【ブラックアウト!】
 
「ふぁ…ねむ…。」
私は台所で欠伸を噛み締めながら、耐熱性のコップに牛乳を注ぐ。
時計はもうすぐ日付が変わる事を示していた。
どうりで眠たいわけだ。
明日は万事屋が一日がかりの仕事らしいので、私は万事屋に泊まり込んで皆のお弁当の仕込みをしている。
炊飯器の起動は今ので二回目。
お米は私がここに来る途中に買ってきてあげた。

「お疲れー…って、うぉ!?何だその量!?」
台所を覗いて目を丸くしているのは、お風呂上がりの銀ちゃん。
うーん、シャワーより天パの方が強いか…もう、はねてる。
「明日の朝とお弁当用。神楽ちゃんいっぱい食べるし、新八君のも必要でしょ?」
「あぁー…、悪ィな。」
「んーん。好きでやってる事だし。…あ、銀ちゃんもホットミルク飲む?電子レンジだからすぐだよ。」
「お前ね、風呂上がりにホットミルクとか拷問ですかコノヤロー。冷たいの頼まァ。」
「はーい。」
コップを電子レンジに突っ込んで、温めボタンをピッ。
そのまま冷蔵庫を開けて牛乳を取る…つもりだったけど、こっちだろうなぁと思っていちご牛乳のパックを取って銀ちゃんに渡す。
「あ、電子レンジ使うと牛乳に膜が出来るんだよね。あれ、ラムスデン現象っていうらしいよー。」
「へぇー。」
さも興味無さげにタオルで乱暴に髪を拭きながら返事する銀ちゃんの横に並ぶ。
何て言うか、お風呂上がりはマダオな銀ちゃんも大人の魅力がある…気がする。
いちご牛乳を飲んで上下する喉とか、首筋に張り付いた髪の毛とか。
「…何。」
タオルの隙間から赤い瞳が私を捕らえる。
あんまりジロジロ見てたからか、居心地悪そうな顔をされた。
「ホットミルク出来るまで髪乾かしてあげる!…あと50秒だけど。」
「ちょ、おま、それ50秒ジャストで放置する気満々だろーが!一度決めた事は最後まで責任もってやりなさい。」
「…確か、ドライヤーがここに…、」
「既に放置されてるぅぅー!!!」
銀ちゃん、夜中なのに賑やかだなぁ…。
神楽ちゃんは多分起きないだろうけど、明日の朝、お登勢さんに叱られても知らないよ?
「あった!あと30秒!」
「どう考えても無理だろ!半端な優しさは悲しみを生むだけだから!気持ちだけもらっとくからァァァ!」
「もー、覚悟ー!!」
私はドライヤーをコンセントに差して、銀ちゃんに向けてスイッチオン。
その瞬間。

バツン ッ …

家の電気が全部消えて、炊飯器や電子レンジの音も消えた。
「ありゃ。」
「ぎゃああぁぁぁぁああぁ!!」
ちなみに叫んでいるのは私じゃなくて銀ちゃん。
すっかり忘れていたけど、この男、暗い所やオバケが怖いのだ。
女子か…ッ!
(新八君ならもっといい感じのツッコミくれるだろうな、きっと。無念。)
私も突然の停電に驚きはしたけど、原因が分かってるから怖さは無かった。
「ブレーカー、落ちちゃったみたいだねー。三つ同時は駄目かぁ…、覚えとこ。」
「………。」
「…銀ちゃん?」
話しかけても銀ちゃんから返事はない。
私がドライヤーを向けてる方向にはいるはずなんだけど…。
「もしもし、銀ちゃんー?…ッ、きゃ、……ビックリしたぁ。」
突然何かが飛び掛かってきたかと思えば抱き締められ、あぁ銀ちゃんか、と思った。
すると、ポタリと頬に水滴が落ちてきた。
「ちょ、髪の毛濡れたままじゃない!冷たいー。」
引き離そうと身を捩るも、銀ちゃんはさっきよりも力を入れて私を抱き締める。
「ここで銀さん突き放すとか、真弓の方が冷てェわ!!」
「…何、そんなに怖いの?」
「ばばば馬鹿言えっ!ンな訳あるか!真弓が暗闇でスッ転ばねーようにだな!」
「わー、さすがー、やさしいー。」
「棒読みィィィ!!」
怖いくせに決して認めようとしないところは実に子供っぽい。
降ってくる水滴は冷たいのに、お風呂上がりの銀ちゃんの体は熱い。
…何だか、こっちが逆上せそうだ。

「ね、そろそろ離し、……ゃ、ちょっと!どこ触ってッ、」
「どこって、……分かってるくせに。」
無遠慮に私の体を這い回る銀ちゃんの手を掴むも、それを制するには至らない。
声色もさっきの怖がっていたものとはまるで違う。
経験上、これはからかいの時じゃなくて、本気の時の手付きだと分かり、若干焦ってきた。
気付いたら壁際に追いやられてて、見えなくても自分の家だからきちんと把握出来ている事が分かる。
さっきまで暗闇に怯えてたくせに…!
「ゃ、だ…!も、セクハラ…っ!」
「…もう気を紛らわさずにはいられねェんだよ、こっちは。」
「そ、そんな理由で、触らないで…っ。」
「じゃあ、どんな理由なら触って良いンですかァ?」
「…ッ。」
ほ、本当に子供なんだから、この男は!
さっきの停電で私が優勢だったのが悔しいらしい。
おかげで今は主導権が完全に入れ替わってしまっている。
そして、それを受け入れてしまいそうな私も私だ。

「…、…っは、…銀ちゃん、っ。」
「何?…夜目が利かない方が興奮すンの?」
意地悪く耳元で囁かれ、背筋にぞくぞくとした感覚が走る。
結局、銀ちゃんを振り解けなかった私は流されてしまっていた。
あちこち触られて着物は乱れてるだろうし、顔も熱い。
多分お風呂上がりの銀ちゃんより、私の方が体が熱いんじゃないかと思う。
「顔が見れねェってのは頂けねーが、声だけってのも意外とエロいな…。」
「な、…何、その分析っ、…っばか!」
首筋に何度もキスを落とされて、もう私に余裕なんて残ってるわけない。
それに気を良くしたのか、銀ちゃんは何故か暗闇なのに絶好調。
でもこれは確かに気は紛れるのかもしれないけど、根本的解決にはなってない。
「銀ちゃっ…、…ぅ、」
「…は、…ンな声で名前呼ぶな…。何、…我慢出来なくなっちまった?」
「あ、のね…、……。」
うん?と聞き返す銀ちゃんの声の熱っぽさにクラクラする。
だけど、負けない…!!

「あのね!………、銀ちゃんの後ろに蒼白い顔で髪の長い女が立ってて、ずっとこっち見てるよ。」
「ぎゃああぁぁあぁぁあぁ!!!!」


壁を伝いながら歩く。
体が重くてなかなか思うように進まないけれど。
「もー…、ごめんってば。銀ちゃんだって悪いんだからね?」
思ったより効果抜群の台詞になったようで、私は見事銀ちゃんの腕から脱出出来た。
っていうか、電気点かなくて一番困るの銀ちゃんなんだから協力してもらわないと…!
それでも、銀ちゃんは拗ねてしまったみたいで、私を後ろから抱き締める体勢のまま私に付いて歩いた。
やっぱり暗いのは怖いらしい。
いつも私の方がいいようにされる事が多いだけに、銀ちゃんの弱点はちょっと楽しい。
「……よがってたくせに。」
「ねぇ、丑三つ時の押し入れの隙間ってさ…。」
「すみませんでした真弓様ァァァ!」
うぐ、あんまり強く抱き締められると体が軋む。
自分の力加減分からなくなるくらい怖いんだろうか…。
何だろ、面倒臭いって思う気持ちもあるんだけど、守ってあげたくなる気持ちもあって、…これが母性本能でしょうか?

「ブレーカーってどこだっけ?玄関?」
「……暗闇の中、勇敢だねェ真弓チャンは。」
「まぁ、原因が分かってるからね。それに、銀ちゃんが一緒にいるのに怖いわけないでしょ?」
「! すげー爆弾ぶっ込むんじゃありませーん。」
あ、照れてる。
突然厭らしい事を平気な顔でしてくるのに、こういう反応は狡いと思う。

玄関まで来ると、月明かりで少しだけ明るい。
「ここまで来たら怖くないんじゃない?」
「別に怖いなんて言ってねーし。」
「ふふ、そうだね。言っては無いよね。」
「コラ、笑うな。」
照れ隠しにコツンとおでこを突かれて、銀ちゃんがようやく私から離れる。
ん…、何か急に肌寒いな…。

「ブレーカー…、これだな。」
銀ちゃんは、私じゃ背伸びしても届かないブレーカーのスイッチを元に戻した。
その瞬間、家の電気が全て復活する。
「っあぁぁー…!疲れた…。」
「あはは、大袈裟!お詫びに髪乾かしてあげる!ちゃんと乾くまでやるから、ね?」
「しゃーねェなァ。乾かさせてやるかー。」
「はいはい、ありがとーございまーす。」
銀ちゃんの背中を押して台所へと戻る。
あ、炊飯器だけは動かしとかないと…。
椅子に銀ちゃんを座らせてドライヤーを構えるのと同時に、神楽ちゃんが目を擦りながら台所に入ってきた。
「お前らうるせーアル。目が覚めたネ…。」
「ご、ごめんね。何か飲み物淹れようか?」
「んーん。真弓はそこの毛玉を乾かしてやると良いネ。」
「毛玉って俺の事?ねェ神楽チャン、毛玉って俺の事かコノヤロー!」
銀ちゃんが吠えるのを無視してドライヤーオン!
風邪引いたら困るし、早く乾かしてあげよう。
あー、もふもふ。
何か犬を乾かしてあげてるみたい。

「ん?電子レンジに何か入ってるアル…。おぉ!牛乳がスタンバイされてるネ!ホットミルクにするアル!」

その言葉はドライヤーの送風音に掻き消されて、私にも銀ちゃんにも届かなかった。
…そして。

バツン ッ …

電気回復から十分もしないうちにまたブレーカーが落ちたのだった。
「ありゃ、二回目。」
「ぎゃああぁぁぁぁああぁ!!」

完全に心が折れた銀ちゃんを玄関まで引き摺り、再びブレーカーを元に戻すと、もう寝る!と乾かないままの髪で銀ちゃんは布団に潜り込んだ。
さすがに二回目ともなると、恐怖より疲労感の方が見えた気がする。

それから暫くは、ホットミルクはコンロで作るというルールと、髪はタオルドライというルールが出来たらしいと神楽ちゃんから聞いた。
…部屋のいたる所に懐中電灯置いといてあげようと思った私なのでした。


end

 
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