番外編 | ナノ
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俺について (1/3)

     
  
   

「……」

薄らと右眼開けたら、白い光が眩しくて二、三度瞬きをして欠伸をした。

静かな朝だった。
……うん、今度こそちゃんと朝らしい。今は6時くらいかな。今度は変な夢を見ることはなく、あれからぐっすり寝れたらしい。多分。
寝袋の中はさっぱりしていて、毎朝のように感じていた汗のむわっとした感覚はない。つまり、汗をかいていない。イコール、悪夢とかは見ていない、ということだろう。
…悪夢を見た見ていないという判断基準がそれしかないという。だって、覚えてない。

木々に囲まれていて、ポケモンの声らしいものが、ひんやりとした空気と共に遠くから流れてくる。
久々のいい朝だ。こんな朝を迎えれたのは、きっと……、

「このひとの、おかげかなぁ…」

しみじみと呟きながら、俺のお腹の辺りに乗った手を辿って、視線を上げるとそこには綺麗な顔の彼がいた。俺が横たわる隣で、正座をして。
こぼれ日で、茶色の髪が透けて、白い肌は溶けるように光をたっぷりと含ませていて、とても綺麗な様子だった。

子守りをするように、俺のお腹をぽん、ぽん、と叩いてくれていたのだろうか。そのままの体制で、彼は瞼を閉じていた。
すぅすぅと寝息をたてていることから、寝ているのだろうとる分かるのだが、座りながら……。ずっと、俺の様子を見てたのか。
気付けば濡れていた髪も乾いてるいるし、多分、彼が拭いてくれたのかな。

「ん……、ああ……レオ様……」

もぞもぞと寝袋から這い出すと、気が付いたらしい彼が少しだけ掠れた声で俺を呼んだ。それは今まで熟睡していたひとのそのものだ。

「お目覚めですか……レオ様…」
「様呼びやめろって」
「あ……申し訳ございません、レオさん」
「いや……うん、まぁいいや。

……おはよう……、シキ」

昨夜、自分で名付けたその名前を確認もかねて、へなんと笑みを浮かべて呼んでみた。
すると、彼は……シキは、眠そうにしていた瞳を、唐突に大きく開くと、ふんわりと微笑んだ。

「はい、
レオさん」








昨日俺が湖に落ちて濡らした服は、どうやら天日干しということで木上に置いておいたらしい。乾燥しているので、もう少しで乾きそうだ。
白いバックから、脱いであったため無事だったいつも上に着ている、黒と水色のツートンノースリーブを着て、その上からシキから借りているドルマンスリーブコートを着て上はオッケー。
下は、ああ、そういえば寝やすいように柔らかい素材のズボン持ってたなと思い出してそれを履いている。(最近ノースリーブ脱いで、はい寝よう!だから履き替えてなくて忘れてた)

とりあえず、乾くまではこのままだ。
みんなはまだ寝ている。だとして……旅立ちは9時くらいかな。それまでにアイ君、ちゃんと起きれるだろうか。……無理だったらボールに入れよう。

それまでに、俺はっと……、

「よし、鍛練するか!」
「左様でございますか。
では、私も微力ながらお力添えいたします」


「え
…シキさんできんの? 体術とか」
「武術は心得ております故」
「マジか…意外だ……」
「この姿、擬人化でできる事が多ければ多いほど、なにかと便利ですから」
「へぇ……なるほど。

じゃ、ご指南のほど、よっろしくー」
「承りました」

という流れで、俺らは手合わせすることになって、寝所から少し離れて動きやすい、広い空間へと移動した。
その途中、ここに住み着く色んなポケモンを見かけ、たまに声をかけたり、かけられたり。人間だからとびくついてる子もいたけど、好意的に接してくるポケモンもいた。
そんな子達に、案内してもらって動きやすい場所へとやってきて、俺らは準備運動をしてから、少し離れて身構えた。
ポケモンの声が辺りから聞こえる。どうやらギャラリーが出来ているらしい。……確かに、こんな所で、しかも人間とポケモンが体術を披露するなど、珍しいのかもしれない。
ざわめく彼らの声を最初こそは、苦笑いで聞いていたが、徐々にその声を遠くにする。自分、そして、シキ。他も確かに見えているし聞こえているけど、意識はシキへ集中させていく。だが、いつ、どんな時に周りからなにかの襲撃があったとしても────素早く反撃へと転じれるように、いつものように集中力を一瞬で高める。

準備万端だ。

「さぁ、来い!」

きゅっと右手を握り締め、左手を前に付き出して「いつでもOK!」と意思表示をする俺に、シキは軽くお辞儀をしてやんわりと微笑んだ。

「いえ、レディファーストでございます」
「……、…………、……お、おぉ…」

…自分からしたら、珍しい女扱いである。他のやつが言えば、単に女だとなめられているように、バカにされているように聞こえてしまうだろうに、何故か彼が言うと嫌味が一切感じられない。本心から「女性は尊重するもの」としてそう言ったのか………呆気に取られて、気が抜けた。…慣れないなぁ、こういうの……。
やっぱり、そう、かゆい。
思わず苦笑しつつ、さっと気を引き締め直す。……折角いただいたチャンス、逃す理由はないだろう。

「じゃ……オコトバに甘えて…、…っ!」

いつも通りのあの落ち着いた雰囲気を崩すこともなく、すらりと立つ彼に、瞬間的に迫った。
地面を勢いよく踏みつけた瞬間、彼のほぅとついた声が間近で聞こえる程距離を詰めた俺は、一気に片を付けようとハイキックを放った。
左足を高々と伸ばし、相手の顔横を狙い一気に体を捻る。普段ならここでケンカは終わり。今の一瞬で大体は伸びてしまう。

左足は、空気を切った。

ひとを蹴り飛ばした時の独特なあの感触はやってこない。でも予想外とは言えず間髪入れずに素早く左足を下げて、体を捻って回し蹴りを繰り出す。
それもだ。
ぐしゃりとした感覚も音もなく、パシッ、と乾いた音が響いた。それを聞きながら身を引く。
俺が距離を縮めて足技を駆使し襲撃したのは、瞬きひとつ、すぅと吸い込んだ息を飲み込む間もないはずの時。
シキは足を肩幅へ広げたのみの体制で、片手で俺の足蹴りをいなすようにしてかわしていた。ティータイムを迎えた淑女の笑みで、こちらの様子を興味深そうに眺めているのを確認しながら俺は冷静に身を引く。

数センチ。数秒の余裕。そして直後に巻き上がる砂。引き戻した足を着地。はっ、吐いた小さな息。

低い体制から体を狙った左拳を遠心力にまかせながら放つ。パシッ。音を聞くまもなく右拳を突き出す。踏み込む。パシッ、またこの音。気にせず何度も打ち込み膝蹴りをトドメと言わんばかりに腹へと突き込んだ。
ゴッ、と、今度響いた音は鈍く、思い攻撃を放った反動で体が傾いたのを重心をずらすことでやり過ごし、呼吸を素早く整える。そうしながら、笑ったままの首をかしげた。

「…なんで反撃してこねーの?」

今の短い瞬間的な俺の攻撃、それは全ていなされ、かわされ、受け止められていた。あの数々繰り広げたあの細かい攻撃から、素早くも威力はあるだろう攻撃まで、全て。
反撃されることもないが、攻撃が決まることもなく、最後の膝蹴りまでも受け止められ、軽く反撃で後ろへと押し戻されたのみで、呼吸も乱しもしないシキを胡乱げに見上げた。

「いえ、守りに徹底したまでの、ただの様子見でございます」

もしかして嘗められてる? それかレディファーストとでもまた言い出すのか?と笑っていると、シキはそう言ってまたお辞儀をした。だが、そこに隙はなかった。

「…なるほど………守りに徹底、ねぇ」

確かに、そういえば。
シキは俺の隙を探そうとか、その隙をつこうとか、そういう素振りもなかった。反撃するつもりもなく、ただ守りに意識しているのならば、ああ、なるほどと納得。そりゃ当たらない。
だが、それも余程の反射神経とスキルがなければ難しいだろうに。そう素直な感想を溢すと彼は少し眉を八の字に曲げた。

「いえ、やはりレオ様は素晴らしい反射神経に運動能力をお持ちです。
全てを避けるのは無理なようでした」

「……全てを避けるつもりだったのか……」
「防ぐので手一杯になりましたが」
「あはは…、

じゃ、その余裕もなくさせてやるか、ね!」

ずっと攻撃が当たらなくて翻弄されるのは性に合わない。吐き捨てて、飛び掛かった。高めの跳躍で空中で身を曲げて、捻るように拳を投げ出す。今度は斜め上からの、遠心力と重力に任せた殴り。
それはシキの鼻下辺りを捉える筈だったが───空中で、彼の灰色の瞳と、ぶつかり合う。
その邂逅だけ、長く感じた。だがそれも束の間で、激しくそれもブレる。

ガッ──! 硬いものを拳が捉えた。軽く手でいなされかわされた俺の拳は地面へと突き刺さるように外れたのだ。
舌打ちをしたいのを堪えながら背後へと避けた彼へと間髪入れずに後ろ蹴りを放つ。それは思わぬ攻撃だったらしく、シキの腹を蹴りつけた。やっとのヒット。よろりとよろけたようにも見えたが、実際は違うだろう。自ら身を引き、勢いを殺したのだろう。
その素早い判断に舌を巻いていると、だ。脚を弾かれたように引き戻した俺へと、追い討ちをかける攻撃が襲った。
シキの長いすらりとした足をぴんっと伸ばして放つ蹴り。それを顔を少しズラすことでかわすも、間髪入れずにその足をそのまま降り下ろしてくる。頭を狙われたのを気配で察しながら腕を頭の上で交差することで弾く。重い蹴りだ。
唐突に身を縮めて蹴りをズラしながら、俺は片足で美しいバランスを取るシキに足払いをかけた。しかしそれすらも読まれていたらしく、軽くした跳躍からの足蹴。今度は側頭部を狙われたようで、的確だと感嘆。正直なところ、そんな余裕はなく片手でそれを防ぐことが精一杯。横に雪崩れ込むように倒れこみ、反対の手で地面に手をつく。蹴りを止めた腕がジンジンする。

だが、シキの反撃は止むことを知らず、跳躍から全体重をかけた踵落としが降ってくる。きっとあれを食らってしまったらそれはトドメだろうか。

「っ」

身を転がし地面に叩き付けられた足は回避。砂が降りかかる中、体制を立て直す時間はそんなに必要としなかった。向こうは跳躍からの踵落としで、低い場所で転がる俺を狙ったのだから体制が崩れるのは当たり前。ここを狙わない理由はなく、俺の拳はシキの頬を捉えた。
ガッッ。柔らかいものの硬い手応え。やっと決まった。心の奥底でスッキリとした感覚が広がる、のと同時に、違和感。

頬を捉えた拳はまだ浅い内に引いた。まだしっかりと入っていないが、本能が警鐘を唱える。それも少し遅かったようだ。
ド、と腹に向かって鋭い蹴りが入った。
反射的に片手で防御したものの、勢いは殺せなく、

「ぐ、っ、」




    
   

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