【狂愛生徒2】
 
放課後の国語準備室。
運動部の声に隠れるかのように、 水音と嬌声が混じる。
「んー?またイきそう?」
聞きながらも打ち付ける腰の速度は落とさない。
いつもそうだ。
私に優しく話しかけるのに、この行為は止まらない。
待って、とお願いしても止まらない。
先生は余裕そうな顔をしているのに、焦るように私を抱く。
(どうして…。)
どうして、こうなってしまったんだろう。

先生に犯された回数は両手で数えられなくなってから、もう分からなくなった。
ほぼ毎日、間が空いても2日に1回は国語準備室に呼び出されている。
今回は、昨日も一昨日も呼び出されたから連日だ。
先生の都合で呼び出され、言われるがままに身体を差し出すだけの関係。
(どうして…。)
どうして、私はまだ先生のことが嫌いになれないのだろう。

勘違いしてはいけない。
この行為は、…愛じゃなくて、ただの欲なのだから。
弱みを握られた私が一方的に支配されているだけなのだから。
まとまらない思考と、快楽を感じるように作り替えられた身体で、頭がぼんやりとしてくる。
「俺より棒に夢中ってか。…はぁ、…は、っ、俺も、…もう出るッ、」
先生は押さえていた私の腰をさらに引き寄せ、今日2回目の精液を私のナカに流し込んだ。
先生が笑う。
その表情は、蠱惑的で扇情的で。
(どうして…。)
どうして、私はまだ先生のことが、こんなにも好きなの?

私は先生に逆らえないことを再確認してしまうだけで、ぼんやりとした頭のまま、ただ天井を見つめていた。

**********

財布の事件で初めて国語準備室に呼び出された次の日、私は早速この場所を訪れることになる。
当然、先生からの呼び出しだ。
本当に然り気無く、放課後またおいで、とすれ違いざまに伝えられた。
その熱っぽい声に驚いて先生の方へ振り返ったけど、その時にはもういつもの先生の顔だった。

期待と後悔に苛まれながら、私は国語準備室の扉を開けた。
「はい、いらっしゃい。」
先生は机に頬杖をついたまま、私に真っ直ぐ微笑みかけた。
昨日、ここで何も起きなかったみたいに。
(…違う。何も起きてなかったら、先生が私に声を掛けたりしない。)
先生は、どういうつもりで私を犯したのだろう。
躾?体罰?
先生のストレス発散?
ただの気まぐれ?
そこに、ほんの少しでも愛情があれば良かったのに。
不覚にも目頭が熱くなってきたのが分かる。
先生は無言で少し涙ぐんでいる私を見て、言った。
「心配しなくても、誰にも写真を見せたりしてねェよ。…まだ、な。」
どうやら私が写真のことで思い詰めていると考えているらしかった。
(普通の生徒なら、そうなんだろうな。)

私はこの件に関しては、ひどく冷静だった。
脅しの材料としての写真が存在するなら、私が先生に逆らわない限り、流出はしない。
仮に流出したら脅せなくなって、私が先生に従う必要は無くなる。
私を支配できなくて困るのは先生なのだから。
いや、困りはしないかもしれない。
私の代わりなんていくらでもいるだろう。
(その方が、私には堪えるよ…。)
こんなに浅ましくて報われない独占欲があるなんて知らなかった。

言葉を返さない私を見て、脅しが成立したと思ったのか、先生はゆっくりと私に近付く。
その目が爛々としていて、私は昨日のことを思い起こした。
先生は私のセーラー服を目繰り上げると、昨日の痕をまじまじと見た。
私もお風呂場で自分の身体を見て、生々しく残ったキスマークに何とも言えない気持ちになった。
どんな経緯でも、好きな人に触れられた証、なのだ。
暫く私の肌を眺めていた先生は、無言のまま私のセーラー服を元に戻して、漸く口を開いた。
「んじゃ、今日はこっち座って。」
指差されたのはソファーだった。
先生がよく仮眠を取ってるという、ある意味聖域だ。
あのソファーに座ることを許された人間なんて、この学校にいるんだろうか。
「……あの、先生、私、」
「悪いようにはしねェから。写真、消して欲しいんだろ?」
促されるように先生の手が私の背中を軽く押す。
私が大人しくソファーに座ると、先生もすぐ横に腰を下ろした。
(近い…っ。)
私は体温が上がったのをバレないように、少しだけ端に寄った。
「受験勉強は順調?」
「……はい、今のところは。」
「ふはっ、そんなに警戒すンなよ。順調なのは良いことじゃねーか。お前、授業も真面目に頑張ってるもんな。えらい、えらい。」
肩を抱くように腕を回し、先生は私の頭を撫でた。
先生の声、煙草の匂い、伝わる体温。
きっと私の顔は真っ赤だろう。
先生にとっては何てことない仕草かもしれないけれど、私はそれだけで幸せで胸がいっぱいになる。
もちろん、これが温かな関係性で無いことを理解していたとしても。

「そんな頑張ってる有村には志望校合格して欲しいんだよ、先生は。…でも、先生、口軽いからさァ?」
ほら。
見たことのない表情の先生。
「…っ、昨日の、"私の頑張り次第"って……。」
私は予感している。
これから、普通じゃないことが起きるのを。
「そ、有村がちゃんと先生の言うこと聞けたら、写真も消してやるし、窃盗の件は一生黙っててやる。進路の相談もしっかり乗ってバックアップまでしてやる。だから、一緒に頑張ろうな?有村。」
言いながら、先生は私をソファーにゆっくりと押し倒した。
私は返事も、抵抗も出来なかった。
ただ、財布のことを説明するタイミングを逃したことだけは理解した。

「ほら、あーん。」
先生にそう促されるまま私が口を開けると、ぬるりと先生の舌が捩じ込まれた。
「んんー…!」
「っは、呼吸止まってンぞ…。ん、…」
閉じられなくされた口の端からはだらしなく唾液がこぼれおちた。
息継ぎが上手く出来ずに苦しくなってきたところで先生は私を開放して、そのまま耳元で言った。
「慣れるまで、これからたくさん練習しような?」
「っ、」
「何、もしかして耳弱いの?」
「ぁ…、違っ…、」
違わなくは、ない。
浅ましくも想像してしまったからだ。
これからたくさん練習する、という言葉の意味を。
(あとは先生の声と吐息が耳元でしたら、反応しない方が無理だよ…。)
そんなことを思っている間も、先生の舌が耳朶と首筋に這う。
きっと顔も真っ赤だし、汗もかいてしまっているのが何だか恥ずかしくて、先生の体を押し退けようとしたけど、やっぱり私の力では無意味だった。

「たーっぷり愛撫してやりてェんだけど、今日はメインイベントがあるから、ちょっと我慢な?」
「え…?」
メインイベントという単語を反芻している間に、先生は私のスカートの中を弄って下着を剥ぎ取った。
あまりの手際の良さに、一瞬何が起きたか分からなかった。
「っ、…先生、返して…!」
「うん、返す返す。まァ、全部終わってからな。」
言い終わると同時に私の太股を掴んで大きく開脚させた。
(嘘…、え…、)
声も出なければ、頭もフリーズしてしまった。
だってこの格好じゃ恥ずかしいところ全部見えちゃう…!
「何?昨日も見てンだし、そんな顔すンなって。…ここ、たくさん可愛がってやっからよ。」
先生は私の顔を見て、何事でも無いように笑う。
そして、敏感な芽に指を這わせて優しく撫でた。
その表情に、声に、指先に、勘違いしてはいけない。
先生も、少しは私のことを…なんて。
心を落ち着かせるように首を振ると、私に触れていたそれは指から舌に変わった。
(そんなとこ、綺麗じゃないのに…また先生の舌…っ。)
動揺と羞恥で漸くか細い声が出た。
「ゃ、…だ…」
「んー?じゃあ、嫌じゃなくなる、まで、…ん、"頑張って"みようぜ…、」
真意とは違う意味で取られた言葉は、先生を煽ったらしい。
音を立てて舌を動かされると、静かな国語準備室内に厭らしく響く。
与えられた刺激と、聞こえる水音に興奮して濡れてきたのが分かって、私は思わず両手で自分の口を抑えた。
それを悟られたのか、先生は舌と指を使って私を絶頂へと追い詰めていく。
気持ち良すぎて頭がどうにかなってしまいそうだった。
ダメだ、ダメ…。
「っ、こんなの、…、」
「"気持ち良くて仕方ない"?…だろうね、もうイキそうだし。」
「……んん、ぁ、あぁっ」
私はまた先生の前で痴態を晒してしまった。

「気持ち良かったみたいで何よりだけど、今日はもう少し進路の"相談"しような。」
言い終わるやいなや、先生は私の蜜壷に指を差し込んだ。
先程達したばかりのそこは、先生が指を動かす度に、ぐちゅりと卑猥な水音を鳴らした。
「せんせ、…何して…」
「大事な準備だよ。有村がちゃんと卒業する為の、な?」
私のナカで先生の指が蠢く。
私でさえ触れたことのない場所だ。
先生は空いている反対の手でベルトを外して、それを取り出した。
現実じゃないみたいで、目が離せなかった。
「……あ…ぁ…」
「有村、ちゃんと見て。…これから何するか、分かるよな。」
先生の声が遠くに聞こえる。
きっと興奮していて存在感を増し、少し濡れているそれが、何を意味しているのか。
(私…先生と、セックスするんだ…。)
まるで恋人みたいだ。
一瞬うっとりして、我に返る。
私達は、弱みを握った教師と弱みを握られた生徒で、以上でも以下でも無いというのに。

先生はゆっくりと指を引き抜いて、愛液に濡れた指先を舐めながら、主張しているそれを私の秘部に宛がった。
多分、指で広げてくれていたのだろうと思うけれど、サイズ感が圧倒的に違う。
圧迫感がすごくて、入る気がしない。怖い。
「ゃ、だ、……せんせ、…痛いっ、」
「んー…皆"初めて"は痛いらしいからなァ…。まだ全然入ってねェけど、すぐ慣れると思うぜ。」
先生は痺れを切らしたのか、強引に挿入していく。
痛くて苦しくて呻いても、先生は止めてくれなかった。
「っく、…キツ過ぎ…、はは、これは痛ェだろうね。」
欠片も気持ちよくない。
ただ痛いだけのその行為が辛い。
なのに、先生の欲情した表情を見るとたまらない気持ちになる。
これが、先生の感じている顔…。
今、私だけが見ている顔…。
「有村、すげーイイよ。…我慢しようと思ってたけど、このまま出すな?」
「え、ぁ…、待っ、…」
そういえば先生、ゴム付けてなかった気がする。
突然の言葉にロクな返事も出来ないまま、先生は私のナカにたっぷり欲望を吐き出してからそれを引き抜いた。
私は内側の圧迫感から解放されて、ぐったりしてしまった。
(私…"初めて"を、先生としたんだ…。)
その現実だけを何回も何回も噛み締めていた。
身形を整えた先生は私の横に座る。
「よしよし、よく頑張りました。」
先生の大きな手が私の頭を何度も優しく撫でた。
(……気持ちいい…、幸せ。)
私はゆっくりと瞳を閉じた。
始まりや動機は普通じゃないかもしれないけど、ここからお互いに愛し合える未来もあって良いんじゃないかな。
なんて、瞼の裏でそんな甘い夢を抱いてしまう。

「身支度は俺がしてやるから、これ飲んで。」
甘い夢は、ただの夢だと突き付けられるまで、あっという間だった。
手渡されたのは水と錠剤。
「これ…?」
「アフターピル。子供が出来たら困るだろ。」
先生は淡々と告げながら、私の体をタオルで拭いていく。
(あぁ…、そうだよね。子供なんて出来たら、先生困るよね…。)
勘違いしちゃいけないって、何度も言い聞かせたのに。
先生にとって私はどうでも良い存在なのに。
そうだよ、本当に私のことを思っていたら最初から避妊するはずだもん。
それに、当たり前みたいにアフターピルが出てくるのだっておかしい。
好き勝手抱いて、無かったことに出来る薬。
いつから?
昨日からこうするつもりで用意してたの?
それとも、私以外に弱みを握っている誰かがいるの?
それは誰なの?
この国語準備室で、私にしたみたいなことをするの?
(狂ってる。)
(仲間がいるなら結束出来ると思うよりも、その誰かに対する嫉妬心の方がずっと強いなんて、狂ってる…。)
私は絶望と嫉妬心の黒い気持ちに支配される。
返事も行動もしない私を見かねたのか、先生は私から錠剤を奪って口の中に捩じ込んだ。
「心配すンなよ。万が一があれば、堕胎の費用は俺が出すから。」
先生は口元まで水を運んでくれたけど、飲み込みきれなかった水が唇から一筋零れ落ちた。
アフターピルに、墮胎…。
そこまでして、自分の立場を守りたいんだね、先生。

分かったよ。

私も自分の立場を守りたい。
先生に呼び出されたら必ずここに来る。
でも、それは弱みを握られているからじゃない。
先生にもっと触れられたいから。
先生に他の女を抱かせたくないから。
国語準備室なら、先生は私だけを見てくれるから。

先生を手に入れたくて、一瞬でも勘違いでも、私だけの物にしたくて。
…そんな狂った私は、きっとこの時から理性など残っていなかったのかもしれなかった。

**********

ぼんやり天井を見つめていた私が体を起こすと、先生は水と錠剤を手渡した。
最初の何回かは、私がそれを飲むのを確認していたっけ。
背を向けて身形を整えている先生を見て、よく分からない胸の苦しさを覚えた。
(先生…先生…先生……。)
教えてよ。
どうしたら嫌いになれるの?
どうしたら好きなってくれるの?
分からない。
分からないよ……。

私は錠剤を隠してから、水を床に落とした。
「あ…。」
思わず漏れた声は、当然手を滑らせて驚いたからなんかでは無い。
私は初めて先生に逆らったという自覚から来たものだった。
先生は振り返って状況を確認すると、タオルを手に取って私に近付いた。
「あーあー…。ほら、ここは先生が片付けておくから、濡れたとこ拭いて制服着な。薬飲めた?新しい水、用意するか?」
優しい言葉。
優しい気遣い。
でもこれは愛じゃない。
愛じゃ、ないから。
「…いりません。」
私はポツリと呟いて、先生から目を逸らして身支度をする。
先生がじっと私を見ている気配がする。
それが嬉しくて、悲しくて、私の心はぐちゃぐちゃだった。
私はそのまま振り返らずに、国語準備室から出た。

その後、私はまっすぐ帰らず3年Z組の教室に向かった。
ただ泣きたかった。
最初は女子トイレを目指したけど、何人かの女子が楽しそうに話していたから通り過ぎた。
教室には当然、誰もいない。
私は自分の席に着くと、握りしめた掌を開いた。
小さい錠剤。
先生が、先生の立場を守る為の、冷たい薬。

そういえば。
私はいつから"財布を盗んでいない"と主張するのを止めたのだろう。
(…意味が無いと理解したからかもしれない。)
私が先生に伝えなきゃいけなかったことは『私は財布を盗んでいない』ではなかった。
それは事実だし、他の先生やクラスメイトにならその通りに伝えるのが正解だ。
でも。
でも、銀八先生に対してだけは、違う。
私が先生に主張しなくてはいけなかったのは。



「どうして先生は、私の鞄に、あの子の財布を入れたの?」



嗚呼、今思い出しても、信じられない。
けれど。
私が"真犯人"を最初から知っているのを、先生は知らない。


あの日、体育の授業中。
私は神楽ちゃんが投げたボールを顔面で受けて鼻血を出してしまった。
体操服にも血が付いてしまったから、一旦保健室に行って、その後は見学ということになった。
私は保健室に行く前に、ハンカチを取りに教室に向かうことにした。
そうしたら、誰もいないはずの教室には銀八先生がいた。
私は浅はかだったから、先生に心配してもらえるかもと足早に教室の扉の前まで来て、…気付いてしまった。

先生の手に、さっきクラスの注目を浴びていた財布が握りしめられている事に。

(え……?見間違い?……落ちていたのを拾ってあげた、とか?…あれ?授業でもないのに、何で先生は教室にいるの?)
ドッドッと心臓が嫌な鼓動を始める。
見てはいけないものを見てしまった、そんな気分だった。
私は教室に入るのを諦めて、逃げるように保健室に向かった。


「あの時…、無理やり教室に入っていれば、今の状況にはならなかったのかな。」
もしかしたら、私が先生の窃盗を目撃したことで立場が逆になっていたかもしれない。
少なくとも、その財布が私の鞄に仕掛けられることは無かっただろう。
(先生はどうして私に…。)
従順そうだから?
告げ口をしなさそうだから?
大人しそうだから?
支配しやすそうだったから?

なんて、先生のせいにばかりもしていられない。
狂った関係から抜け出す方法は、多分あった。
今でもあるんだと思う。
でも私はこのバッドエンドから抜け出す勇気が無い。

(…一回飲まないくらいでは、何かが起きたりはしないだろうけど。)

私は教室の窓から錠剤を投げ捨てた。
もしもこれで赤ちゃんが出来てしまったら、先生はどんな顔をするんだろう。
困った顔?迷惑そうな顔?
…いつもと変わらない顔かもしれない。
(堕胎の費用は出すって言ってたし、先生は"私個人"に興味なんて無くて、好き勝手出来る"生徒"に用があるんだろう。)
それでも、……私は先生の子だったら、愛したいけれど。
うん、分かってる。分かってるから。
現実的に考えて、ただの高校生の私が母親になることの無謀さを。

結局、私は先生に従っても逆らっても詰んでいるんだ。
ならこのバッドエンドの中、気が済むまで抗って、そしてそのままこの底なし沼にゆっくり沈んでしまえばいい。

狂った私が願うのはたった一つ。
「…先生も堕ちて。私と同じ所まで。」
身体を繋げても、先生の心だけが、どうしたら手に入れられるのか分からない。
ねぇ、私が卒業したら、先生はどうするの?
私みたいな別の女子生徒にも同じ事をするの?
それは、嫌だな。

好きだった。
好きになって欲しかった。
でも、叶わないというなら。
「叶わないなら、…いっそ。」
私は、盗まれた財布の真実を先生には突き付けない。
先生の描いたシナリオの中で、罠に嵌った振りを続けよう。
私だけがどんどん堕ちて狂っていく。
私だけが。

すっかり日が落ちて、教室の窓ガラスに反射して映る自分の顔を見て、私はただ静かに泣いた。


end…

 
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