バイト帰りに立ち寄った本屋で思わず買ってしまったビーズアクセサリーの本をわたしはもう一度机の上に置いた。そして、その後買った大小さまざま、色とりどりのビーズと刺繍糸を見つめる。どうして買ったんだろう、と改めて思った。

 このまま家に帰るのもなんだかなあ、と思ったのが事の発端である。本屋にでも行けば暇は潰せるし、それなりに満足して家に帰ることができると踏んだわたしは迷うことなくバイト先から近い本屋へ入った。お目当のファッション誌を立ち読みし終わったあと、たまたまハンドメイドコーナーに立ち寄ってみた。いつもとちがうものを見てみるのも悪くないと思ったのだ。そして手に取った本が今机の上に居座っているこの本である。さらに何を思ったか、本屋を出たその足で近くの手芸屋へ向かい、少量のビーズと刺繍糸を購入した。帰宅し、お風呂に入り晩ご飯を食べ終え、現在に至る。
もう一度、本を手に取りパラパラと捲る。どの作品も可愛いのだ。買うよりも自分で作れるのなら作ってみたい、という心がわたしにあったとは思わなかった。たしかに、せっかくの夏休みなのだからバイトと宿題だけで終えるのは勿体無いとは思っていた。趣味があまりないことも少々気になっていた。さて、どうしようか。どれもよく雑貨屋で見かけるようなアクセサリーである。自分で作るオリジナルである。ワクワクしないわけがない。結局本屋で立ち読みした時、「あ、これ欲しい」と真っ先に思ったエアーパールブレスレットを作ることにした。ちなみに、買ってきた材料はこれを作るためのものばかりだ。

 わたしの母は器用だ。裁縫はもちろん、編み物やビーズ、最近はレジンとやらでせっせとキーホルダーなんかを作っていた。母が作った懐中時計型のレジンキーホルダーがひとつ、わたしのキーケースにぶらさがっている。
一方のわたしは、そこそこの腕前だと思う。そんなにうまいわけでもなく、かといって不器用というにはあまりに微妙なラインだ。まあ、ビーズくらいそこそこに出来るだろう、うん、大丈夫だ。向いていなければやめてしまえばいいのだから。

やっと半分できたところで、コンコンとドアを叩く音がした。「はい」と返事をして振り向くと、櫛引さんが「まだ寝ないの?」と尋ねてきた。

「すみません、うるさかったですか?」
「いや、そうではなくて、明日もバイトじゃないの?」

 そう言われて時計を見ると、あと1分ほどで日付が変わるところに針がきていた。しまった、すっかり忘れていた。

「ありがとうございます、そろそろ寝ますね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

なるほど、これは趣味にするにはちょうど良いかもしれない。どうやらわたしにも母と同じ血が流れているようだ。





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