【君にリップクリーム】
 
「んー、唇が乾燥して痛い…。お妙ちゃん、何か良いリップクリームってある?」
「そうねぇ…。じゃあ、今から買いに行きましょうか?」
甘味処でお妙ちゃんと抹茶スイーツなんて食べつつ、ショッピングしつつ、女子らしい休日を送っています。
え、銀ちゃん?
今日はお妙ちゃん優先だから間に合ってます!
いや、どうでもいいって訳じゃなくて…。

銀ちゃんのスキンシップが最近激しくて、ちょっと冷静になってもらおうかなって。
最初は愛されてるなーなんて惚気で済んだけど、最近は一度抱き締められたらもう梃子でも離さない!って感じで。
一回だけ、もう銀ちゃんの好きにさせとこうって放っておいたら、離してくれないし隙あらばキスだしで…うん。
え?やっぱりこれって惚気なの??


ドラッグストアのリップクリームコーナーは色んな会社の色んな種類が並んでいる。
「わ、これ美味しそう!スペシャル苺サンデー味だって!こっちはチョコバナナクレープ味!!」
「真弓ちゃんったら。それ食べ物じゃないから!」
お妙ちゃんのツッコミをもらいたくて毎回このやり取りしちゃうんだよね。
えへへー、と笑いながら、さて比較比較!
「そう言えば、この間買ったリップクリームはもう使ったの?」
「あー…うん、使ったというか、食べちゃったというか…。」
「真弓ちゃん!リップクリームは食べ物じゃないって何回言ったら…!」
「わ、私じゃないよ!?銀ちゃんが、だよ!?」
「………え?…え、人としてどうなのかしら。彼女が使うリップクリーム食べるとか、最早変態通り越して異常性癖だわ…。」
「わー!ごめん、違う違う!そうじゃなくて!!」
危うくお妙ちゃんの中の銀ちゃんのイメージを損なうところだった。
いや、どんなイメージなのかは知らないけれども。

「私が使ってたのいちごミルク味だったでしょ?」
「そうだったわね。」
「銀ちゃんがね、真弓から旨そうな匂いがする、って塗ったそばから舐めてくるの…。」
「……。」
「それを繰り返してたら、消費が激しくて。」
あれ?お妙ちゃんが氷の女王みたいな顔をしてる…。
その顔のままリップクリームを端から端まで睨むように眺めて、ニッと笑った。
「真弓ちゃん、私、唇の乾燥を防ぐ良いリップクリーム見つけたわ。」
私の手に一本のリップクリームを乗せてお妙ちゃんは満面の笑みを浮かべた。


「私の家じゃないけど、ただいまー。」
「おー、いつかお前の家になるから、おかえりィー。」
万事屋の玄関を開けると銀ちゃんが私目掛けて飛び付いて来た。
「もー…大袈裟。お土産にプリン買って来たけど、食べる?」
「食う食う!…っと、その前に、こっちも。」
ずいっと銀ちゃんの顔が近付く。
「あっ、…い、今は駄目!待って!」
「無理デース。いただきます。」
私の制止も虚しく、銀ちゃんの唇と私の唇が重なる。
「………………んん!?」
私からパッと離れた銀ちゃんは怪訝そうな顔をしながら、唇をじっと見つめている。
「ぎ、銀ちゃん…?」
「おまっ…、これ……。」
銀ちゃんは舌先で私の唇を何度かなぞる。
リップクリームを付けるとよくされる事だけど、うーん、くすぐったい。
「ぅぐ…ッ、辛ェ……!!」
そんな恨みがましそうな目で見られても困りますー。
「だから、今は駄目って言ったのに…。」
「真弓ちゃんんん!?どういう事これェェェ!」
私はポーチに入れてあったリップクリームを銀ちゃんに見せる。
「……マジかよ。」
私の手に握られているのは『激辛トウガラシ味』のリップクリーム。
付けている本人としては割りと無臭だし、カプサイシン効果が何とか〜って、お妙ちゃんが勧めてくれた。
注意書としては、口に入れると辛いです、みたいな事も書いてあったけど。
「最近、唇がすごく乾燥してるから、これを四六時中塗っておけば治るってお妙ちゃんが。」
「お妙のヤロ…っ!」
銀ちゃんが奥歯をギリリと噛み締める音が聞こえた気がした。


「あれから、どう?」
「お妙ちゃんすごいよ!すぐ唇の乾燥治っちゃった!」
今日もお妙ちゃんと甘味処に来ています。
そうでしょう、と言わんばかりにお妙ちゃんは頷きながら続ける。
「銀さんは何か言ってた?」
「んー…、最近は恨みがましそうな目でリップ睨んでるけど…。」
私がそう言うと、お妙ちゃんは満足そうに笑う。
「唇をよく舐めてたら逆に乾燥するじゃない?真弓ちゃんのは原因それよ。」
「えっ、私そんな癖無いけどなぁ…。」
「でしょうね。キスで天パが感染るものじゃなくて本当に良かったわね。」

…んん?
と、言う事は、原因は銀ちゃんのキス!?
確かにこのリップクリームに変えてから銀ちゃんのスキンシップが減ったかも。
(減ったと言っても、これでやっと普通くらいだけど。)
っていうか!私の悩みってただの惚気だったの!?

「お、お見苦しいところを…。」
「良いのよー。あ、ここは真弓ちゃんの奢りね?」
にっこりと笑うお妙ちゃんは、それはもう綺麗で。

その後『激辛トウガラシ味』を使い切った私が、また唇の乾燥に悩まされるのは、もう少しだけ先のお話。


end

 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -