【隣のヘタレと夢見る私】
 
「ねぇ、銀ちゃんー。暇ですー。」
向かいのソファーでジャンプを読み耽っている銀ちゃんに声を掛ける。
せっかくのお休み(主に私が)なのに、完全に放置されています。
私よりジャンプが大切なの!?って言いたいところだけど我慢我慢。
…いや、ジャンプに負けたら、さすがに嫌だ。
「そうだったら泣きそう。」
「へ?な、…ど、どうした!?」
私の暇発言は散々無視しといて、今の言葉は拾うって事は、聞いてて知らんぷりしてたのか。
もー、少しは構ってくれても良いのにぃー!
「銀ちゃんが構ってくれなくて泣きそうなんです。」
「構うったって、銀さんジャンプ読んでっし、どっか行くにももう遅い時間だろーが。」
「……ケチー。」
「節約家なだけですぅー。」

うーん、ああ言えばこう言う。
口では勝てない事は既にわかってるのだけど。
しゅんとする私を見て、銀ちゃんがにたりと笑いながら提案する。
「じゃあ、出掛けるかァ?ホテルとか。」
「!」
銀ちゃんは口の端を上げて、私の反応を楽しんでる。

実は私と銀ちゃんは付き合い自体はそれなりにあるものの、正式にお付き合いしだしてからは、そんなに日が経っていない。
つまり、まだ体を重ねた事が無い。
軽口なのか、元々の性格なのか、銀ちゃんとはヤるヤらない問答を繰り広げる始末。
(嫌な訳じゃないけど、ほら、順序ってあるじゃない?)
適当に体を重ねてポイされるのは、あんまりだもの。
そう考えが至るくらいには、まだお互いの事を探り合うような状態。
こういうお休みでも特に構ってくれないし、でも彼女だし…とぐるぐる考えていると、体目当て!?、なんて思い始めて。
(いや、自分の体に自信がある訳じゃないけど…。)
どーせ、私が好きなんじゃなくて、ヤりたいだけなんでしょ!?
…なーんて結論にもなっちゃう訳で。
あぁもう腹立ってきた!

「……うん、いいよ。行こう。」
ソファーからすっと立ち上がり玄関に向かう。
「ちょ、オイ、真弓!?」
銀ちゃんは目を丸くしながら私を慌てて追ってきた。
そうだよね、私はいつも反論するもの。
いつもは私が、銀ちゃんのデリカシー無し男!って言って終わるから。
肯定したのは始めての事。
(分かってる、銀ちゃんはデリカシーが無いだけで、それ以下でも以上でも無いって。…あれ?何か銀ちゃん可哀相?)
でも、動機は何であれ銀ちゃんが私を求めてくれるなら、私はもっと早く応じるべきだったんだろう。
だって結局…好きなんだから。

「私と出掛けるの、嫌?」
「いや、」
「…嫌なんだ。」
「や、そうじゃなくて!あのな、真弓?この時間に銀さんとホテル行くって、意味分かってんの?」
「そういう事するホテルなんでしょ?…行かないの?」
「だあぁああぁぁぁ!!」
銀ちゃんは一人で頭をがしがし掻きながら、低い声で唸る。
そして思案を終えたのか、ゆっくりと私を見つめた。
「今、金無ェし、外出るの面倒だし…、な?止めとこうぜ?」
「分かった。……じゃあ、ここで良いよ。」
「全然分かってねェェェ!!!」
銀ちゃんのツッコミが炸裂。
しかし、もう自棄になってる私には効果はバツグンではありません。
「分かってるよ。私は今から銀ちゃんに服を全部剥がれて、いいように身体中を蹂躙されて、ぐっちゃぐちゃのメチャクチャにされるんでしょ?」
「おまっ、な、な、な、…!!?」
私の言葉に顔を真っ赤にしながら吃る銀ちゃん。
自分から言い出したくせに…。
「…良いよ?道具とか使って、人権の尊重なんて無いみたいなプレイも耐えるよ?」
「へ?」
「え?だって、こないだ長谷川さんから借りてたコンセプトAVって確かそんな感じの、」
「そそそそそんなの確認すんじゃねェェェー!!」
もー、どうしろって言うの…。
ここまで来ると、もう溜め息しか出ない。
「ねぇ、銀ちゃん。私って銀ちゃんの何?友達?彼女?セフレ?」
ハッキリさせたい。
私がどの立ち位置にいるのか。
面倒くさい女だなぁとは思う、思うけど…。
銀ちゃんは一瞬天井を仰いでから、真剣な目で私を見た。

「あー…、全部、だよ。」
「嘘!私セフレなのッ!?」
「オイこら、そこだけ抜き取るんじゃありませーん。」
ぺしっと軽めのチョップが頭に落ちてくる。
「ダチみてェに馬鹿やって笑って騒ぎてーし、俺の女だってずっと傍に置いときてェ。エロい事考えんのは、…仕方ねェよ、銀さん男だしィ?」
「…された事ないけど?」
「だって、嫌がンじゃん、お前…。嫌われるくらいなら、我慢すンだろ。」
「……。」
「真弓?」
私の事考えてくれてないようで、ちゃんと考えてくれてるんだ。
拒否も愛嬌だけど、そこまで真剣なら使いどころは間違わないようにしなくちゃ。
「嫌、じゃない、よ…。ただ傍にいるだけじゃ、もう満足出来ないくらい、銀ちゃんが好きだよ。」
「…俺も。結構、限界。」
銀ちゃんがぎゅっと私を抱き締める。
強く、でも壊れ物を扱うみたいに優しい。

「…なぁ、確認しときたいんだけど。」
「なぁに?」
「…構い過ぎたらウゼェって思わねェ?」
「思わないよ。」
「…俺が理性に負けて真弓に手ェ出しても、拒絶しねェ?」
「うん…。きっと大丈夫。」
私達はもっとお互いの事を知らなくちゃ。
銀ちゃんはわざとらしくコホンと咳払いをした。
「では、真弓チャン?銀さんと夜のお散歩デートでもすっか?」
「! する!…え?まさか最終的にホテル?」
「バッ…!おま、今日は、純粋なデートのつもりですぅー!」
「…へたれ。」
「言ってろ。真弓に関しては慎重になっちまうだけだし?次は覚悟しとけー。」
にたりと笑うのはいつもの銀ちゃん。
何だか負けた気がするけど、私はこの顔が好き。
これからもっともっと、銀ちゃんの好きな所を見つけていきたい。


その夜の星空は本当に綺麗で。
「真弓…。」
月明かりに照らされた銀ちゃんの横顔も綺麗で。
ふいに落とされた銀ちゃんのキスは忘れないだろう。
「これくらいは許せよ?」
その微笑みに胸がきゅうってなる。

私はまだまだ銀ちゃんに魅了されるんだろうなって予感が芽生えた。
私達の恋は始まったばかりだから。

「…あー、初めては屋外でってのも有りかァ。」
「こ、このデリカシー無し男ッ!!」

相変わらずの銀ちゃんと私だけど。
恋は始まったばかり、…だよね?


end

 
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