【トラソルと銀の檻】
 
「おはよ、真弓。よく眠れた?」
「…………っ。」

目覚めてすぐの頭で必死に考えた。
声の主は、坂田銀時。職業、万事屋。
私との関係は…何だ?顔見知り?
だけどそれは表向きの関係。

ちなみに私は、有村真弓。職業、真選組監察。
山崎さんの後輩に当たる。

私はとある人物の身辺調査を任されていた。
それがこの男、坂田銀時…いや、白夜叉。
今はただの一般人だが、彼の過去を思えば、危険因子とも言えなくはない。
変わらず攘夷浪士との繋がりもあるようで、もしまたその道を歩むなら斬り捨ても許されている。
山崎さんは監察の仕事の範囲で構わないと言ってくれたが、私は白夜叉の今を見極める為に接触を試みた。


最初の接触は依頼人を装った。
内容は失せ物探し。
『財布だァ!?ンな大事なもんならキッチリ紐着けて首からぶらさげてなさい。』
お客様である私に対しても、そんな態度を取っていた。
良くも悪くも、白夜叉の性分は人によって形を変えたりはしないようだ。
驚いたのは、ふざけているように見えて、依頼はしっかりとこなしてくれた事。
暫く見付からないようにと裏路地の溝に隠していたのだが、数日で見付けられてしまった。
『もう大事なモン手放すンじゃねェぞ。』
ぶっきらぼうな態度に優しさが見えた気がした。
私が接触した感想や、その後聞き込みをした近所の評判もそんなに大差は無い。
白夜叉は間違いなく一般市民として、この町に根を張っている。
依頼が終わり、次からは尾行と監視。
直接会ってみたが悪人ではないと思った。
ならば、もう幕府転覆などと言わないだろう。
この任務は問題無く終わるはずだ、…終わるはずだった。


「まさか真弓が、四六時中俺の事で頭がいっぱいだったとは気付かなかったわ、銀さん。」
薄暗い室内でニヤニヤと笑いながら私に近づいてくる白夜叉の姿を見て、任務の失敗を悟った。
(拘束されてる…。)
壁に背を預けて地面に座り込んだ体勢の私の腕は重力に逆らい宙に吊るされていた。
体の自由がきかないと分かった私は虚勢を張るしかない。
「この、下衆が…!」
「あらら、女の子がそんな言葉使っちゃいけませーん。…ま、散々俺を監視してくれちゃって寝不足みてェだし大目にみてやっか。」
そう言って、鎖で縛られ吊り上げられている私の手首をなぞる。
「っ、触らないで!」
「ハイハイ元気があってよろしい。」
そう薄ら笑いながら、白夜叉は私の手首に唇を落とす。
舐めて、吸い上げて、歯形を付ける。
…屈辱だった。
少しでも脱出の手がかりがないかと目だけで周りを見回す。
どうやらここは使われていない倉庫のようにも見える。
(ありえない。)
こんな場所がかぶき町のどこにあるのか、私は把握していない。
もしかしたら地上ではなく、地下の可能性がある。
期待はしていなかったが、どうやら人の気配は無さそうだった。

一体どうしてこうなったのか、私には分からない。
確実なのは、私の調査がバレている事、それが白夜叉の逆鱗に触れたのだろうという事だけだ。
いつ気付かれた?
土方副長や沖田隊長みたいに顔が知られるような配属でも無いのに…。
そして、考える。
白夜叉が私を捕まえた理由を。
「…白夜叉。私の正体を知って捕らえたんでしょ?……何が望み?」
真選組である私を、監察と知った上で捕らえたのだろう。
恐らく欲しいのは情報。
私から情報が取れなければ人質として取り引きをするつもりだろう。
…そうなれば、足を引っ張ることになる私は沖田隊長がきっと始末してくれる。
皆の荷物にならなくて済む。
その事には少しだけ安堵する。

「真弓。」
「…………は?」
突然呼ばれた名前に、それが先程の質問の答えだとすぐには分からなかった。
「欲しかったんだよな、お前が。俺の調査とかどーでもいいわ。いくらでも個人情報くれてやるよ。だから銀さんと清く正しい男女交際しませんかァ?」

何を言っているんだろう。
清く正しい男女交際?
そんな事をこの状況で本気で言ってるの?
…いや、分かる、知ってる。
この男の本心がそれじゃない事も。

「ふざけないで!こんな事をして許されないわよ!今が真っ当なら見逃すなんて甘かったのよ、だって危険人物に変わりないんだから!」
「……ククッ、正論。」
声のトーンが下がった。
歪んだ笑みで白夜叉は私の顎を掴んで掬い上げる。
鍛えているとはいえ、やはり真正面からの力の差はどうしようもない。
白夜叉は静かな低音で言葉を続ける。
「だが、危険人物に接触してきたのはそっちだぜ?それは自己責任ってモンだろ。なァ?」
「ッ、離して…!!」
私の顎を捕らえていた手がゆるゆると頬を撫でる。
顔を逸らせない代わりに、私はせめてもの抵抗に白夜叉を睨む。
「…ハハッ、その顔最高。俺の加虐心をすげー刺激するわ。…早く欲しい。」
うわ言のようにぼそりと呟いた白夜叉の赤い瞳が妖しく光る。
(やっぱり、この男は危険人物だった…!)
放っておくと何をするか分からない。
私も、無事に逃げられるか難しくなってきた。
「じゃあ、その加虐心とやらで早く私を殺すといいわ。その程度じゃ真選組は崩れたりなんかしないんだから。」
「そう言われっと萎えンな…。ま、本心じゃねーみたいだからいいけ、どッ!」
「!」
私の頬を撫でていた手が首に掛かる。
ギリギリと首にめり込む白夜叉の指。
「……っ、」
息が出来ない。
目の奥がチカチカする…、意識が霞む。
(死ぬ…のか、私…。)
呆気ない終幕。
(大丈夫だ、定期報告を怠れば真選組の誰かが異常に気付く。きっと山崎さんが気付いてくれる…。)
そして、私が任務途中だった白夜叉の件だと分かるはずだ。
犬死にはしない。
私は自分が死ぬことで、白夜叉を正式に捕らえる理由になれる。

「……こんなもんか。」
突然、白夜叉の手が私の首から離れる。
「!! ぁがっ、…は、……っ!」
急に肺に飛び込む空気に体が追い付かない。
噎せ返って、涙も唾液も零れるが拭うことさえ許されない。
(死ななかった…。この男、何を考えて…?)
呼吸が整わない私の様子をただ死んだ魚のような目で見ているコイツは、人間の姿をした鬼なのだ。
「…そそるな、ソレ。」
「…、…っく、………っ腐れ外道が…!」
「恐いねェ、そーいう口は塞いでやろうか。いや…お前本気で噛み千切りそうだしなァ?」
私が舌打ちをすると、白夜叉は愉快そうに喉を震わせる。
拷問が始まるかもしれないと予感した。

白夜叉は、私の隊服の襟元を掴むと勢いよく左右に引き裂いた。
ブチブチと布の繊維が切れていく音が耳に付く。
突然の出来事に声を上げることも出来なかった私の視界の端で、ボタンがいくつか転がり落ちたのが映った。
「…!」
「叫ばねェのな。…ま、心意気だけは褒めてやるよ。」
白夜叉は破いた隊服を広げて曝け出された肌をじと、と見る。
品定めをするようなそのしぐさに不覚にも体が震えてしまう。
「震えてる…。」
確認するように白夜叉はそう言い、妖しい笑みを深くする。
白夜叉は私の頭を壁に押さえ付け、首筋と鎖骨に顔を寄せた。
這わされる生温かい感触。
それが舌だと分かると全身がぞっと冷たくなる気がした。
舌先は存分にそこを這い回った後、そのまま左胸の上部で止まり、…思い切り歯を立てた。
「いッ…!!」
まるで獣のよう。
刀とは違う、鈍いような鋭いような痛み。
白夜叉の歯が、私の肉を抉る感覚。
「……これも我慢すンだ?頑張るねェ。」
「………ッ…。」
あぁ、もういっそ気を失えたら。
ちらりと噛まれた箇所を見ると、歯形がくっきり残り赤く鬱血していた。
それを見て、改めて思い知る。
白夜叉はいつでも私を殺せるのだと。

「早く声聞かせて欲しいンだけど…。ま、お楽しみはこれからって事で。」
「…なっ、何を、……!?」
私が言うより、白夜叉が下着ごと隊服のズボンを引き下げる方が早かった。
ひやりとした冷たい床の感覚が下半身全体に広がる。
「嘘、……ゃだ、ッ!」
「へェ、これは有効か。…可愛いねェ、顔真っ赤にしちまってさァ。」
白夜叉は混乱する私に構わず靴と纏っていた衣類を全て剥ぎ取り、ニヤニヤと私の顔を見上げる。
…ただでは殺してもらえないらしい。
きっと感情のままに暴力を振るわれて犯されて、心ごと殺すのだろう。
真選組では男も女も無かったのに、ここにきて自分が女であることが悔しい。
「嬲り殺しにでも、するつもり…?」
「どうだろうな。殺すつもりはねェしィ?」
「……は?」
この男は何を言ってるんだろう。
あぁ、そうか。
私に情報を吐かせてもいないし、人質として使えると思っているのか。
それに私を辱しめた後、なおも生かし続けるのなら、なるほどそれは惨たらしく殺されるよりも私には堪える。
しかし、何が目的で白夜叉はこんなことをするのか、確信がない。

白夜叉は私と目線を合わせて、至極真面目な顔で言った。
「言ったろ?俺はお前が好きなんだよ。真弓を俺でいっぱいにして、俺のモンにしてェの。」
「……まだそんな事を、」
「だがまぁ、そこに真弓の気持ちは関係無ェんだよ。銀さん、ちゃーんと現状把握してっから。別に愛じゃなくていい、憎悪でも恐怖でもいい。真弓の頭ン中が俺でいっぱいになればいい。もう…手に入れば、何だっていいんだ…。」
白夜叉の赤い瞳が妖しく深く光って揺れる。
(この瞳から、目が逸らせない。)
私の思考が一瞬止まった隙に、白夜叉は開かせた私の両脚を抱えて距離を詰め、そのまま首元に優しく噛みついた。
「とりあえず時間はたっぷりあンだし、仲良くしよーや。な?」

そう言って私を見つめるその紅い瞳に、優しさを感じてしまったなど、恐怖で頭がおかしくなったのかもしれない。
(どうして、)
白夜叉の言葉は信じることが出来ない、演技だと思う以外の答えが見つからない。
なぜなら。
(私は白夜叉と依頼以外での面識がない。ここまで執着される理由がない。)
…分からない、理解出来ない。
過去を探られてここまでするか?
今の生活を守る為にここまでするか?
私が好きだとしてここまでするか?
情報が足りない、私は混乱している…。

首元に押し当てられた唇は鎖骨を通り、胸、臍と下に痕を残していく。
「ぁ、…んッ、…、…や、めろ…っ!」
「ンな声出されて止めてやると思ってんの?ククッ、煽ってんだろ、お前。」
白夜叉はペロリと自分の唇を舐めて欲情の色の瞳で私を見る。
「感じてんなら素直に、気持ち良い、って言った方がお互いの為だぜ。」
言いながら、するりと何も纏わない秘部を指で撫でられた。
「…!!」
動けない私は指が往復する感覚を受け入れることしか出来ない。
ぞわぞわと体が震える。
それが恐怖なのか悪寒なのか快楽なのか。
すべてが綯い交ぜになったような感覚だった。
滑りが良くなったのか、つぷ、と指が深く沈む。
思わず息を飲んだ私の反応を見て、満足そうに口の端を引き上げる白夜叉を睨む。
「は、ッ、……変態、…ぁ。…殺す、……殺して、…っ、やる…ッ!」
流れてくる涙は屈辱か、快楽か。
白夜叉は中に沈めた指の数を少しずつ増やす。
「きつ…。」
「お前の、っ思い通りに…なんか…ッ、」
声に覇気がなくとも、抗わなければ駄目になりそうだった。
「ハハ、それ堪んねェわ、銀さんドSだから。…調教し甲斐ありそーで、なッ!」
「ひぎ…、ぅ……ッ!!」
「ほーら。しっかり声出せよ?体の方はこんなになってンだから、認めちまいな。」
その頃には私の耳にも自分の水音が聞こえてしまって、耳を塞ぎたくても塞げない悔しさに首を横に振る。
「狂って、る……っ!」
「……言ってろ。まァ、好きになってくれ、なんて今更言えねェし?…俺に捕まっちまったンなら、諦めやがれ…ッ!」
白夜叉の指が、私の深い部分を犯す。
長くて骨張った指は明確な目的を持って私のナカを這い回った。
「ひゃ…ぅ…、んんッ…、ゃあ、ぁ、…っ!」
「…やべェな。真弓の声だけでイけそうだわ、俺。我慢出来ねェ。…も、挿れっか。」
白夜叉はずるりと指を抜き、私のモノで濡れた指を見せ付けるように舐め上げる。
正直、目を背けたくなるような光景。
そんな私にお構い無しに、白夜叉は熱を帯びた自身を取り出し私の秘部に押し当てる。
「ぁ、…ッ待、て……、嫌、だ…、…。」
「却下。」
言うと同時に白夜叉のそれが私を貫く。
指とは比較しようもない質量と熱に呼吸が上手く出来ない。
声を我慢する余裕なんて無かった。
「…っ、…あ、ぁぁ…ッ、はぁんっ、…んぁ…ッ!」
「すげー…最高…っ!やっとひとつになれたな。ククッ、もう一生手離してやるもんか…。真弓は、俺のモンだ…!」
誰にでもなく白夜叉は笑う。
その間も動きは速度を増し、絶頂へと追い詰められていく。
「は…、ぁん、…ああ、あんっ、…!」
「っく、何つーエロい体なんだよ、お前…。も、このまま出すぞ。」
「ば、馬鹿…ぁ、…それ、だけは、…許し、…あぁッ!」
「孕んだら、本当に俺のモンに、なるな…。ククッ、悪かねェな、それも。」
「や、だ…。おねが、…あんっ、ぁ、」
ぞっとするくらい歪んで、けれど綺麗に笑う彼には、もう私の言葉は届かない。
…最初から、私の言葉なんて、届いていないけれど。
「…ひ、…ぁあ!…ゃ、ッあぁぁ!!」
「真弓、愛してる…、ッ!」
私は達して痙攣を起こす体の中で、白夜叉の熱が流れ込んで来たのを感じながら、ゆっくりと意識を手放した。


カチャリと冷たい音がして、真弓の拘束が解かれる。
しかし、意識を失った体は重力に応じてそのまま崩れ落ちた。
「白夜叉、ねェ…。」
その瞳からは先程までの妖しさは消えていた。
銀時は濡らしたタオルで真弓の体を丁寧に拭きながら呟いた。
「…真弓、俺は死ぬまでお前を手離さねェ。だから、選択肢は二つ。ここにずっと囚われ続けるか、…」
そこまで言って、ふと銀時は言葉を止める。
『は、ッ、……変態、…ぁ。…殺す、……殺して、…っ、やる…ッ!』
思い出したのは真弓の言葉だった。
「…違いねェ。お前は俺を殺さねェと、もう自由なんて無ェんだよ。」
あまりにも悲しいその声音は、本人には届くことは無い。
「好きだ、…信じてはくれねェだろうがな。」
忠誠を誓うように銀時は真弓の手の甲に唇を落とす。
「覚えちゃいねェだろうが、あの日から、お前が俺の全てになったんだ。…触れたら壊すのは分かってた。だから、そうならねェようにしてきたのにな。」
零れた笑いは、苦くて痛い。
「…どうして、俺に接触してきたのがお前なんだよ、真弓…。」
その過去が真弓に明かされることはないだろう。
言ったところで覚えてもいないだろう些細なことだった。
けれど、銀時にとって全てだったのだ。

体を綺麗に拭き終わり、意識があるうちには実現しないだろう真弓の唇にキスをする。
硝子細工でも扱うかのように優しく丁寧に。
小さく、ん…、と反応する真弓を見ると、人並みの罪悪感が湧く。
「銀さんの死亡、真選組による粛清、真弓の解放…。もう、どう転んでもバッドエンドしか残ってねェって、分かってたのにな…。」
それでも、手に入れたかった。
銀時はもう一度だけ真弓に口付けをして、その体に自分の着流しを掛けてやる。

「もう後には退けねェんだ。」
ぽつりと呟き、何か吹っ切れたように、また歪んだ笑みを浮かべた。
「な、真弓…。マルチバッドエンドの最終回まで付き合えよ。それまで、たっぷり可愛がって愛してやるからな?ククッ、ハハハハ!」
歪んだ笑みから零れるのは、狂った笑い声。


人を愛する事は、命を掛ける事。
自分の立っている場所が間違えた道だと気付いたとしても。
壊れた想いは誰にも止められない。
それが破滅の道でも。

「…おやすみ、真弓。良い夢を。」


end

 
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