政府主催 男装・女装コンテスト
ある日のこと。私は友人に誘われてとある会場に来ていた。その会場っていうのは、政府が主催する男装・女装パーティー。私にそんな趣味はないんだけど、“強制的に”連れてこられたんだ。
本当なら、今頃は短刀ちゃんたちと自室でゴロゴロまったりする予定だったのに……。断れなかった自分が悔しいっ!
「ほらほら、早くしなよって」
「ちょっと待ってよっ!」
更衣室で着替え終わってからグイグイ引っ張ってくる友人を宥めながらついて行く私。もうこうなったら、道連れとして連れてきた村正さんと山伏さん、巴さんをからかってやるっ! なんて思っていたけれど前言撤回。
「……コンテスト、だった……」
現在、私がいるのはステージ上で、私の前にはたくさんの人だかりが……。すっかりコンテストだっていうことを忘れていた。なんで私パーティーだって思い込んでたんだろ……。お陰でうちの巴さんたちをいじりに行けないし抱きつきに行けない……。
『あんた、コンテストってのを知らなかったのか?』
「うん、まったく………」
“orz”の形で落ち込んでいると、突然声をかけられた。その人を見ると、かなりの美形な方が……。それも男の人の格好をしているから女の人なんだろうけど……。様になりすぎてて男の人に見える。
「あ、あの……つかぬ事をお聞きしますが、女の方、ですか?」
『ああ、生物学的上では女だぜ?』
疑った私が恥ずかしいっ! けど、本当に男の人に見えて仕方がない。
「さぁ、男装・女装コンテストを始めます! 番号を呼びますので、番号を呼ばれて方は何かアピールをしてください! アピールは誰かに危害を加える以外であればなんでも構いません! ではーーー」
政府の役人だろう女の人の声が会場に響き、コンテストが始まってしまった……。アピールって何すれば良いの!? いち兄たちの真似すれば良い!?
「番号32番! お願いします!」
「ふえ!? っ、と……」
アピールについて何をすれば良いのかわからず、混乱しているうちに他の人は早々と終えてしまったようで、ついに私が呼ばれてしまった。視線も私に集中している。
あばばばば、ど、どうしよぅぅぅううっ!!!
「……し、主命とあらば、なんでもします。何なりと、ご命令を」
右手を胸の前に、左手を腰に添えて一つお辞儀をすれば、なぜか歓声が上がった。台詞は長谷部さんから借りてもしかして、これで良かった、のかな?
『なかなか良いアピールだったと思うぜ?』
「ほ、本当ですか?」
『おう』
これで良かったのかどうか混乱していると、隣のイケメンに褒められた。嬉しいけどなんか複雑な気分だ。男装じゃなくて普通にしている時に褒められたいかな。
「番号33番! お願いします!」
『っと、呼ばれたな』
番号が呼ばれ、その人が一歩前に出た時だった。
「へ?」
がくんと浮遊感が襲ったと思えば、目の前にイケメンの顔がドアップに……。よくよく見れば、他の人たちの背がかなり高くなっているし、天井も遠い。どうやら体を倒されて、背中を支えられているみたい……。これどんな状況?
『なあ、ずっとそばにいて良いか?』
「…………ひゃい……」
突如湧き上がる黄色い悲鳴。一瞬何を言われたのか理解できなくて固まったけど、徐々に理解することができて顔を熱が集中した。
ええええ!? 何言っちゃってるんですかこのイケメンはぁぁぁあ!? いくら演出とはいえ、打撃が強いわっ!! おかげで変な声が出ちゃったじゃない!!
『くっくっくっ、急にすまねえな。アピールっつっても良い手がなくてよ。うちの乱が前に強請ったこれをしてみたんだ』
「……もう、反則ですっ!!」
顔に熱がさらに集中するのを感じながら抗議すれば、悪い悪いと謝罪するイケメン。だけど、まったく反省の色がない。
くそぅ、流石はイケメンだ。どんなことをしても様になる。
それからしばらくして、刀剣男士たちや審神者のアピールが滞りなく終わった。結果として、あのイケメンな人が優勝したんだけど、驚いたことに私が10位入賞してしまって、友人には驚かれた。
あのイケメンが、今超人気でファンクラブの会員が急増している審神者の先祖さんだったと知ったのはその日の晩のことで、友人たちから羨ましがれたのだった。
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