」
私が頭から手を離すと、近藤さんはスッと横に並んで立った。
立ち姿勢のせいかな。
すごく銀ちゃんがしっかりしてるみたいに見える。
(あれ?私の普段の銀ちゃんへの評価低いなー…。ごめんね銀ちゃん。)

「あらぁ?そこにいるのは真弓ちゃんと銀さん?」
あ、やばい。
多分、今一番会っちゃいけない人だ。
「お妙ちゃん!え、買い物の帰り!?う、うん。横にいるのは銀ちゃんだよ!?」
「そんなに慌ててどうしたの?まさかデートだったかしら?」
くすくすと笑うお妙ちゃんにつられて、はは、と乾いた笑いを溢す。
心配になって近藤さんを見つめると、あぁダメだ…目がハートマーク。
銀ちゃんってこんな顔も出来るんだ…見たこと無いんですけど…。
「お、おたおたおたお妙さん!今日も綺麗ですね!まさに天使!」
「ど、どうしたの銀さん。悪い物でも食べたんですか?急にそんな本当の事を言うなんて…。」

もやもや。

「俺は真実しか言いませんよ!世界一あなたを愛している事も!!」
「え…えぇ!!?」

もやもや。

珍しく完全にお妙ちゃんが押されている。
そりゃ、銀ちゃんの口からそんな言葉が出たらフリーズしちゃうよね。
「真弓ちゃん…、本当に銀さんどうしたの?脳みそも砂糖付けになってしまったの?」
「あ、や、えっと…。そ、そうなの!今日頭パーンしてるから!」
近藤さんの脇腹をど突く。
うッと小さく呻いた近藤さんを見ない振りして、私は笑う。
お妙ちゃんは、頭パーンはいつもの事よね、と言いながら私達に手を振りながら去っていった。

「近藤さん!今は銀ちゃんなんですから、とりあえずそれっぽくお願いします…!」
「うぐ…。すまない、つい条件反射で…。」
申し訳なさそうに頭を垂れる近藤さんを見て、私もちょっと反省。
…今の、お妙ちゃんに嫉妬したのかな、私。
(彼女でもないくせに、私。)

いつも一緒にいる。
それが当たり前になっている。
きっと銀ちゃんもそう思ってる。
だから私達の関係は特に発展もせずに、ずっと現状維持。
不満がある訳じゃないけど、満足もしてなくて。

「真弓さーん?大丈夫か?」
心配そうに私を覗き込む近藤さん。
銀ちゃんの紅い瞳がとても優しい。
(あーもう、意識したくないなぁ、こんな時に…。)
深呼吸をしてから、近藤さんを安心させるように笑う。
「大丈夫です!さて、これからどうしますか?」
「まず、屯所に行こうと思う。万事屋もそこだろうからな。」
「あれ?さっき屯所には戻れないって言ってませんでした?」
「俺一人じゃ戻れないけど真弓さんがいれば安心だから。」
どういう事ですか?と聞く前に大体は察することが出来た。
確かに土方さんには会えないよね、その姿じゃ…。

なるほど、なるほど。
つまり、私が近藤さんを連れて屯所に行けば良いのか。
で、近藤さんの姿になってる銀ちゃんを呼んでもらって、って、あれ?
「何で銀ちゃんが屯所にいるって分かるんですか?」
「あー…。昨日はお互い泥酔して路地裏で吐いて倒れてたら、明け方にトシが連れて行ってしまってな。」
「えぇ!?」
「寝ぼけて夢でも見てるのかなー、なんて思って寝返り打ったら、廃棄された鏡でこの姿になってるのを知ったんだ。」
そう説明して、近藤さんは突然わあっと手で顔を覆う。
「俺、全裸だったし、飲むなって言われてたし、こんなの士道不覚悟で切腹言い渡されるゥゥゥ!!っていうか、もう俺この世にいないかもしれないィィィ!」
「こ、近藤さん落ち着いて!この世にいなくなってるの、それ銀ちゃんだから!」
これは急いで元の体に戻してあげないと。

…とは、都合良くいかないわけでして。

「銀さーん!!ちょ、こんなとこで何してるんですか!もう時間ですよ!」
息を切らしながら駆け寄ってきたのは新八くん。
「こんにちは、新八君。…あの、時間って?」
「あぁ、真弓さん…。今日は町内会剣道大会の助っ人の依頼を受けてて…。って銀さん、もう大会始まりますから!急いで!」
「ちょ、え、新八君。俺は万事屋じゃ…、」
「いいから!今、定春が頑張ってくれてますから!」
「犬が剣道大会ってどういうことそれェェェ!!?」
「先鋒、定春。次鋒、神楽ちゃん。中堅、僕。副将、銀さん。大将、依頼人って決めたでしょうが!!」
「何そのカオスな団体戦んんん!!?」

慌ただしく新八君に引きずられる近藤さんを見て、それがいつもの光景に見えるんだから、さっきまでの話が嘘みたい。
「銀ちゃん、必ず迎えに行くから大人しく待っててね…。」
ぽつりと呟き、私は二人の後を追った。


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