【トラソルと紫の檻】
 
厳重に施錠したドアの扉を開けると錆び付いた音が鳴った。
元々この部屋の存在意義を考えると、長らく使う必要に駆られなかったのだから仕方なくも感じる。
だから、今は幾分かマシになった方だ。

…本来は俺の仕事ではない。
それでも俺がここに通うのは何故なのか。
恐らく、自分でも分からない歪んだ何かを、この女に感じているからなのだろう。

部屋に立ち入ると、微かに血の臭いがした。
今朝はそんな事は無かった事を考え、またか、と思った。
「よォ、真弓。元気そうじゃねェか。」
「…………。」
床に力無く横たわっている女を見下ろして声を掛ける。
真弓の両手首が血塗れなのを見て、臭いの原因はこれなのだと思った。
「逃げられないと分かった途端、ずっとこうだ。…早く吐けよ、そうすりゃもうちっと待遇良くしてやっても構わねェぜ?」
「…………。」
真弓は虚ろな目で俺を見る。
意識が混濁しているのは知っているし、そうさせているのも自分だ。
返事が無いのはもう慣れた。
血が付いた真弓の手を取り、その傷跡に舌を這わせてその血を舐め取る。
真弓には当然俺を振りほどく力なんか無くてされるがままだ。

この真弓という女は、真選組の監察だった。
情報収集として人を拐うなんざ当たり前のようにやってきた俺等に取っては、別段珍しい事では無い。
珍しかったのは、この女の方だった。
どんなに痛め付けて拷問に掛けても、真選組や幕府についての情報を吐かない。
それどころか、執行人を蹴散らして逃げようとしたのも数回。
ここで捉えられた事すら真選組に持ち帰ろうとする、まさに真選組の忠実な犬だった。
ある意味では馬鹿で、ある意味では利口だったのだろう。
…拷問を掛けて情報を吐いたら、不必要になるその人間は始末して死体は闇に流すのだから。

そういった経緯で、どんな女なのかと気まぐれに興味を持った俺がコイツを引き取ったのが今の始まりだった。
最初は俺の隙を突いて逃げ出そうと何度も抗っていた。
それが面白くて、それがどこまで続くのか見てみたくなった。
俺しか入れない部屋に閉じ込めて、それなりに痛め付けてみたが、聞かされていた通りそれに耐えるばかりで口を割りそうには無かった。
身体から落とせないなら精神からと、一日中無理矢理犯してみたが、それにも耐えてみせた。
……それほど真選組や幕府に価値があるとは到底思えねェが。
錠でいくら繋いでも何故か器用に外して逃げようとするから、両足首を捻って動けなくした。
その上から重りの付いた足枷を嵌めてやった。
こうしておけば逃げようとしても捕まえるのは簡単だ。
逃げるのが困難だと理解した真弓が逃げるのを諦めたのは、そのあたりだったかもしれない。

それからは自白剤やら精神崩壊を引き起こす薬漬けの日々に移行した。
徐々に壊れていく真弓に酷く興奮を覚えて、何度も犯した。
そうしていって、俺は内心もうコイツが吐こうが吐くまいがどうでも良くなっていた。
たまに意識が戻る瞬間もあるが、その度に「殺してやる」と「殺せ」しか言わなくなった。
最近は、後者の方しか聞いたことがないが…。

手首の血はほとんど乾いていて、今朝俺がここに来てすぐに出来た傷だと知る。
「ククッ、今朝無理矢理抱いたのが堪えたか?死にたくなるくれェに。…今更だろ、そんなもんは。」
真弓を犯した回数は、もうきっとお互い覚えちゃいない。
このところは拷問というより、真弓を犯す為に来ているのだから。
何も身に纏うものを与えられていない真弓の身体を腹から胸に掛けて撫でる。
「手首を噛み切って死ぬつもりだったか。…今朝の薬のせいで中途半端にしか出来なかったみてェだな?」
冷たく嘲笑っても、真弓の瞳は揺れない。
前日と今朝に打たれた薬の効果も相俟って、今は意識を明確に出来ないのだろう。
コイツの全ては俺が好き勝手に出来る。
それが俺の中の支配欲を満たさせた。
「返事も出来ねェか…。」
そう独り言を漏らし、真弓の脚を開かせる。
秘部に指を押し入れると、今朝吐き出した欲がナカから溢れてきた。
それとは別に透明な液が糸を引く。
「…条件反射みてェに濡れるようになったなァ、真弓。」
見せ付けるように目の前で濡れた指を舐めてみせると、真弓の唇が微かに震えた。
意識があれば、羞恥のような絶望のような顔をするんだろう。
「あんま自殺志願ばっかするなら、両腕も使えなくしてやろうか?」
拷問も強姦も真弓には通用しない。
だけど、それから解放されるでもない。
そうなると、自殺でしかコイツは自分を逃がせなくなっている。
馬鹿ではない。
もう理解しているんだろう、…ここから逃げる事は絶対に出来ないと。
本当は両腕を切断してやりたいくれェの気持ちはあるが、実際にやると多分もう体力もギリギリの真弓は、望み通りに死ぬだろう。
…それはまだ俺が許さない。

部屋に用意されていた重り付きの手錠を掛ける。
それを真弓の頭の上まで運んで手を離すと、ゴツっと鈍い音を立てて落ちた。
腕力も落ちている真弓では外す事はおろか、もう持ち上げる事も出来ないだろう。
猿轡も必要かもしれないが、これは後で良いか。
いつか舌を噛み切って死のうとするかもしれないが、その時はその時だ。
それに、これだけ朦朧とした意識でそれを完遂出来るとは到底思えない。
「勝手に壊れてくれるなよ、真弓。俺がじっくり壊してやるから…なァ?」
さらりと髪を撫でると、真弓は一瞬気持ち良さそうに目を閉じたが、すぐにその瞳に絶望を宿す。
これから何をされるのかを知ってしまった瞳。
…学習能力を保っているのか、それは本能なのかは俺には分からない。
代わりに、その真弓の反応は正解だと言える。


充分に濡れて慣らされているその場所は俺のモノをいとも簡単に咥え込む。
「意識が無くてこれだけ締め付けてくるなんざ、才能かもなァ?」
何度も薬を打って、何度も犯してきたが、使い物にならなくなるどころか、日に日に淫らな身体になるばかりだ。
それにこれが、今真弓の声を聞ける唯一の方法でもある。
「…っぁ、…っ、…、…ぅ…ッ、…、」
「あァ?…チッ、今朝啼かせ過ぎて、もう声になンねェか。」
真弓の口から出るのは掠れた声だけだった。
苦しそうに呻いたり、快楽に喘いだり、その吐息を聞いているだけで飽きない。
ぐちゃぐちゃになった結合部の水音と混ざり合うそれは、俺を昂らせていく。
「…この姿を真選組の奴等が見たらどんな顔すンだろうな?」
「……!」
「いつかお前に飽きたら送り返してやろうか?…ククッ、嬉しいよなァ?あんなに帰りたがってたし。…もちろん、薬で滅茶苦茶になった状態の身体で、だけどな。」
「……ぅ、」
今の言葉は理解出来たらしい。
微かに身を捩って抵抗をしているつもりらしいが、ナカが締まるだけで俺には痛くも痒くもない。
「…そんな締めンじゃねェよ。仲間にこんな姿見られる所でも想像して興奮してンのか?」
「…ぅ……ぁ…、」
ふいに真弓の目から涙が零れる。
コイツの感情らしい感情は久々に見た気がして、俺は高揚した。
真弓が死にたがっているのは、自分を逃がす為だけじゃない。
他の真選組の重荷になりたくない、こんな姿を晒したくないというプライドがあるのも知っている。
だからそれを心ごとへし折るのが愉しくて愉しくて堪らない。

俺は再び律動を繰り返す。
真弓の手首と足首から鎖の音が聞こえる度に、俺は正しく、コイツを犯しているんだと再確認する。
頭と心では俺を拒絶してンだろうが、身体はこの行為を受け入れて、無意識でも俺を悦ばせるだけの動きをするのだから罪悪感など持てるはずもない。
今も自分から望んだかのように、俺を締め付けて離そうとしない。
「…随分、淫乱になったじゃねェか。今度、他の奴の前でヤッてみるのも面白ェかもしンねーな。…その方が興奮すンだもんなァ、真弓は。」
「…、…っん、……は、」
その目は虚ろで、また意識が沈んでるのは明確だった。

今のところ、真選組、という単語には過剰反応を示す。
それはつまり、コイツの全ては真選組から成り立っているという事。
……気にくわねェ。
「お前の今の飼い主は俺だ。それ以外の事は考えるな。」
「…ひぅ、…っは、…ぁあ、……、…ッ、」
なるべく乱暴に奥を突くと真弓の身体が跳ねる。
それと同時にナカが締まって俺を追い詰めていく。
程なくして真弓は絶頂を迎え、痙攣を起こす真弓のナカで俺も限界を迎えた。
欲を吐き出す直前に自身を引き抜き、真弓の腹の上に白濁した液をぶちまけた。
行為後の倦怠感なのか、真弓は胸を上下させながらぼんやりと天井を見つめている。
俺は真弓の腹の上に出したそれを指で掬い、真弓の口に持っていく。
元々薄く開いていた唇は、簡単に俺の指が口腔に入るのを許した。
「…飲み込め。」
「……、」
突然、口の中に広がった味に真弓の眉がピクリと動く。
それでも真弓が拒否出来るはずもなく、唾液と共に嚥下されていく。
「敵だった男の体液を飲まされるってのァ、どういう心境なのか聞いてみてェもんだな。」
喉を震わせながら笑い、真弓の舌に擦り付けるように指を動かす。
ざらざらとした舌の感覚を楽しみながら、ゆっくりと指を引き上げた。
俺はそのまま首元に顔を埋め、噛み付きながら鬱血の跡を付けていく。
そのまま胸にも噛み付き、腹と臍、太股と脹脛へと歯形と赤い痕を残す。
捕食される側とする側の印でもある。
真弓はようやく呼吸が落ち着いてきたのか、俺の唇が触れる度に微かに反応を示す。
くすぐったいのかもしれない。
微温い愛撫は恋人同士がするそれに似て、違和感を生む。
…俺と真弓の関係はそうじゃねェ事が明白だからだ。
この瞬間、出会い方が違ったらどうなったんだろうな、と思う自分も確かに居て自嘲する。

俺はコイツをどうしたいんだろう。
閉じ込めて、独占して、痛め付けて、犯して、壊して。
きっと真弓は綺麗に壊れてくれるだろう。
繊細な硝子細工のように粉々に、元の形も分からないくらい。
考えただけでもゾクゾクする。
この手でその命を摘む事を考えると下腹部に熱が集まるのが分かる。
あぁ、もう壊したくて壊したくて堪らない。
だけど、それが勿体無くて、俺はいつも勿体ぶって少しずつ命を削り取っていく。
いつからこんなにコイツに夢中になったんだろう。
それほどに溺れているなんて馬鹿げている。

俺はその場で立ち上がり、真弓を見下ろす。
光を宿さない真弓の瞳には、辛うじて俺が映っているのが分かる。
それを確認して、俺は薄く笑いながら真弓の鳩尾を踏み付けた。
「…、…ぅ…、…っぐ、…、」
頭上で重りに縫い止められた腕では、俺の足は退かせない。
足も持ち上げられず、鳩尾を踏み付けられたままでは身も捩れない。
完全に無抵抗の真弓の体を支配するのは簡単だった。
「苦しいか?それとも拷問を耐え抜くテメェにゃ足りねェのかもなァ?」
「ぎ、…ぃ、……、…ッぁ!…、」
「…ククッ、今相当そそる顔してるぜ?涎も垂らして、まるで畜生だな。」
肺が圧迫されて息が上手く吸えない事は分かっている。
ぐりぐりと足を動かすと真弓はさらに呻いた。
「オラ、もっと啼けよ。お前は俺の為に生かされてンだから俺を満足させろ。」
「…ぁ、っ…、……、ふ、」
「お前はこれから俺の事だけを考えて生きて、俺の事だけを考えて死ぬんだ。」
グッと足に力を入れると、真弓の喉から悲鳴にも似た息が吐き出された。
これ以上やると本当に骨も肺も踏み潰してしまうだろう。
真弓の上から足を退けると、胸が大きく上下する。
「…、…っ、……、…、せ、…殺、…、」
苦しげな呼吸の間に、殺せ、と挟む真弓の声を聞いて、笑いが止められない。
「ククッ、ハハハハハ!!誰に命令してンだ?テメェがそれを望むなら、俺は絶対に殺してなんかやらねェよ。もっと俺と遊ぼうじゃねェか、なぁ真弓よォ!」
「…、……、…、…………、」
「お前もう仲間の事吐く気無ェもんなァ?じゃあ何されても文句言えねェだろうよ。そういう立場なんだから自分で生きる事も死ぬ事も諦めるンだな。」
もう今となっては吐いたところで、今と状況は変わらない事が確定している。
これはただの建前や動機付け程度の理由にまで成り下がった。
俺が用があるのは情報から真弓個人にいつの間にか変わっていた。

体力と気力が底を尽いたのか、真弓の瞼が少しずつ下がってくる。
最近の状態から考えたら、今日はこれでも保った方かもしれない。
意識が落ちる前に俺は真弓の唇にキスを落としてそのまま舌を捩じ込む。
「誰が寝ていいと言った。」
「ん、…、ふ、っ…、んん、」
呼吸が乱れたまま口腔を犯されて苦しそうに喘ぐ真弓の声に、俺は欲情していた。
上顎に舌を這わせると鼻に掛かったような甘い声が抜ける。
甘ったるくて、頭の奥が痺れるみてェだ。
この胸に湧く感情が、もしも愛と呼ばれるものだとしたら、それは上限無くグロテスクで汚くて歪んだ、気持ち悪い物の総称だと思う。
つまり、俺と真弓の関係はそういう事なんだろう。
ふと、真弓の身体から緊張が抜けたのが分かり、俺は唇を離した。
どうやら意識を保てず、気絶したらしい。
「…今日は薬打つの止めてやるか。」
俺のその声は真弓には届かない。
まぁ、届いたところで関係無ェな。
これは真弓の為に止めるのではない。
俺が、少しでも真弓で楽しむ為にはたまに直しておいてやらねェとな。
明日の今頃には意識がもう少しハッキリするだろう。
真弓の左胸を鷲掴むとドクドクと心臓の鼓動が伝わる。
俺の、俺だけの真弓。
大切に大切に丁寧に後悔しないように、徹底的に壊していきたい。

俺は真弓の耳を甘噛みしながら、脳に直接流れ込むように囁く。
「お前の命が尽きるまで沢山遊んでやるよ。…その身体も魂も俺の物なんだから。」
だから、真弓はその身体と魂を俺でいっぱいにしてしまえ。
お前の世界に俺以外は必要ない。

明日も真選組の事を吐かせに此処に来る。
その為に痛め付けるのも犯すのも、俺の自由だ。
…明日も沢山遊ぼうなァ、真弓?

錆び付いた音の鳴るドアを閉めると俺は厳重に施錠をした。


end

 
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