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世界はモノクロにしか見えなかった。




別に目に障がいを抱えてるとか、そんなんじゃなくてただの比喩だ。
でも本当に、どうしてもカラフルには見えない。残念ながら、私にはモノクロにしか見えない。それか、セピア。

この目には、美しく映らなかった。何故だろう。世界が美しくないからだろうか。それとも私に問題があるのか。多分後者であるのだろうけど、私はいつものように面倒臭くなって、深く考えるのを止めた。



物心がついた時には既に、自分は一人だった。路地裏生活。僅かに持っていた金で毎日を過ごす。

記憶はないが、多分自分は捨て子なのだろう。
だけど、ただ捨てるだけでは心苦しかったのか、金だけは持たせて捨ててくれたらしい。ありがたい。それだけは感謝したい。ありがとう、名も顔も知らない赤の他人に近い親。

それからはぼんやりとした記憶がないが死ぬ気で生きていたのは間違いない。そんな荒れた生活を送っていた私は、その街に住む女の人に拾われ、そこに住む事になった。優しい人だったのは覚えてる。けど、今ではその記憶さえも薄れてきてるのが現状。何故ならその人は死んでしまったからだ。不慮の事故だった。原因は……なんだっけ。覚えてない。ごめんよ誰か。


私はどうやら忘却に長けてるらしい。うん、それがいい。過去なんて、覚えていても腹の足しにもならん。
そろそろ自分が此処にいる意味も忘れてしまいそうだ。
その人の墓の前でぼーとして、そう思った時に初めて前に誰かがいた事に気付いた。


「こんばんハv」


デブな人だった。そして耳が尖んがってて、シルクハット。傘を持ってて、おっきな口は孤を描いていた。奇妙な人だ。おとぎ話にも出てきそうな容姿。
その人は表情はそのままで私に語りかけてきた。楽しそうに。


「●●●●を蘇らせてあげまショウカ?v」


……●●●●?
一瞬ぽかんと止まる。誰だっけ。それ。と考えて五秒たった。………ああ、この墓の中にいる人の事だ。ずっとお母さんって呼んでたから、忘れてたけど石碑を見て思い出した。

その人を、蘇らせる? この…デブが?
私はぼんやり、その人らしきものを見上げた。

「………できんの?」
「ハイv」
「……………できんだ…」
「ハイv」

それは意外だ。
科学は進歩したんだな…。

「それデ?
蘇らせますカ?v
あなたの手助けがあれば、可能デスヨv」
「……………因みにあんたは?」
「ワタシはみんなの千年伯爵デスv」

変な名前だなと思いながら、ぼんやり。ぼんやり、ぼんやり、私は墓を見詰めた。
ああ、確かにあの女の人は良い人だった。面倒臭い私を知っても嫌わないでいたし………優しいし。でも、私を腫れ物でも扱うようにするのは、嫌だったな。仕方ないんだけどね。
それにさ、

「…千年伯爵サン、
人を蘇らせたりすんのは、すごい代償が必要なんですよ」
「………ハイ?v」
「人を蘇らせるのは………それなりの代償が必要。
………私は、よくそれを知ってるんです」

嘘です。ちょっとシリアス風味に言ってみただけで、私は何も知らない。ただ、世界の真理ってこんなもんさきっと。
………何を根拠にそう言っているのだろう。自分でも分からなかったが、私にはそんな考えが根付いていた。

「この人は、優しい人だったよ。でも、いいや。
そんな業、私が背負える訳ないし。面倒だし。
ありがとね、誘ってくれて」

そう言うと、そう、淡々と言うと千年伯爵サンが固まった。
不思議そうに私を見詰めて、こてんと小首を傾げる。ごめんね千年伯爵サン。そんなに可愛くないや。

「………イイんデスカ?v」
「うん。なんかダルいし」
「…………v」
「そんなショックうけねーでくださいよ…」

千年伯爵サンが浮かべたハートが割れたような幻覚が見えた気がする。顔は変わらずあの大きな口で笑っているようにも見えたけどショックを受けているらしい。
…なんか悪いな。いや、私は悪くないはずなんだけど。このままお帰しすんのもなんだな。
じゃあ、えっとー、

「お茶でも飲んでいきますか」

家、すぐそこなんで。と墓地の向こう側を指差した。あの女の人が私に残してくれた家だ。一応お茶くらいならある。不味いけど。

「…………イエ、
ワタシはこれからお仕事があるのデ………v」

不味いのが悟られたか。ちっ。

「………そうですか。
じゃ、また来てくださいね」
「また、デスカ?v」

不思議そうな顔をされた気がする。
その狂気染みた顔に表情もくそもないけど。

「どうせ一人で暇だし。
美味しい紅茶があるんで」

嘘ですけど。
ひとり。そうサラリと言う私は寂しい人間に見えるのだろうか。おあいにくさま、そんな気、私にはない。
ただあの女の人が買い集めてた不味い紅茶を、ただただ、処分したいのである。
………あの人なんであんなの買ったんだろ。

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無気力主人公。人生で悟り開いてる。
多分次の日から伯爵が訪ねてきて、一緒にお茶してる。
で、いつしかノアの一族たちもやってきてはお話ししてほのぼのやってる謎な話。
(●●●●さんはただのモブ)