【要約すると、俺。】
 
【****】
形容語の1つ。「**」と「**」の合成語。
(1)広義では、**を表現する様子。狭義では、**が****あまり、次第に**的に***状態になる事。
(2)*****、*。


「先せ、ぃ…、…何でっ、」
「…お前が教えろっつったンだろ。生徒の質問に答えるのが、教師の仕事だ。」
床はこんなに冷たいのに、背中に汗が伝うのが分かる。
何で私はこんな格好で床に転がされてるんだっけ。
パニックを起こした私の頭じゃ、きちんと整理出来ない。
…順番に思いだそう。

ここは国語準備室。
国語準備室は、銀八先生の部屋。
銀八先生は、…私の恋人、なんだけど。
教師である彼と、3Zの生徒である私の交際は当然秘密。
そして、とんでもなくプラトニック。
肌を重ねるなんて当然無くて、キスも、手を繋ぐ事すらしていない。
これは先生が言い出した事。
恋人である前に、生徒だって事を前提にした約束。
だから私が卒業するまで恋人みたいな、そういう事はしないらしい。
……だから、ますます混乱している。

時刻は、皆が下校を始める賑やかな放課後。
「お、どうした有村?」
「先生に聞きたい事があって…。辞書引いたけど載ってなくて。」
後ろ手でカラカラと扉を閉める。
そう、私は先生に質問しに国語準備室まで来たんだ。
…えぇと、私は"その単語"を誰から聞いたんだっけ。
トシか、志村か…、もしかしたらさっちゃんとかだったかもしれない。
分からない言葉だったから、国語教師である先生なら分かるかなって。
そしたら、
「あー……、分かるけど説明しにくい…。アレだ、セックス知らねーガキに"赤ちゃんってどこから来るの?"って聞かれてるのに、コウノトリ説とキャベツ畑説が封じられてる感じに近いアレだわ、うん。もういっそ真実話しちまう?でも、今度は逆にセックスって言葉で説明しろと言われると、それはそれで、まず人体の仕組みから始まって、」
「もう!長いっ!!あと先生の例え方本気でデリカシー皆無なんですけど!生徒の前で何て事言ってるんですか!…分かんないなら分かんないって最初に正直に言わないと社会では通じないんですよ。後で首絞まるの自分なんですからね。」
「何、有村は俺のお母さんですかァ?」
「こんな天パを産んだ覚えはありませんー。仕方ないなぁ…。じゃあ今度、トシか志村に聞いてみよ。何となく詳しそうな気がするし。」
「……何。有村、アイツ等と仲良い訳?」
「? 仲良いよ?クラスメイトだし。」
「あっそ…。」
そう言って拗ねたみたいにそっぽ向く先生は、何だか私よりも年下みたい。
……うん、そこまではいつも通りだった。

「有村、せっかく来たなら先生の手伝いしていきなさい。」
「えー…。仕方無いなぁ…。」
てててっと先生の横まで移動すると、先生は椅子から立ち上がって私を見下ろす。
背、高いな。
見上げると、むにっと鼻を摘ままれた。
「痛ゃい…!」
先生はにたりと笑うと、私から手を離して部屋の隅の棚を指差す。
「あの棚にある赤いファイル取ってきて。」
「え?先生、立ったなら自分で取りなよ。私じゃ身長が、」
「いーから。」
コツンと頭をつつかれて、私は渋々ファイルがある棚の前に移動する。
……この時に、先生が私の死角で何をしていたか見ておくべきだったかもしれない。
思った通り、棚の一番上に置かれたファイルは背伸びしても私には届かない。
「先生ぃ〜…、無理、届かないぃ〜。」
「……有村。そのまま両手上げてみ?」
先生の声が近付いてくる。
だったら最初から自分で取ればいいのにと思わずにはいられない。
「えぇー?そんなの余計届かなく、ッきゃ!?」
……そうだ、ここからがおかしいんだ。

先生は、両手を万歳した状態の私のセーラー服の裾を掴んでそのまま上に引き上げた。
制服は私の目の前を通過して、その肌寒さにキャミごと引き抜かれた事を遅れて理解する。
「ひゃ…っ!なっ、何し、」
私はブラだけになった上半身を慌てて両腕で隠す。
それに気を取られたせいで、先生の手が私のスカートに掛かったのに気付けなかった。
「や、…っきゃあぁぁッ!!」
スカートが落ちたのも、本当に一瞬の出来事。
上下とも下着姿になって恥ずかしくて踞ると、フラフープの様に下げられたスカートが上から取り払われた。
(うそ…!今日に限って短パン履いてないのに…!)
目の前で揺れる白衣の裾を掴み、その犯人を睨む。
「先生っ、ふざけないで!制服返して…っ!」
「…無自覚でそこ掴んでンなら気ィ付けろよ。煽られて仕方無ェわ。」
私と目を合わせず、私の言葉なんて耳に入らないかの様に先生は低く笑う。
いつもの気だるさが感じられない、男の人の声だ。
どうしてだろう、……まるで別人みたいで、恐い。

先生は私の制服を簡単に畳んで赤いファイルの横に置いた。
(そんなとこに置かれたら、私じゃ取れない…!)
死んだ魚と称される事の多い先生の瞳が、今は何故か妖しく光っているような気がする。
そんな目で舐めるように見られる事に恐怖と羞恥が入り交じる。
「下着姿に靴下と上履きとか、マニア向けAVみてェだな?」
どこか現実味を欠いたその言葉に目眩がした。
「先せ、ぃ…、…何でっ、」
「…お前が教えろっつったンだろ。生徒の質問に答えるのが、教師の仕事だ。」
何で、どうして。
先生がこんな風になった事、今まで一度だって無い。
私は何か怒らせるような事をしてしまったっけ?
だって、こんな無理矢理みたいなの、私の知ってる先生じゃない。
「せ、んせ…?」
「そんな怯えた声出すンじゃねーよ……ゾクゾクすンだろ…。」
口元を歪ませながら、先生は私の肩を掴み、そのまま押し倒して床に縫い付けた。
元々しゃがんでいた私を床に転がすのは簡単だっただろう。
先生は男で、私より体格が良いのは当たり前。
私の全力の抵抗を、先生は腕だけで抑えられる。
布より肌の面積が増えた私の体に、床のひやりとした温度が伝わる。
その冷たさが、今目の前で起きているのが夢じゃない事を告げていた。
「二人の時は"先生"はやめろって言ったよな?真弓。」
「だって、先生…。ここ、学校だから、」
「"先生"はやめろ。」
「でも、学校では名前、」
「…何回言わせる気だ。もう次は無ェぞ?」
学校内では例え二人きりでも"先生"と"有村"で呼ぶというのは、先生が決めた事なのに。
だけど、今の先生に逆らったらどうなるか分からない。
私は震える呼吸をなるべく整えながら、名前を呼ぶ。
「……っ…ぎ、んちゃ…、」
「…ん、いい子だ。もっと呼べ、お前の声が聞きたい。」
「銀、ちゃん…。銀ちゃん…。」
「俺を、俺だけを求める真弓、…堪ンね。」

"銀ちゃん"。
それが二人きりの時に私が呼ぶ先生の名前。
神楽は常にそう呼んでいるけど、普段の私は敢えて呼ばないようにしていた。
名前を呼ぶ度に、銀ちゃんの赤い瞳がその色を深くするみたいで吸い込まれてしまいそうになる。

「ねぇ、銀ちゃん…。今日、塾があるから、もう……。」
どうにか許してもらって制服を取り返さなきゃ。
塾に通ってるのは本当だけど、今日は塾側の都合で休みだった。
だから、これは逃げる為の嘘。
本当の理由は、今の銀ちゃんに言っちゃいけない気がしたんだ。

「そっか、塾なら仕方無ェな。…………塾、だったらな?」
一瞬緩まった私の肩を押さえ付ける力が、瞬間、両手首へと場所を変えさらに強いものになる。
「細ェな…このままへし折れそうだ…。」
「ッゃ、…痛い!…ぎ、銀ちゃんっ、痛いよ…!」
「痛い?……ククッ、痛くしてンだから痛くなきゃ意味無ェだろーが。」
「………なっ、」
驚きのあまり、恐怖のあまり、私は言葉を組み立てられない。
そりゃ、銀ちゃんがドSだと思う事はあったけど、こんな直接痛みを与えられた事はただの一度だって無い。
…私の目の前にいるのは、本当に銀ちゃん?

「真弓、あんま俺を失望させンなよ。今日は土方達と遊ぶ約束してるって、……俺が知らねェとでも思ったか?」
「何で、……!」
それを銀ちゃんが知ってるわけ無い!
だってそれが決まったのは教室を出る寸前で、私は先生のところに寄ってから行くねって言ったのは本当についさっきの事なのに。
「土方に沖田に近藤に神楽に志村だっけか…。ファミレスで勉強できるメンツじゃねーな。勉強なら俺が教えてやンのに、何でわざわざ他の男と勉強するかねェ…。ヤキモチ妬かせてェの?それとも、仕置きされたいか。」
「っ変、だよ!銀ちゃん、何か…恐い……っ。」
私はそれを言うのが精一杯。
でも、言わなきゃ銀ちゃんがどんどん違う人になってしまう様で耐えられなかった。
「はッ、俺はお前の方が恐ェよ。俺の気持ち分かっててやってンのか?どれだけ俺に愛されてっか分かってねェからそんな事言うンだろ!?…俺はな、真弓。お前を殺したくなる位ェ、愛してンだよ。」
「ころ、し……ッ!?」
銀ちゃんの赤い瞳がゆらりと揺れて、私の心臓が掴まれたように一度強く跳ねる。
ここまで来るともう冗談じゃなく誰かに助けを求めなきゃ…。
こんなに体の震えが止まらない。
だって、今の、本当に人を殺せる目だった…ッ!

「や、やだッ!…離してッ!…誰か…っ!」
暴れようにも両腕はしっかり固定されているし、足も上から体重を乗せられてしまえば動かす事が出来ない。
「…あぁ、安心しろって、本当に殺したりはしねェから。殺すならお前じゃなくて、俺等の邪魔をする人間に決まってンだろ?」
私を安心させるような優しい声音で凍りつくような言葉を言う。
まるで、映像と音声と字幕が全て違う映画みたい。
矛盾するそれを、私の脳は処理しきれないでいる。
銀ちゃんは優しい顔、優しい声で、温度が噛み合わない言葉を続けた。
「……ま、俺は真弓の眼だけだとか、指だけだとか…真弓をバラバラの瓶詰にしても愛せるけど…。でも、お前だって俺と一緒に生きたいもんな?」
「銀、」
「だけど万が一、誰か別の奴のモンになるって言うなら保証しねェけどな。お前だって俺と離れたくないだろ?真弓には俺が必要だし、俺には真弓が必要だからなァ?…くくっ、ははは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

……銀ちゃんが、壊れた。

目の前で起きている事が私のキャパシティを振り切って、何だかもう幻を見ているような気分だった。
銀ちゃんはぴたりと笑うのをやめると、今度は私の耳に直接言葉を流し込む。
「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ。分かるだろ?」
「ひっ………!」
耳元という場所、熱っぽい声、理解を越えた恐さ。
私が銀ちゃんに言葉を返せないままでいると、銀ちゃんは顔を上げて真っ直ぐに私を見つめた。
「こんなに好きなのにこんなに愛してるのに、どうして分からねェんだ。俺の心も血も肉も全部全部真弓の物だ。お前もそうだろ?…言え、お前も俺と同じだって。」
同じ。
そうだとは答えられなかった。
答えたら、私はどうなるの……?
だから、横道に逸れた曖昧な答えしか出来ない訳で。
「わ、私も、…銀ちゃん、好き…だよ…?」
「……なら、ここで証拠見せてくれよ。俺しか見えねー、俺しか愛さねー、俺が全てだって証拠。出来ンだろ、なァ?」
唇が触れてしまいそうな程、近付いてきた銀ちゃんの瞳の色に酔ってしまいそう。
その瞳にはガラスに写るように、怯えた私が捕らえられているのが見えた。
「でも…っ、今の銀ちゃん、は……恐い。いやだ…。」
「…何?嫌いだって言いてェの?」
銀ちゃんの声が低くなった。
感情が宿ってないような冷たくて無機質な声。
暫く私の顔を見て、はぁ、と溜め息を吐きながら銀ちゃんは悲しげな顔をする。
「…俺の事好きじゃねーなら、生きてても仕方無ェよな。……一緒に死のうか?」
「!? …ぁ、…た、助け、っ」
「ははは、冗談に決まってンだろ。……。でもまた俺の事が嫌いだって言うなら。……分かるよな?」
念を押すようなその言葉に、私のカラカラに渇いた喉が鳴った。
「何だ、喉渇いてンのか?…待ってろ。」
そう言って、銀ちゃんは私から離れ、恐らくこっそり持ち込んでいる小型冷蔵庫に向かう。
(チャンス…!)
銀ちゃんが私に背を向けている今なら逃げられる!
この姿で外に出るのは嫌だけど、ここに留まるよりはきっといい。
私は慌てて体を起こし、国語準備室の扉に手を掛けた。
だけど、スライド式のその扉は横に動く事なく、その場でガタガタと重い音を出すだけ。
「うそっ!?何で?何で開かないの…!?」

「どうしたどうしたァ?……まさか俺から逃げられると思ってンの?」
頭の上から楽しそうな声が降ってくる。
ゆっくり振り返ると、いちご牛乳のパックを片手に持った銀ちゃんが、私に触れるか触れないかのギリギリの距離で立っていた。
「ドア…が…、」
「ん?あァ、内側からも鍵掛けれるようにしてンだよ。…これな。」
銀ちゃんは白衣のポケットから鍵を取り出しクルクルと指で回す。
何で、という言葉が発せられなかった私の感情を表情から読み取ったのか、銀ちゃんはニィッと笑って鍵をポケットにしまった。
「飲み物があんま残ってなくてよ。…せっかくだから直接俺の手で飲ませる事にした。」
「直接、……?」
一口分も残ってるか分からないくらい軽い音を立てて、いちご牛乳が銀ちゃんの左手に注がれる。
「ほら。」
「!?」
その掌を口元に近付けられ、私は反射的に首を横に振った。
「最後まで上手く飲めたら、ご褒美やるよ。どうする?」
「………制服。」
「それはお前の頑張り次第だな。」
どのみち逃げられないのなら逆らわない方が安全に違いない。
私は銀ちゃんの手に両手を沿えて、ゆっくりそれに口を付ける。
「言っとくけど溢したら無効だからな?」
「……わ、かってる…。」
その言葉は何となく予感していたから、掌のいちご牛乳を飲み切ると、指の隙間から手の甲へ流れた滴も舐め取った。
「はぁ…っ、すげー光景。なァ、そんな格好でこんな事させられてる気分はどうだ?」
……そんなの、良いわけない。
でも、それを言うと自分の首が締まるのは理解してる。

銀ちゃんは、私を大切にしてくれていると思ってた。
『お前は彼女だけど、まだ大事な生徒なんだ』って口癖の様に言うから。
だから肌を見せた事もないし、私からキスしてってお願いしてみてもお預けにされている。
そりゃ確かにデリカシー無いし、セクハラ発言はあるけど。
でも、突然こんなの…。

「もう…許して、銀ちゃん…、お願い……。」
銀ちゃんの手を握ったまま顔を下げると目から涙が溢れた。
すると、銀ちゃんは空いているもう片方の手で私の顎を掬う。
「銀ちゃ、」
「そんな目で俺を見ンな。……まぁ、風邪引かれても困るしな。これ着て、待ってろ。」
上からパサっと白衣が降りてくる。
……銀ちゃんの匂い。
いつもと変わらないそれに少し安心した。
でも、それと同時に思い出した。
(ポケットに、鍵…!)
制服を返してくれる保証もなければ、帰してくれる保証もない。
だったら、この白衣で体を隠して脱出しよう。
教室には体操服だってあるんだから。
私は慌てて白衣のポケットから鍵を取り出して、それを鍵穴に突っ込む。
「な、……え?……っ?」
鍵穴と鍵が一致しない。
そんなはず無い!
ポケットにはこれしか入ってないんだから!

「真弓チャンは"待て"も出来ねェんだなァ…?」
その言葉は頭上から降りず、首筋に当たり、ぞくりと鳥肌が立つ。
「……っ、」
数手遅れて気付いたのは、この鍵は扉の内側を開ける鍵じゃないって事だった。
「信じてたのに裏切るとか酷いじゃねーか、真弓よォ。……教育し直しだな。」
向き直った銀ちゃんは私の制服を持っていて、約束を守った銀ちゃんを裏切ったのは私だ、なんて一瞬でも思ってしまうほど私は空気に飲まれていた。
これ以上に怒らせたのなら、もう何をされるか分からない。
「……さァ、楽しい楽しい補習の時間だ。」
「や、だ……っ!」
壁に追い詰められて、銀ちゃんの腕の中に閉じ込められて。
恐怖で声が出なくなり始めた瞬間。

―私の携帯が鳴った。

「…学校ではサイレントにしとかねェと没収されっぞ。」
銀ちゃんは私から離れて、鞄に入っていた携帯を取り出す。
ディスプレイを見た銀ちゃんは、唇に人差し指を当てて私の方を向いた。
(喋るな、って事…?)
私は白衣を体に巻き付け、その場にしゃがみ込む。
「もしもーし。お掛けになった電話番号はー、現在使われておりませーん。…つーか、何でよりによってお前?……あぁ、そ。…あ、有村?まだいるけど?」
携帯から漏れ聞こえてきた声から察するに電話の相手はきっとトシだ。
私がいつまでも合流しないから心配して電話してくれたに違いない。
まさか、こんな事になってるなんて思ってないだろうな。
「お前ら先に行ってろよ。後で有村送ってくから。…おー、分ァってるって。ンじゃな。」
銀ちゃんは一度も私に代わらずに通話を終了した。
(助け、求められなかった…。)
銀ちゃんは携帯を私の鞄に戻して、こちらに近付いてくるから、私はさらに縮こまる。

「ほれ。」
「……え?」
恐る恐る声を辿ると、銀ちゃんが私に手を差し伸べていた。
「立てるか?」
「あ、……うん。」
この手は私を起こす為に差し出されたのだと分かり、手を重ねる。
そのまま引き上げられた私は銀ちゃんの胸に飛び込んでいた。
「ぎ、銀ちゃん…?」
「悪ィ…、あんまり真弓が可愛かったンでやめ時が分かんなくなっちまったわ。」
そう言って頭をゆっくり撫でてくれるその手は、いつもの銀ちゃんだった。
(か、かかか、可愛いって…!普段そんな事言われないから、恥ずかしい…!)
銀ちゃんの優しくて大きな手が気持ちよくって私は目を瞑った。
「ま、でもあんな感じってのは分かっただろ?」
「……へ?何が??」
思わず目がパッチリ開く。
あんな感じ?なにが??
ぽかんとする私を見て、銀ちゃんは顔を青くしていく。
「何が、って…。は?え、マジで?え??」
それから、さっきより強い力で私を抱き締める。
「苦し、……どうしたの、銀ちゃん?」
「いや、"ヤンデレ"って何かってお前が聞いてきたから、説明出来ねーし、こんな感じだって、…お前も分かっててノッてんのかと思、…………、ごめん。恐かったな。」

そっか…。
さっきのは、全部、銀ちゃんのお芝居だったんだ…。
あ、何か、安心したら……

「っ、おい!大丈夫か!?」
脱力してしまった私の体を銀ちゃんが支える。
「…………あ、れ?…何か、急に…。あはは…。」
「……あー…、ちっとやり過ぎたな。…よっと。」
銀ちゃんは私をゆっくり座らせると、白衣を脱がせた。
「やッ…!!」
「心配すンな。制服着せてやっから。」
その言葉通り銀ちゃんはテキパキと着せ替え人形よろしく私に制服を着せていく。
私の着替えを済ませてから、銀ちゃんは白衣を羽織り直した。

「銀ちゃ、…………"先生"。」
「は、はい!何でしょう、"有村さん"!!」
「すごく恐かったし、吃驚したし、悲しかったです。」
「……お、おー。反省してます…。」
「本当に?」
「本当です…。」
「……じゃあ、ここで証拠見せて下さい。反省してるって証拠。出来るでしょ、ねぇ?…許すかは銀ちゃんの頑張り次第です。」
「……う、相当根に持ってンな…。」
銀ちゃんは頭を抱えてあーとか、うーとか、唸りながらチラリと私を見て言った。
「ごめんな、…許して?」
言うと同時に私の唇に銀ちゃんが唇を重ねる。
触れるだけの優しいキス。
「…………大人って狡いね。そんなので許してもらえると思ってる。」
「いやマジで悪かったって!…どうしたら許してくれンの?」
そう言う銀ちゃんは切羽詰まったような顔をしてたから、だんだん許しても良いかなという気になる。
普段全然してくれないキスを許してくれるのは、私に対する精一杯の甘やかしなのかもしれない。
「優しく撫でて。コーヒー牛乳奢って。テスト範囲のヒント頂戴。」
「くはっ、そんなんで良いのかよ。…かしこまりましたァ。」
銀ちゃんは安心したように笑い、くしゃりと私の頭を撫でた。

私は体に付いた埃を払う。
「っていうか先生、あれセクハラっていうか犯罪ですよ。わざわざ脱がす必要無かったじゃないですか。裁判起こしたら慰謝料取れますよ。社会的に抹殺出来ますよ。」
「ちょいちょい有村!お前さっき許してくれたンじゃねーの!?……別にいーだろ?責任なら取ってやるし。」
そこまで言って銀ちゃんは伏し目がちに続ける。
「……あー…、嫌いになったか…?」
「…………嫌いになった。でも、やっぱり好き。」
「おま、一瞬心臓止まりかけたわ。何してくれやがンだコノヤロー。」
「先生に恋してやがんだこのやろー。」
「! …ちょ、何、それ今までの仕返し!?一言一言が会心の一撃過ぎてクラクラすンだけど!?」
「ほらほら先生!私準備出来たから早く!」
「まさかのスルー!?……あー、先に校門前で待ってろ。俺もすぐ行く。」
「はーい!」
私は鞄を肩に掛けて国語準備室から出た。


「真弓は、さっきのが芝居じゃなくて俺の本心だって知ったら、……やっぱりお前は怯えるんだろうな。」
銀八は自嘲しながら、空になったいちご牛乳のパックを見つめた。
「はは…。なんつー矛盾…。」
真弓を護りたいから大切に側に置いているのに、真弓を危険に晒すのもきっと自身だと理解している。
窓から校門を見下ろせば、調度真弓が到着したようで、携帯でメールを打っているのが見えた。
「……悪ィな、それでも手離してやれそうにねェわ…。」

好きで、好きで、好き過ぎて。
それが純粋な愛なのか、ただの欲なのかも分からない程に。
溺れてしまって息が上手く出来ない。
そんな彼にとって真弓が酸素なのだとすれば。

「これからも、ずっと一緒だ。……ずっと、な?」


end

 
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