【マッサージ】
 
「お疲れ様です。」
私のお仕事がお休みだったのと、彼の仕事が粗方片付いたと聞いて、様子を見にその部屋を訪れた。

当の土方さんは煙草を咥えたまま、ぼんやりした目で私を見る。
本当についさっきまで仕事してたに違いない。
先々週からずっとテロだったり、裏取引の検挙だったり、要人の警護だったり、お仕事がいつも以上にハードだった様子。
煙草の消費量がいつもの比じゃないのが心配になるくらい。
「おー…、真弓か…。今回はちっと疲れたな…。」
いつも弱味を見せる事が少ない土方さんがそんな事言うなんて、これは本当にお疲れなんだなぁ…。
屯所にもほとんど帰って来なかったし(戻って来てる時はほぼ事務作業してたみたい)休む暇なんて無かったんだろう。
よし!いっちょ、労って差し上げますか!

「どう?疲れ取れてます?」
「おー…。」
私は土方さんの後ろに回って肩をマッサージ中。
小さい頃、お父さんにやってあげたなー、なんて思いつつ。
「…悪ィな。」
「ぜんぜん!」
私とは幅が全く違う土方さんの肩をマッサージするのは意外と大変。
もっと力入れた方が気持ち良いんだろうけど…。
固い、固すぎる!
もうすっごいバッキバキ。
日頃のストレスを差し引いても、これは相当凝っちゃってるみたい。
忙しそうだから会いに行けなくて、もう半月は経ってる事を考えると、…そりゃ当然疲れちゃうよね…。
「書類作業も多かったんですよね?首も凝ってますよ。」
「ん。」
土方さんの首の後ろを解す。
しかし、鬼の副長ともあろうお方が、一女中に身を任せてるって他の隊士さんからしたら不思議なんだろうなぁ。
普通はこんなに簡単に背後取らしてくれないだろうし。
信頼して体任せてくれてるなら、期待に応えなくちゃ。

「うん!決めた!」
「あ…?どうかしたか?」
「せっかくだから、全身マッサージしてあげます!」
「はぁッ!?そこまでされる程、」
「いいから、いいから!」
私は畳に座布団を並べて、土方さんに寝転がるように促す。
「はぁ…、言っても聞かねェもんな、お前。」
土方さんは諦めたように溜め息を吐いて、そのまま横になる。

私は土方さんの横に座ってマッサージをするものの、何だかやりづらい。
「ねぇ、土方さん。上に乗っても良いですか?」
「おま…、っ好きにしろ。」
許可が出たから膝丈の着物の裾を少し持ち上げて、土方さんに跨がる。
ぐいぐいと肩から背中にかけてをマッサージしていく。
(引き締まってるなぁ。)
「…、……っ、……、ふ…。」
それにしても。
背中を圧すと、どうしても漏れる吐息にドキドキするとか、変態か私は…!
この体勢で背中を圧したら、肺の空気が押し出されるっていうただの自然現象なのに!
土方さんも変に声を押し殺すから、いけないんだ。
これは私だけのせいじゃない!…たぶん。
でも、これってちゃんと呼吸出来てるのかな?心配…。
「土方さん。声、押し殺さないで。我慢せず出して下さい。」
「っ、あ?…なん、つー、…んっ、台詞、言って…ンだ、コラ…ッ、は…っぁ、」
待って待って待って待ってー!
土方さんの色気がやばい止まらない!
声出てても出てなくても、こんなの駄目だ無理だ耐えられない!
ただのマッサージで何でこんなにドキドキしなきゃいけないの!?

「…オイ、手が止まってンぞ?」
「あ、は、はい!」
そして土方さんったら自覚無いみたいだし。
でも自分から言い出したことだもん。
最後まで頑張って、土方さんにリフレッシュしてもらうんだ!
背中から腰に掛けて体重を乗せながら圧していく。
「ど、どうですか、土方さん!力加減は!」
「っ、ぉー、…気、ッ、…持ち、ぃっ、良、…ん、…っぁ、」

ふわああぁぁぁ!!無理だぁぁあぁ!!
何なの、何でこんなエロいの!!
絶対わざとでしょ!?
土方さんはテロリストだ!エロテロリストだ!!
逮捕だ、逮捕ォォォ!!

何でだろう…、私の方がムラムラしてきた…。
土方さんの色気、恐るべし!!
えぇい!心頭滅却ー!!
私は今から何も聞こえない何も聞こえないぃぃー!!
心を無にして圧すべし圧すべし圧すべしィィ!!

「ッあ!?…なっ、…ぁ、真弓…ッ?ちょ、…は、激し…!」
「…来たな、煩悩め!これは幻聴だー!」
「んぅッ、…つか、…ぁ、い、痛ェ…って!も、っと、…ッは、加減、んっ、…しろ…っ、」
「ふあぁぁあぁ!幻聴だ幻聴だ!煩悩よ、死ねぇえぇ!!」
「おま、…ぁッ、どうし、ぐふぁッ!?」
煩悩を断ち切るように土方さんの背中を叩くと、ひどく鈍い音がした。

「はっ!わ、私ったら一体…。」
我に返った時には、私の下でぐったりご臨終な土方さんがいた。
だ、大丈夫?生きてるよね??
「真弓〜…!」
地獄の底から這うみたいな声が私を呼ぶ。
「ふ、ふぁいっ!な、なんでしょお…。」
「お前は俺を癒してェのか、殺してェのかどっちだ!?」
「ぅわわっ!」
土方さんがバッと体を捻って上体を起こした。
バランスを崩した私はそのまま尻餅、…は、良いんだけど。
気付いたら私は、胡座をかいている土方さんの足の間に座り込んでいるというか、土方さんの太股の上に足を掛けてコアラみたいに正面から抱きついてる様な状態に。
(み、密着!煩悩が!煩悩がぁあ!!)

「あのなァ、真弓。お前、は……。」
言い掛けて土方さんは言葉を止めた。
何かよく分かんないけど、謝罪をするなら今しかない!
「ご、めんなさい…!土方さんの吐息に、正直ムラムラしたというか、襲いたい衝動に駆られたというか、煩悩が、煩悩が、うぅ…。」
「……ばーか。」
私の頭上から降ってきた声は思いがけず優しいもので、ビックリして顔を上げる。
「何で、ンな物欲しそうな顔してるかと思えば。…まぁ、ムラムラしてンのはマジみてェだな。顔赤ェし、目も潤んでるし。つか、その顔完全に誘ってる顔だぞ。」
「う、うそ!?やだ、私いつの間に土方さんの喘ぎ声で興奮する変態になったの!?」
「喘いでねェェェ!!中学生男子か、お前は!!」
うう…至近距離で怒られた…。
私がしょんぼりするのを見て、土方さんは頭を掻きながら一度咳払いをした。
「あー…いや…、中学生男子は俺の方か。…真弓、お前今自分がどんな状態になってンのか分かってるか?」
「え?」
言われて自分の身なりを確認する。
こ、これは…。
「着物の袷も開いてやがるし、裾も意味無ェくらい捲れてるし。おまけに、ンなエロい顔して俺に抱き付いて、……どうされてェの。」
「ひっ、きゃあぁあぁあぁぁー!!」
土方さんが起き上がる時に服が乱れたらしい。
っていうか、上も下も下着見えちゃってるし!!
慌てて土方さんから離れようとしたけど、それは抱き締めるという土方さんの行為によって阻止された。
行き場無く浮いた両手は少し宙を彷徨ってから、土方さんの背中に落ち着いた。
「…これなら、恥ずかしくねェだろ。」
「うん…。」
根本的な解決にはなってないけど、こうしてて見えないなら確かに恥ずかしくはないのかな。
……うん、恥ずかしく、…恥ずかし、
…うん??

「ひ、土方、さん…?な、なんか…。」
「……。」
「あの、気のせいかもしれないんですが…。その…。」
「……。」
「な、何かが、当たってる…気が…。」
「……ムラムラしてきた。責任取れ。」
「へ?…な、なんで…っ…。」

土方さんが私を抱き締める腕に力を籠める。
疲れててもこんな力残ってるなんて、さすが男の人…。
(って、そうじゃなくて!)
「ゃ、土方さん…疲れてるんですから、ね?休みましょ??」
「こんな状態にしといて放置たァ、冷てェな…?」
「あ…う…。」
それって私のせいなの?とも思いつつ、…布越しに張り詰めている土方さん自身に触れる。
もう目眩がしそうな程、体が熱くなるのが自分で分かった。

「…分かり、ました。わ、わたしが、…処理します…。」
「真弓…っ?」
やった事無いけど、たぶん出来ると思う…。
そろりと土方さんから離れて座り直す。
私は土方さんのズボンのファスナーを下ろして、熱を持ったそれを取り出す。
「お、おい…、お前何して…。冗談だっつの!…っ、今までンな事やった事ねェんだから、俺が自分で、」
「大丈夫、です。今日は土方さんに尽くすって決めましたから…。」
言いながら手を上下に動かして、土方さんのそれを愛撫する。
くすぐったいのか、土方さんは少し身を捩りながらも私に任せてくれているようだ。
「…ッ、真弓…。」
「も、土方さんのその声、反則ですから…っ!」
何でこの人、いちいち色気があるんだろう。
気持ち良くなってくれてるのか、眉を寄せて目を細めているけど、目も頬も吐息も全部熱っぽい。
それを確認する頃には私の手はもう土方さんのでぬるぬるになっていた。
「手、汚れンだろが…。も、…っぁ、…充分だから、…ッ、…無理、すんな…っ。」
「煽ったの、土方さんなんですからね…!意地でもやめません。」
「っく、…は、」
こんな状態の土方さん見たら他の隊士さん、卒倒しちゃうな…。
質量を増していく土方さん自身を見ながら、私の中にいつもこれが入ってるのだと思うと、体の奥が疼く。
私はその形を丁寧になぞるように指を走らせる。
「んっ、…コラ、…はぁ、…ンなとこに、爪…っ立てんな…!…ぅあッ、」
土方さんの息が最初より上がっているのが分かる。
指を先端まで戻し、少しだけ強めに扱いた。
「…ッぁ、……やべ、っ…も、…ぁ、出る…、ッ」
離れろと言わんばかりに私の額に手を押し当てる土方さんをチラリと見て、私は体勢を低くする。
「真弓?…っ何、して…、」
私は握っている物から溢れていた雫を軽く舐め取ってから、それをそのまま口に含んだ。
「!? …はぁ、…ッ、やめ、……!も、マジ、…離れ…!くッ、…あ、っあ、」
土方さんの声にどんどん余裕が無くなってくる。
そんな声聞かされて我慢出来るほど、今日の私は理性的じゃ無いんだってば!
上目遣いで土方さんを見上げれば、うっすら涙目になった瞳とかち合った。
だからもう!そんな顔、反則なんですー!!
思わずごくりと喉を鳴らせてしまうと、それが土方さんを刺激してしまったのか、また小さく喘いだ。
私は土方さん自身を咥えたまま伝える。
「ひじかたさん、…だして?」
「…、ッの…!…はッ、んぁ、…くっ、真弓ッ…!!」
土方さんは切なくなるような声で私を呼んで、そのまま熱を吐き出した。
畳と土方さんの服が汚れないようにと、口の端からそれが零れないよう注意する。

「っは、…はぁ、はっ…、…、悪ィ。大丈夫か…?」
「………。」
「真弓?……ッ!?おい、…そんなの吐き出せ!」
「…んんー!」
もう、ここまで来たら引き下がれません!
独特の苦味があるそれを、何とか嚥下していく。
私が飲み込みきるのと、土方さんが私を引き離したのはほぼ同時で、その勢いで残っていた残滓が口の端を伝った。
土方さんは身なりを整えつつ、私の口の端を親指で擦る。
「ったく、無茶してンじゃねェよ…。」
「諸々楽になりました…?」
「あー…おぅ。おかげさんで。サンキュ。」
私は土方さんの腕の中に閉じ込められて、優しく頭を撫でられる。
こうやって抱き締められるのも、撫でられるのも本当に久々。
ふわー、幸せー。

「じゃあ、次は俺が真弓にマッサージしてやるよ。」
「…………はい?」
「安心しろって。すげー気持ち良くしてやっから。声も我慢せずに出して良いぞー。……覚悟しろ。」
「そ、それは…、っきゃあぁ!」

私は座布団の上に転がされ、ついさっきまでの土方さんみたいな顛末を辿るのだけど。
「半月も断食してンだから、残さず食ってやるよ。」
「さ…さっきまで喘いでいたエロ可愛い土方さんは一体どこへ…。」
「…ンな事言ってる余裕がどこまで保つか見物だなァ?」
あぁ、そんな悪い笑顔さえ格好良いとか、もう…。

「…あ、でも、立ち仕事で足が浮腫んでるから、それは本当にマッサージして欲しいかも。」
「ったく、色気無ぇな、お前…。」
「土方さんが色気有り過ぎるんですってば!」

呆れたように笑う土方さんを見て、私もつられて笑う。
何気無いこんな時間が、とても尊い。

土方さん、お仕事お疲れ様でした!
でも、体は大切にしてね?


end

 
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