【監視カレシ】
 
部屋に籠って事務作業をこなしていると、山崎が恐る恐る俺の部屋の外から声を掛けてきた。
今話しても大丈夫ですか、と問われたので内容を聞く。
どうやら屯所に助けを求めに来た女がいるらしい。

【監視カレシ】

「ストーカーだァ…?」
「はい。相当追い詰められてるのか、見てて可哀想なくらい憔悴してて…。」
それを報告してきた山崎もつられたのか若干げっりしている。
オイオイ、そんなんで大丈夫かよ。
「つーか、そういうのは俺等の仕事じゃねェだろうが。こちとら武装警察だぞ?」
最近の連中はしょうもない事で警察を呼ぶから困ったもんだ。
やれゴキブリが出ただの、家の扉が開かなくなっただの…。
そういうのは腐れ天パの万事屋にやらせときゃいいンだよ。
「適当にあしらって帰せ。どうせ被害妄想とか自意識過剰だろ。」
「それが…、もしかしたら命を狙われている可能性もあるんです。」
「…どういう事だ、そりゃ。」
山崎は調書を俺に差し出して告げた。
「民間の会社に身辺護衛を頼んだら、邪魔をするな、と奇襲を受けたみたいで…、その、刀で斬り殺されたらしいんです…。最後の頼みの綱が真選組なんですよ。」

取調室で小さく震えている女。
調書に書かれた名前は、有村真弓。
何故か話を聞いているのは総悟だった。
「…で?それから?」
「最初は気のせいだと思ったんです。でも、最近ずっと誰かに見られてる。それが怖くて、カーテンを遮光性の強いものに変えたんです…。でも、それからすぐに郵便受けに差出人不明の小包が届いて…。開けると新しいカーテンと同じ色のローターが出てきました。」
女がぽつりぽつり状況を話すと、総悟は柄にもなく難しい顔をする。
「偶然の可能性もありやすが、タイミングが絶妙ですねィ。考えられるのは、カーテンの色が透けてんのか、買うところを見られたか、…家に忍び込まれたか。」
「そんな…!?わ、私、誰かから恨まれてるんでしょうか…?もう耐えられないんです、助けを求めたらその人にまで被害が…。だから、…ここに来るのも正直悩みました。」
確かに山崎が言ってた通り、かなり憔悴しているようだ。
人が死んでるなら被害妄想や自意識過剰で片付けられる事はないだろう。
…まぁ、別の事件だという可能性が無い訳ではないが。
すっかり俯いて落ち込んでいる被害者を、どうしたものかと見下ろす総悟。
「分かりやした。だけど、こっちも命を掛ける事になるかもしれないんでィ。…まだ言ってない事ありやせんか?ストーカーにされたこと全部言ってくだせェ。」
「…、」
そう声を掛けた総悟の言葉に、俯いた被害者の顔からぽたぽたと涙が机に落ちた。
まさか泣かせるとは思ってなかっただろう総悟はギョッとしていた。
「あちゃー…、沖田さん、あの子泣かせちゃいましたね…。沖田さんの発言は間違っちゃいないんですけど…、まだ俺達に言えない事があるみたいで。」
山崎が慌てたように俺にそう告げると、そのまま取調室に入って行った。

「んじゃ、俺は有村さん見送っていくんで。」
そう言って総悟は被害者を家まで送り届けて行った。
「…沖田さんが付いてるなら道中襲われる心配は無いですし、奇襲されても返り討ちにするだろうし安心ですね。」
調書をまとめ直しながら山崎がそう言った。
というか、こんな真っ昼間から何か起きるものなのか?
結局今回は見廻りを強化する、というどこまで効果が見込めるか分からない約束をして引き取らせた。
よほど追い詰められているのか、そんな約束にさえ、お願いしますと頭を下げた被害者の顔が脳裏に焼き付いている。
「まぁ、確かに総悟を斬り殺せる奴がいるなら教えて欲しいもんだな。ウチで即戦力として迎え入れる。」
「もう、副長は冷静ですよねー。それにしても心配だなぁ。何だったら俺が毎日送り迎えしてあげようかな。」
「山崎…、」
ギロリと睨めば、山崎は顔を青くしながら、見廻り代行してきます!と叫んで屯所を飛び出していった。
「あ、オイ!出掛けるならついでに煙草、…チッ。」
俺は箱に入った最後の一本を取り出して火を点けた。
(これじゃ、夜買いに出るまでもたねェな…。)
溜め息と共に吐き出される紫煙。
それが空気に混ざって薄くなるのを見届けてから、俺は山崎が置いていった調書を手に取り、上から下まで全てに目を通した。

有村真弓。
見廻り管轄内の定食屋に勤務。
一人暮らし。
ストーカーに遭って一度引っ越しをしたが効果無し。
毎晩の無言電話と、頻繁に届く差出人不明の小包。
小包には指紋が付いておらず、割り出し不可能。
正体がバレるようなヘマはしてないようだ。
そして今、ストーカーの情報として分かっている事は、強い執着心と独占欲、それと真剣所持。
最後のはそれだけで取締り対象だ。
(あとで総悟に様子聞いてみるか。)
俺は調書を持って自室へと戻った。

夕刻、総悟は被害者を送り届けて(どこかでサボりながら帰ってきたのは丸分かりだ)屯所に戻ってきた。
「ありゃァ、憔悴しやすよ。結構エグい目に遭ってるみてェでさァ。つーか、ストーカーはド変態野郎でした。」
総悟が言うに、ストーカーの被害は単純な無言電話や贈り物だけではないらしい。
「最初はそれだけだったらしいですが、人を殺すような奴がそんな可愛らしい行為だけで終わるはずがねェ。」
眉間に皺を寄せて、被害者との会話を俺に伝えた。

『あー…言いにくいのは分かるんで、"はい"か"いいえ"だけで構いやせん。こっちも少しでも多く情報が欲しいんでさァ。アンタと同じ被害に遭ってる奴もいるかもしれやせんし。』
『…分かりました。』
『じゃあ遠慮なく。…郵便受けに、捨てたはずのゴミが入っていた事は?』
『! な、なんで、それ…!?』
『…やっぱりか。単刀直入に聞くけど、生理用品?』
『!?』
『そんな顔しないでくだせェ。過去に似た事件があったんでさァ。…なァ、その生理用品なんだけど、』
『す、捨てました!気持ち悪くてッ!いくら証拠になるかもしれなくたって、』
『…"証拠になるかもしれない"?』
『ぁ、…、』

「その後は聞かなくても分かりまさァ。使用済みのナプキンにストーカーの精液がべったり掛けられてたみたいですぜ。」
「そりゃァ…、」
「ま、実際には関係無ェ液体だろうとは思いやすがね。万が一鑑定されたら終わりなんで。」
珍しく、可哀想になァ、と総悟が呟いた。
「前にこういう変態行為で捕まった奴いましたよねィ?ま、今もブタ箱だろうから同じ人物だとは思っちゃいやせんが。」
「オイオイ、ザキから聞いたぞ!ストーカー被害だと!?実に許せんな!そんな奴は人間のクズだ!!」
俺の部屋の襖をスパーンと開けて登場したのは、どうツッこめば良いか分からないが近藤さんだった。
「最近は物騒だなぁ!俺もお妙さんがストーカー被害に合わないように見守らないとな!」
近藤さんは理解し難いことをぶつぶつと呟き、思い出したように声を潜めた。
「その子は今どうしてる?」
「あぁ、俺が家まで送りやした。戸締まりだけはきっちりしとけよって言ってありやす。」
言った総悟自身もそれが気休めでしかないことは分かっているだろうが、正直、実害が無いと動けないというのもある。
誰ともなく溜め息を吐いたと同時に攘夷浪士が暴れていると連絡が入り、この件は俺たちの頭の片隅に追いやられていった。


「あ"ー…やっぱコレじゃないとな…。」
"いつもと"同じように紫煙を漂わせながら余韻に浸る。
結局、昨日は攘夷浪士共のせいで煙草が買いに行けず、今朝になってミントンをしていたのを一回許す代わりにと山崎に買いに走らせた。
「副長ぉ…差し入れで女の子から煙草たくさん貰ってるじゃないですか。まだ引き出しに入ってるの知ってますよ、俺。」
「バカヤロー。これはな、ニコチンが切れて死ぬかもしれねェって緊急用なんだよ。つーか、差し入れるなら俺が吸ってる銘柄調べとけ。」
「ニコチンが切れて死ぬって何ですか。むしろ健康的ですよ!??」
山崎のツッコミを軽くいなしていると、総悟が神妙な顔で俺の所に来た。
「土方さん、ストーカーの件、進展ありやした。」

取調室で控えていた被害者はずっと俯いたままだ。
総悟に聞けば、屯所に来てから今までそうやって泣いたままだという。
中を覗きながら、俺は被害者に聞こえないように報告をさせた。
「実害が出ちまったみたいでさァ。…昨夜、路地裏で犯されたらしいや。ほぼ間違いなく例のストーカーの仕業でしょうねィ。」
「待て。お前、確実に家まで送ったンじゃねェのか?何で危険だと分かってンのに、外になんか…、」
「…土方さん、あそこの定食屋が遅くまでやってんのは知ってんでしょう?遅番が風邪引いたかなんかで代わりにシフト入る事になったみたいなんでィ。」
見廻り強化すると言っておきながら、昨夜は攘夷浪士のせいで見廻りどころじゃなかったなんて、とても言えない。
もう一度被害者を見て、俺はあることに気付いた。
「なァ、もしかして…、」
「…犯された後、やっと動けるようになってそのまま此処に来たらしいんでさァ。だから、あんなボロボロで…。」
「…………。」
「それ、アイツには聞かねーでくだせェよ?"証拠は無い"みたいなんで。…つーか、俺が聞いちまったんですけどねィ。」
確かに被害者に直接聞くのは、今のあの状態を見ると得策ではない。
総悟の言葉で、ストーカー特定に有力な身体的な情報が無いことが分かる。
つまり、犯されたのに体液は残されていない。
「なるほどな。随分と前から計画されていたって事か。」
「ちょっと俺、定食屋の周りで不審者が居なかったか聞き込みして来やす。…これでも、責任感じてんでさァ。」
総悟はそう言いながら、何故かミントンラケットを握っていた山崎を引き連れて屯所を出ていった。

「…入るぞ。」
声を掛けると、被害者はびくりと身体を震わせて恐る恐る俺を見上げた。
襲われた時に怪我をしたのか、唇の端が少し血で滲んでいた。
「あー…、今日は俺が送ってくから。…あと、どこか怪我したりしてねェか?」
「……いえ……、」
声は相当掠れていて、それがそのまま被害者の心境のような気がして心が軋む。
立てるか?と聞くと、被害者はゆっくり頭を横に振る。
「帰れないんです……。家の鍵が、無いんです。財布や手帳は、あるんですけど…。」
どうやらストーカーに持って行かれたらしい。
被害者はまた俯いて泣き出してしまった。
「…見廻り強化で守ってやれなかった俺達にも責任がある。家が荒らされてないかとか、周辺に変化が無いかとか、きっちり調べてやるから、…その、泣くな。」
困り果てて出た言葉は情けない色を含んで俺の口から零れた。
被害者は鼻をすすりながら、はい、と弱々しく俺に言った。

「お前ンとこの定食屋には世話になった事があってな…。」
「はい、時々真選組の方が利用して下さってます。…いつもありがとうございます。」
「…今それ言われても皮肉にしか聞こえねェな。」
「! あ、…そ、そんなつもりじゃ…。」
歩きながら他愛もない会話をしていく。
散々泣いたからなのか、それとも俺が無理をさせているのか、被害者は普通に会話が成立するまで回復していた。
…酷だとは思う。
だが、今聞かなきゃもうタイミングを逃してしまう事は明白だった。
「覚えてないか?何か。…体格だとか声だとか、そういう些細な事でも知ってると知らないとで捜査が変わってくるンだよ。」
そう言うと、被害者はまた俯く。
「さっきの…、隊士さんには話したんですけど…。本当に手掛かりになりそうなもの、何も覚えてないんです。それどころじゃなかったですし…。」
「……そうか。」
「ただ、…きっと背の高い、まだ若い男性の気がします。声は…息遣いしか、分からなくて。」
両手で自分の腕を抱き締めるようにして、震えを堪えながら被害者は続けた。
「あとは…、何だか甘い匂いがしました…。甘味みたいな甘い匂い。」
「甘味、か。」
それがどこまでのヒントになるかは、まだ分からなかった。
「…辛かったのに、話してくれてありがとな。」
なるべく優しく声を掛けると、被害者は初めて、いいえ、と小さく笑った。

被害者のマンションに着いて、一番最初に大家の所に行った。
俺が真選組だと気付いて驚いた顔をしていたが、何も言わずにマスターキーを差し出した。
郵便受けはガムテープで塞がれていて、必要な郵便物は大家に受け取ってもらえるようにしているらしい。
俺達は郵便受けに細工は無いと判断して、被害者の部屋へ。
「……中に居るかもしれない、んですよね…。」
鍵穴にマスターキーを差したまま、被害者は俺に聞いてきた。
よく見ると顔は青ざめていて、今にも倒れそうな印象を受ける。
「…その時はその時だ。ただ、お前の後ろに居るのは武装警察だ。ンな簡単に負けたりしねェよ。」
「はい…。」
被害者はこくりと頷くと、大きく深呼吸して玄関の施錠を外した。

玄関には女物の靴が二足出ていた。
多分、履き分けしてるのだろう。
片付けられている台所を通り過ぎると、自室兼寝室だった。
遮光だと聞いているカーテンは薄桃色で、部屋の雰囲気にもよく合っている。
どことなく香る柔らかい匂いは、女の部屋だと再確認させるに充分だった。
「良かった…、部屋は荒らされてないみたいです。その、…下着とか化粧品も無くなってないみたいですし…。」
被害者は安堵の息を吐きながら、通帳や印鑑も無事です、と報告してきた。
「家の鍵は大家さんにお願いして丸ごと変えてもらう事にします。…すみません、お忙しいのにこんな所まで来て頂いて…。すぐ着替えてくるので、お茶だけでも召し上がって下さい。」
そう言いながら笑った被害者が、俺に座れと示してくれた手の甲に擦り傷が出来ているのに気付いた。
「それ…。」
「あ、いつの間に…。大したこと無いので大丈夫です。」
「……ごめんな。」
「もう、大丈夫ですよ。これはあなた方のせいじゃな、」


「怪我させるつもりは無かったンだよ。でも、お前暴れるし…。」


被害者は俺の言葉にピシリと凍り付いたように顔を強張らせた。
「…………え?……一体、何の話、…」
俺は呆然とする被害者に近付いて、怪我をした手を引いて傷口に舌を這わせた。
「あ、の、……や、やめてください…っ…。」
「伝わンねェもんだな。…俺はこんなに真弓が好きなのに。」
「!」
驚いて目を見開いた真弓に覆い被さるようにして押し倒した。
掴んだままの手は震えていて、俺は安心させるように強く握り締める。
「か、からかってるんですか…?笑えないです…っ。どいて下さい…!」
バッと振り払われた手は俺の隊服の裾にぶつかり、その勢いでポケットの中の物が弾き出された。
カチャリと床に落ちた"ソレ"を確認して、真弓はさらに暴れだした。
「嫌っ!なんでっ、何であなたが"ソレ"を持ってるんですかッ!!?離してッ!!誰かッ!!!」
「何をそんな怯えてンだ。これはただの"お前の家の鍵"だろ?見付かって良かったじゃねェか。」
「…、あ、あなたが、…ストーカー、だったのね…ッ!?」
混乱して取り乱す真弓の腕を拘束して、耳を舌でなぞりながら囁く。
「人聞き悪ィな…。俺は一途にお前だけを見てただけだろ?」
「……ッ、犯罪者ッ!!」
俺は片手で真弓の着物の帯を緩め、袷に手を差し込み着物と下着を脱がせていく。
肌に残る赤い痕は付けられてから半日も経っていないせいか、はっきりと存在を主張していた。
「怪我してンのは唇と手の甲だけか。…良かった。次は優しく抱くから。」
「ゃ、…こんな、…ぁ、あ、」
首筋に唇を落としながら真弓の気持ち良いところを的確に刺激していく。
そろりと真弓の秘部に指を沈めてみると、昨夜の名残か既に濡れていた。
「…慣らさなくても平気みてェだな。」
「っ!?やだ、…ゃ、…ひっ、」
すっかり真弓とひとつになる為の準備が出来ている自身を取り出して、まるで俺を受け入れる為にあるような真弓の秘部に宛がう。
「昨日は生でしてやれなかったからな…。やっと、やっとひとつになれるな…。」
「やめ、…んぁ、…っは!ぁ、っん、」
真弓のナカ深くに自身を埋め込み、そのまま奥へ奥へと衝動を走らせる。
「正直っ、真弓が真選組に来た時はどう接してやろうかと思ったよ。…っく、まさか、…ククッお前を苦しめてきた男に助けを求めるなんてな。っあ、」
激しく真弓を犯しながらそう告げると、真弓は声を殺すように唇を噛み締めて涙を零した。
「おいおい、泣くなよ。ちゃんと見廻りも強化してやるし、俺がずっとお前の傍に居てやるからよ。もうストーカーなんかに狙われねェぞ。」
「っあん、あっ、…さい、てぃ…っ、」
ぶつかる肌の音と、粘着質な水音がどんどん大きくなる。
途中、真弓の嬌声と締め付けが変わった。
どうやら一人でイかせてしまったらしい。
「っはぁ、…真弓、今日お前に贈るもの決まったわ…。」
「ん、っぁ、なに言っ、」
「"俺の遺伝子"。」
「!? うそっ、…ゃ!やだっ、嫌!それだけは…ッ!!」
真弓の叫びと同時に、俺は真弓のナカに愛をたっぷりと注ぎ込んだ。
「ひ、ゃああぁぁ…ッ!!」
抗おうと身を捩ったところで、俺からは逃れられない。
…昨日の夜だけじゃ学習出来なかったんだな、そんなとこも愛しい。
真弓から自身を引き抜いて、纏っている淫液をその太ももに擦り付けた。
俺は、虚ろな目で力無く床に倒れたままの真弓の横で着衣を正す。
「…一度、屯所に帰るな?またすぐに戻る。…あぁ、お前も屯所に来たければ来て構わないぞ?俺が担当してやるから安心しろ。」
「……っ、」
柔らかな胸が真弓の呼吸で上下するのを確認して、軽く着物を合わせてやる。
「傷の手当てもしような?…俺の大事な真弓。」
怪我をしている手の甲に触れるだけのキスを落として、俺は一人玄関で靴を履く。
「あー、そうだ。」
くるりと振り返ると、真弓が息を詰めるのが分かった。
そんなに怯えなくてもいいだろうに。
…気持ち良さそうにしてたじゃねェか、お前も。
「カーテン、その色で良いんじゃないか?明日届く浅黄色のカーテンはこの部屋にイメージ合わないと思うけどな。」
「……ぁ、…、どうして…、」
震える声でそう呟いた真弓に意味深に笑ってやってから、そのまま外に出た。


部屋に籠って事務作業をこなしていると、総悟が疲れた顔で俺の部屋までやって来た。
「駄目でさァ、収穫無し。ストーカー野郎の手掛かりになりそうな情報はありやせんでした。」
「そうか…。何か分かればまた報告してくれ。被害者には、いつでも屯所に来て構わないと伝えてある。」
総悟は、分かりやした、と覇気無く言って俺に背を向けたが、それを呼び止めた。
「サボりに行くなら煙草買ってきてくれ。ストック無ェと落ち着かねーンだよ。」
「…土方さん、その目は節穴ですか?長机の上に置いてあるの差し入れの煙草でしょう?」
相変わらず総悟は反抗的だ。
いや、素直ならそれはそれで怖いのだが。
「あー…昨日一本吸ってみたが、どうにも甘ったるくて耐えられねェンだよ。…まるで甘味みてェで。」
「…分かりやした。気が向いたら山崎に言っておきやす。」

欠伸混じりにそう答えた総悟の背中を見送った後、俺は筆を置いて引き出しを開ける。
「予備作っておいて正解だったな。」
浅黄色の紐を結んだソレは、もちろん真弓の部屋を開ける為の合鍵。

これでいつでも会いに行ける。
これでいつでも一緒に居られる。

「これからも俺はずっと真弓だけを見てるよ。」
音にならない程度の声音で呟き、俺はそっと笑った。


end

 
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