【20cmキス×0cmラブ】
 
じー。
「もしもーし?真弓チャン??」
じー。
「あの…、そんなに見つめられっと、銀さん穴開いちゃうんですけどー?」
はぁ〜…。
「ちょ、何で溜め息!?」

買い出しの帰り道、私と銀ちゃんは並んで歩いていた。
少し離れてる時はあんまり気にならないんだけど、ぴったり横に並ぶと分かる。
(銀ちゃん、背高いなぁ…。)
それはそれで良いの。
不満があるのは私の身長。
銀ちゃん177cmに対して、私は神楽ちゃんと近いから、その差は大体20cm以上。
別に具体的に何かに困る訳じゃないんだけど。

もう一度銀ちゃんを見上げる。
「真弓ー?ンな口開けたまんまの無防備な顔してっと、銀さん大人のチューしちまうぞ?」
「馬鹿!セクハラ!天パ爆発しちゃえ!」
「銀さん泣きそう!!」
もちろん本気で言ったわけじゃないけど、私はそのままプイッと目線を下ろす。

銀ちゃんは私に甘い。
お世辞じゃなく溺愛だし、猫可愛がりだし、何なら初孫が出来たおじいちゃんか!ってくらい、私に甘々だ。
何なら今も荷物は全部銀ちゃんが持ってくれてて、両手はいっぱい。

…でもね、恋人なんだよ?
(たまには私からキスしてみたいと思うのは変なのかなぁ…。)
という欲求不満みたいな考えが湧いたのは、猿飛さんが銀ちゃんにキスを迫ってるのを見たからだ。
猿飛さんは美人だし、スタイル良いし、身長もあるもんね。
まぁ、銀ちゃんが突っぱねてるの見て安心しちゃう私も私なんだけど…。

私の身長では、どう背伸びをしても、銀ちゃんの唇までは届かない。
むー…。
しゃがんでって言うのも何か悔しい気がする。
こう、不意討ちみたいなのしたいんだよね。
(それも猿飛さん見て思ったんだけど。)

はぁ、と溜め息ひとつ。
銀ちゃんは私なんかの溜め息ひとつでもオロオロする。
大事にされてるんだなっていうのは分かるよ。
私も銀ちゃん大好きだから嬉しいし。
でも私から見たらお似合いなんだよね、銀ちゃんと猿飛さん。
もちろん銀ちゃんを譲る気なんて無いけどさ。

カンカンと万事屋に続く階段を上る。
後ろから、真弓ー、と銀ちゃんの声。
(あ、考え事してて銀ちゃん放置してた!)
くるりと振り返ると、目の前にしょんぼりした銀ちゃんの顔があった。
あ、目の高さが同じ!
階段を先に上った私の方が銀ちゃんを見下ろすみたいな感じになる。

…突然したら、怒られるかな?
でも、たまには私から好きを伝えてみたい。
銀ちゃんの頭を一度撫でてから、そのまま頬に添える。
「真弓…?…、……っ!?」
軽く触れるだけのキス。
銀ちゃんが言う大人のチューには程遠いけど、自分から出来て私は満足!

…って、あれ?

「銀ちゃん?顔真っ赤だよ?」
あの銀ちゃんがたった一回のキスで耳まで真っ赤とか!
いつものセクハラ天パモードはどこに行っちゃったの!?
「…っ、馬鹿ヤロッ…、段差使ってとか、反則だろ……!」
「えー!?」
こんなに狼狽してる銀ちゃんは珍しい。
「放置プレイの後に戯れのキスとか何なの?焦らしプレイか?銀さん調教するつもりですかコノヤロー!」
「…ご、ごめんなさい?」
「ぐ……、銀さん真弓が好き過ぎて死ぬわ、確信した。」
「えっ、私より先に死んじゃやだよ?」
「……。」
あれ?銀ちゃん俯いちゃった…。
「あ、えっと、たまには私から銀ちゃんにキスしてみたいなって思いまして、階段上ってたらついチャンスだと…。」
「…………とりあえず、うち入るぞ。」
「え、…うん。大丈夫??」

残りの階段を上るとすぐに万事屋の入り口。
カラカラと扉を開けて、両手が塞がっている銀ちゃんを中に入れてから扉を閉める。
「大丈夫じゃねェわ…。」
「え?なに?」
扉に手をかけたまま振り返ると、荷物を横に置いて腰を下ろしている銀ちゃんが私を見上げていた。
「もっかいして?」
「え…、えぇ!?」
銀ちゃんは悪戯っぽい顔をしてるのに、その目は真剣。
いつもは銀ちゃんからだから、改まって求められると恥ずかしい。
立ったままの私と、座ってる銀ちゃん。
そろりと目線を合わせるようにしゃがむ。

「………………やだ。」
「おぅ、………はい??」
「本日の営業は終了しました。またのご来店をお待ちしております。」
「ちょ、オイコラ24時間営業にしやがれェェェ!!」
「あーもう!改めて言われると恥ずかしいの!!」
ドンと銀ちゃんを突き飛ばす。
突然の事で流石の銀ちゃんも後ろに倒れたのを確認して、上に乗る。
銀ちゃんが目を見開くのと同時に、唇を重ねた。
「…臨時営業しましたよ。……満足ですか、このやろー?」
「………………死にそう。」
「えっ、何で!?」
「恥ずかしいって言ってんのに、そんな体勢でチューとか、銀さんドキドキさせて殺す作戦ですか、マジで。」
た、確かに私、今銀ちゃん押し倒してる感じになってる…。
冷静になると随分大胆な行動に出ちゃったっぽい。
いやぁ、勢いとは恐ろしい。
あ、ついでだから、頭撫でちゃおうっと。

「ねぇ、銀ちゃん。私、銀ちゃんが想像してるよりも、もっと銀ちゃんの事好きだよ。伝わった?」
「!」
銀ちゃんは、あーとかうーとか、言いにくそうにした後、乗ったままの私を仰ぐ。
「俺も、真弓に言わなきゃなんねー事がある。」
「うん…。」
「何と銀さん!発情期モードに入りましたー!」
「? …は?………ゃ、嘘っ!?」
「嘘じゃねェし。そんな散々煽られたらもう我慢出来ねェし。もうムラムラが止まんねーから!」
わ、わー!何か知らないうちに銀ちゃんの変なスイッチ入ってる!
「だ、ダメダメ!待て!伏せ!お座り!!」
「俺は犬か!!つか、待ったし伏せてるからお座りは出来ませーん!!…ま、いーけど?"飼い犬に手を噛まれる"かもな?」
銀ちゃん、目がマジモードだ…!
格好良い……って、そうじゃなくてッ!!
とりあえず、銀ちゃん落ち着け―!
「き…きらいに、なるよ?」
「……はぁ、…そりゃ逆らえねーわ。」
やれやれと呆れた風に笑う銀ちゃんに乗ったまま抱き締める。
銀ちゃんはその大きな手で、私の背中をぽんぽんと撫でてくれた。

結局銀ちゃんいつも私を最優先してくれる。
本当に甘いなぁ…。
銀ちゃんになら、何されても大丈夫なんだけどなぁ、本当は。

よっ、と銀ちゃんの上から退いて、買い物袋を手に取る。
「早くおやつタイムにしよ!プリンとゼリーどっちにしようかなー?」
「っあ、オイ!俺が持つって言っ、」
「いーから、いーから!じゃあ、どっち食べるか選んで?」
「じゃあ、真弓でファイナルアンサー。」
「馬鹿!セクハラ!天パ爆発しちゃえ!」
「それ二回目ェェェ!!」

こんな何気無い日常が楽しいのは君といるおかげ。
身長差は縮まらないけど、君との距離は零でいられますように。


end

 
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