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その子供と会ったのは割りと最近だと思っていた。



迷子になっていたその子供が俺の住みかに侵入してきて、当時の俺は気が立っていたのか、あろうことかそいつを敵だと見なして飛び掛かり、のし掛かるように突進した。

前足でか細い肩を押して、悲鳴を上げながら倒れ込んだそいつの、また細い、この首に俺は歯を突き立てようとしたのだ。
勿論、それは脅しだ。

本気で殺す気など更々なかった。

ただこう、鋭い牙を突き立てれば大抵の人間は驚いて、恐怖して、逃げていく。


それが俺の唯一できる、拒絶。


弱虫で根性無しの俺の、精一杯の───、



「あなたは……グラエナ?」
「ガウ……?」


───精一杯の敵意を示した俺に、その子供は何て事のないような顔で、そう問い掛け……自身の首に当たるこの刃に近い牙に気付いていないように、手を伸ばしてきたのだ。
ふわりと頭を撫でられる。俺は咄嗟に首を食い千切ろうとしたが、が、顎は動かない。
───動かされる、訳、ない。

俺は誰かの命を奪えるほど、強いポケモンじゃ、ない。

「知ってるよ」

へにゃりと、微笑んだ彼女に息が止まった。

「グラエナって言うんでしょ? 知ってるよー! この前テレビで見たの!」
「……ガウ……?」

こいつは、何を……言い出しているのだろうか。
思わず面を食らう俺は確かにグラエナだ。野生の。そしてこいつはこのグラエナに殺されかけている、と、いう、の、に……?

「…………? くぅ……?(何だ、この、子供)」
「えへへー、初対面で押し倒してくるなんてー……大胆ねーグラエナは」
「きゃう!?」

何言い出してんだこの子供!?
驚きすぎて思わず口を離した。びっくりした。押し倒す!? いや、意味的には合ってるけど合ってるけど!
不意に、ぐいーっとその子供が抱き付いてきて、悲鳴に近い鳴き声を挙げて俺は再び困惑した。
子供は言うのだ。

「遊びたいんだよね! 一緒に!」
「……わう…?」
「ね! 一緒に遊ぼ!」
「…………」

こいつ、まさか……、
俺が飛び掛かったの、じゃれてると勘違いしてないか…………?


そのまさか、で、
面を食らった俺はその子供に抱き付かれたまま「うりうりー!」と撫でくりまわされた。
とても驚いた。とてもだ。殺されかけて、こんな反応する人間は初めてだ。

対処法が分からずあれこれこいつの目的は何だとか、どうやって逃げようとか考えていたら、無意識に自身の尻尾がふぁっさふぁっさ揺れていることに気付いて、ぴんっと耳が張った。
背中を優しく撫でられて、心地よいと感じていたのだ。

……いかんいかんいかん!
ほのぼのするなよ自分!


しかし、今更この子供を押し退けて、何処かへ逃げよう、何て言う気力はなくて、
ただあたたかい温もりの中に居たいと、尻尾が勝手に言っていたのだ。



こうして、俺とその子供は出会った。



(きっと続く)