【銀時誕生日2013】
 
10月10日、お昼前。

今日は銀ちゃんの誕生日だ。
私と銀ちゃんが付き合って初めて迎える誕生日だから、最高の一日にしたい!
…と、思うのだけど。

「最悪だ…。」
生憎、朝から曇天。
お昼前には小雨が降りだす始末。
(うーん、デート日和にはならなかったなぁ…。)
一日おでかけする予定にしてたから、万事屋は臨時休業。
(まぁ、毎日臨時休業みたいなものだけど…なんて。)
私も昨日今日と勤務先の甘味処のシフトから外してもらった。

そう、昨日は健気にもデートの下見をしていたのだ!

…うん、分かってる分かってる。
そういうのって男の人がエスコートするもんだよね。
いや、でも、私がデート行こうって誘ったし、
自分の誕生日デートを企画するっていうのも、ね?
せっかくだから、ちゃんとお祝いしたいし。
その為に、めんどくさがりな銀ちゃんを連れ出す為に頭下げたし、私の奢りにしたし!

(あれ…?私たち本当に付き合ってるの…?いやいや、付き合ってるよ!)

一人ツッコミもしたところで、万事屋に到着。
結野アナによると今日は一日雨らしい。
これはおうちでDVD鑑賞会かなぁ…。

「お邪魔しまーす。銀ちゃんの彼女が遊びに来ましたよー。」
しん、とする室内。
(え、私、本当に彼女じゃないの!?…って違う!)
おかしいな、玄関開いてて留守のはずがないんだけど…。
声が聞こえなかったのかと思い、玄関に傘を立てかけ、靴を脱いで奥へと進む。
いつも寝転がってるソファーにはいないみたい。
(まさか。)
まさかまさか、彼女とのデートで寝坊とかないよね?
だってもうお昼だよ??

そう思いつつ、銀ちゃんの寝室の襖に手を掛ける。
…いた!まだ布団の中にいたー!!!
「あ、ありえない…。」
嘘だー、私だけ今日のデート楽しみにしてたってこと!?
何だか悔しくなってずんずんと銀ちゃんの布団の横に近づく。

「ええーい!もうお昼だよ!起ーきーろー!!」
力いっぱい掛け布団を剥ぎ取ると真っ先に綺麗な銀色が目に飛び込む。
それと対照的な赤い…。

赤…??

「…んー…?あれ、真弓、何で、ここに…?」
半覚醒状態の銀ちゃんの鼻に掛かったような掠れた声を聞いて確信する。
「だ、大丈夫?熱??熱があるの??」
普段死んだ魚みたいな目は、本当に死んでて、でも、熱のせいで少し潤んでて。
起き抜けでまだ呂律もあんまり良くないのは、喉を痛めてるのも関係ありそう。
「おー…。」
けだるそうに返事をする銀ちゃん。
「いつから?ちゃんと薬飲んでる?」
「おー…。」
ダメだ。返事する元気もあんまりなさそう。
「神楽ちゃんや新八くんは?今日はいないの?」
「…ん、新八は帰って、で神楽は、夕方、お妙ンとこ…。」
「ちょっと、本当に大丈夫??」
あれだけ舌の回る銀ちゃんがこんなカタコトみたいな喋り方!

えっと、夕方?
今はお昼前だから、昨日かな?
昨日の夕方から神楽ちゃんはお妙ちゃんとこにいるのか。
ということは、新八くんも昨日の夕方からは来てなさそう。

「明日、までに…。」
「ん?なぁに??」
「治す、」
「明日?何か依頼でも入ってるの?」
途端に銀ちゃんの目がカッと見開かれる。
どうやら完全に覚醒したようだ。
「…はァ?おま、自分からデート、…ッ!」
声を張ったら苦しかったのか、一瞬言葉につまる銀ちゃん。

(しかし、会話が噛み合わない。)
落ち着け落ち着け、一生懸命頭の中で整理してみる。
「銀ちゃん…、もしかしてだけど。それ、今日だよ?」
「…あァ?」
「たぶん、神楽ちゃん達が出かけたのは昨日の夕方。今は10月10日のお昼デス。」
「ちょ!え、まじでか…!」
勢いよく体を起こしたと思ったら、ふらりとまた布団に倒れこむ銀ちゃん。

「…悪ィ。ちょっと横になってた、つもり、で…。」
どうやら、そのまま今の今まで眠ってしまっていたらしい。
あー、とか、うー、とか、最悪だー、等と唸る銀ちゃんに、軽く微笑み返す。
「大丈夫だよ。今日は一日雨だし、デート出来なかったよ。」
安心させるようにふわふわの銀髪を撫でる。
寝汗なのかな、ちょっと冷たい。
「待ってて、今タオルと氷嚢持ってきてあげるから。…他にいるものある?」
「…いちご牛乳。」
「了解。じゃあ薬は苦いの持ってきても良さそうだね。」
そう言うと銀ちゃんは小さく、ひっでェ、と呟いた。
銀ちゃんが私に言い負かされるなんて、明日は雨どころか槍が降ってきそうだ。

台所へ向かおうと立ち上がり掛けた体がぐいっと引っ張られる。
「ちょ…っと…!」
布団の横に倒れ込み、目の前には銀ちゃんの顔。
「感染すといけねェから、やっぱお前、帰れ。」
熱で潤んだ瞳があまりにも真剣。
あぁ、心配されてるんだなぁ、愛されてるんだなぁ、なんて心が温かくなる。
「ダメでーす。今日は銀ちゃんと一日デートって決めてるから帰りません。」
「真弓…!」
「でも、銀ちゃんをここまで弱らせちゃう風邪って逆に感心しちゃう。」
私の言葉に何か言いたげに銀ちゃんが口を開いたのを確認して、軽く口付ける。
「ちょ、おま、…な、何して…!?」
「…うん。手遅れです。私も感染してしまいました。…だから、一緒にいるね?」
「…あーもう!敵わねェわ!好きにしやがれコノヤロー!」
そう言いながらも少し嬉しそうに笑う銀ちゃんを見て、私も笑う。
ゆっくりと体を起こし、ふと本題を思い出した。

「ね、銀ちゃん。お誕生日おめでとう。」
「おー…。風邪引いたのが今日で良かったわ。」
「え?何で?」
「一日真弓を拘束出来っし、我儘聞いてもらえるしな。」
にたりといつもの調子で笑って言う。
「え、と…。可能な範囲でね?」
「まず、風邪が治ったらデート仕切り直し!」
「! うん!」
「プレゼントは真弓で、」
「は、…えぇ?」
「…んで、来年以降も銀さんの誕生日を祝ってくれる予約。」
「!」

来年以降、かぁ…。
(これからの銀ちゃんの誕生日はずっと隣で祝いたいな。)
「はい、喜んでー!予約入りましたー!」
照れ隠しに居酒屋っぽく返事をすると、銀ちゃんは壮大に吹き出して咳き込んだ。
「わ、大丈夫?すぐ戻ってくるからね!」
そう言って私は足早に台所に向かった。


銀時だけが残り、一瞬静寂が訪れる部屋。
「分かってンのかねェ…。今の、ほぼプロポーズなんですけどォー…。」
ぽつりと呟いたその言葉は台所には届かない。
真弓が台所でバタバタする音と雨の音だけを拾いながら、静かに目を閉じた。

10月10日、お昼過ぎ。
最悪だと思った一日のスタートも、君と居れば最高の一日!


end

 
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