【土方誕生日2014】
 
5月6日 7時10分。

「ッ!?」
何者かに蹴られて俺は目覚めた。
パッと目を見開くと、俺の布団の中に真弓がいた。
どうやら、コイツが寝返りを打って俺にぶつかったらしい。
左足は完全に俺の上に乗っていて、緩く着てたらしい浴衣は完全に捲れていた。
「……、……はぁ。」
剥き出しになっている太股や、よく見たらはだけてしまっている肩に一瞬呼吸が止まり、…思い出したかのように息を吐いた。

しかし、俺は昨晩真弓が布団に忍び込んで来たのを覚えてはいない。
今日は久々の休日だった事もあり、気が緩んで深く眠りに落ちたのだろう。
なにせ昨日は…、昨日は誰かさんのせいで精神的疲労が尋常じゃなかったせいもある。

「オイ、痴女。勝手に布団に侵入してンじゃねェよ、起きろ。」
「ん〜……。」
真弓は寝言で返事をして、俺の胸元に顔を埋めると再び眠り始めた。
それを叱る事も出来ず、ただ頭を撫でてやる俺は、相当コイツに溺れている。
「天然で据え膳拵えンじゃねェよ、ったく…。」
真弓をゆっくり引き剥がして体を起こす。
一度伸びをした後、真弓の着衣を整えてやる。
俺が悪い男じゃなくて良かったな、マジで。
「つーか…、何で今日なんだよ。昨日だろ、お前が俺に会いに来なきゃいけなかったのは…。」
ぽつりと呟いた声は朝の静けさに溶けて消えた。

そうなのだ。
自分で言うと虚しい気もするが、昨日は俺の誕生日だった。
…というのも実は失念していたのだが、真弓からのメールで思い出した。
『HappyBirthdayトシ!良い誕生日になりますように。』
顔文字やら何やらで賑やかなメール文だったが、内容はそんな感じだった。
ハッキリ言うと、真弓は昨日一度も俺に会いに来なかった。
連絡も最初のメールのみで、あとはこちらから掛けても出やしない。
まぁ、俺も一日仕事をしていたから会いに行けなかっ…ていうか、そうなってくると、どんだけ誕生日祝って欲しいんだよ!って感じだな、これ…。
正直なところ、この歳になるとガキみてェに誕生日ではしゃいだりはしねー訳で。
それでも。
("良い誕生日にする"為には、お前は不可欠だろうが。)

真弓にだって、やる事はあンだろうし、責めてばっかりもいられねェと思っていた矢先、とんでもねェ情報が耳に飛び込む。
真弓と総悟が街でデートをしていると、見廻り連中が話していた。
確認の為に真弓と総悟両方に連絡してみたが、どうも電源を落としているらしい。
(どんだけ邪魔されたくねェんだよ…!)
そんな訳で、昨日は一日悶々として過ごした訳だ。
明日は休みだし直接真弓に問い質すかと思っていたところ、こういう状況になっていた。

俺は寝ている真弓の横で胡座をかいて座り、その頬を手の甲で軽く叩く。
「真弓ー。そろそろ起きて説明しろー。」
ぺちぺちと頬を叩かれ、真弓は呻きながらもぞもぞと動く。
俺が横に座っているのが分かったのか、俺の太股に頭を乗せてきた。
「トシ…、今日休みじゃないの…?朝、早くない…??」
まだ寝惚けた顔のまま真弓が言う。
うるせェな…お前が隣にいて、眠気が吹っ飛んだンだっつの!
俺の上で頭をごろごろと動かされるとくすぐってェ。
何つーか…、今この瞬間、間違いなく俺は平穏を感じている。
「そんな事より、昨日お前が何をしてたか説明してくれ。」
「……あ。私のプレゼントどうだった?良い誕生日過ごせた??」
「…はァ?」
プレゼント…??
首を傾げると、真弓がむくりと起き上がった。
おまっ、ごろごろ動いたから胸元開いて谷間見えてンじゃねェか…!
俺は無言で真弓の浴衣の前を閉じてやる。
油断し過ぎ、信用し過ぎだ。
こっちの身にもなってくれよ、頼むから。
「んー?トシ、五月に入ってすぐくらいに言ってたでしょ?"総悟のヤロー、強化月間とか言いやがって、ますます落ち着いて過ごせやしねェ"って。」
「あー…?」
覚えてないが多分言ったんだろう。
どうも真弓が俺の真似をしているようだし、こりゃ言ってるっぽいな。
「だから、誕生日くらいは穏やかに過ごせるように配慮してみたんだけど…。」
「………。」
…あー、…あぁ、こんな時ばっかり頭の回る自分に嫌気が差す、っつーか。
はあぁぁ!?
つまり、つまり!!
俺が一日総悟から諸々邪魔されないように、真弓が裏で手引きしてたと!?
確かに昨日は真弓に会えなかったが総悟にも会わなかった。
おかしいと思ったんだ、総悟が突然他人と非番を入れ替えて休みたがるなんて。
それですれ違い様に"愛されてやすねェ、アイツ馬鹿だけど"って言った言葉の意味が今になって分かる。
真弓から総悟を誘って、総悟は思惑を知りながら誘いに乗った。

…あぁそうだな、昨日はすげー仕事が捗ったわ。
そりゃ、バズーカで書類が散らばる事も無かったし、見廻りで背後に気を回す事も無かった。
落ち着いて仕事が出来た、それは間違いない。
だけどな?
それ以上に、自分の女がサディストと一日一緒にいる状況に落ち着けるはずが無いだろ。
結果、仕事は進めど、内心は穏やかとは掛け離れていた。

「……お前、本当馬鹿な。」
「えぇ!?……っひゃ、トシ??」
真弓の頭を抱き込んで、道連れにどさりと布団に身を沈める。
「馬鹿だから言わなきゃ分かンねェんだよな…。真弓が居なくて"良い誕生日"になんざならねェんだよ。」
「トシ?何か、珍しい…。」
「うるせ…。人並みに寂しくなったし、嫉妬したンだよ、こっちは。」
そういうと、真弓はもぞもぞと俺にくっついてきた。
「私も、トシと誕生日祝いたかったな。屯所に戻ってきたらトシ寝てたから、添い寝してたら朝になってた。……トシの横は安心する。」
そう言って腕を組むように俺の手を抱き締める真弓に、こっちは安心出来ねェけどな、と頭の中でごちた。
「…なァ、アイツに何もされてねェよな?」
「うん?沖田さんとは一日中一緒だったけど、トシが気にするような事にはなってないよ。むしろ、私が連れ回してぐったりさせちゃったかも。」
「ふは、そのくれェで調度良いンだよ、総悟には。」
ぎゅうと抱き締められた腕には真弓の胸の感触が伝わって、堪らない気持ちになる。
仏の顔も三度までっつーけど、これそろそろ三度目だからな?
仏から鬼に変わってもしンねェぞ?
「そうそう、沖田さんにも一緒にトシの誕生日プレゼント選んでもらったんだー。あとで持ってくるね。一日お店ハシゴしたんだけど、最初のお店に戻ってね、」
「あ?デートしてたンじゃねェの?買い物以外にも、」
「…ご飯は一緒に食べたけど、あとはずっと買い物だよ?トシの事ばっかり考えてたら、沖田さんに呆れられたけど。」
そう言って真弓はクスクスと笑う。
「ンだよ、杞憂かよ。」
「だって私が大好きなのはトシだけだよ?」
俺は我慢出来なくなって、その額に口付けた。
真弓は一度目を丸くすると、すぐに幸せそうに笑った。

「真弓、今日は休みだよな?…昨日の埋め合わせに俺と過ごせ。」
「! 勿論っ。」
「よし、まずは着替えて来い。その格好は目に毒だ。」
「…好きにしちゃっても大丈夫なのに。」
「俺が優しく出来るうちは優しくされてろ。…っあー、来年は最初から俺と過ごせよ?」
俺の言葉に応えるように、真弓は俺の腕を解放して指先にキスを落とす。
「当然。…あ!まだ、直接言ってなかったの思い出した!」
慌てた真弓が次に言う言葉は分かっている。

「トシ、お誕生日おめでとう!」


end

 
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