女子会と言えばお香主催の獄卒淑女の会が真っ先に思い浮かぶのだが、残念ながら今回はそうではない。主催はあの世界悪女の会ツートップの一人リリスであり、メンバーも妲己、お香そして雪江と妙なメンバーが揃ってしまった。

 そもそも何故今夜この四人がバーに集合したのかと言うと、それは数カ月前に遡るので今回は割愛する。簡単に言うならば、お香はリリスのルージュ日本進出の現場に立ち会ったためであり、雪江はお香の友人であったと同時にリリスと妲己とも面識があったので呼ばれた訳だ。いかにも甘そうなカクテルで喉を潤し、運ばれて来た料理を口に運ぶ。目の前の席に座るリリスと妲己は妖艶な笑みを浮かべてじっと雪江を見つめていた。お香と顔を見合わせて肩を竦める。なんだか嫌な予感を覚えた。

「今日雪江さんを呼んだのにはもちろん会いたかったって言うのもあるけど、他にも理由があるの」
「アタシたち鬼灯様のお話が聞きたいの」

 もちろん夜までね、とハートマークつきで聞こえた時雪江の意識は現世を突き抜けて天まで飛んだ事だろう。顔を赤くさせて後ろに倒れかけた彼女の背中を咄嗟に支えたお香は、彼女の動揺しきった表情を見てそう思った。
 けれど彼女の夫の趣味である金魚草よろしく口をぱくぱくと開閉を繰り返す雪江には可哀想な事をするようだが、正直な話夜うんぬんは置いておいたとしてもお香も幼馴染たちの結婚生活には興味があった。ゆえに助け舟を出す事もなく困った風な笑みを浮かべて雪江の言葉を待つ。

「た、多分リリスさんの所とさして変わりませんよ?」
「アラァ、なら鬼灯様あなたに首ったけってわけね!」
「ちっ違います!」

 はめられたと気付いた時にはもう遅い。キラリと長い睫毛で縁取られた瞳を輝かせた各国代表の美女三人はぐいと雪江に顔を近づけた。

「でも愛されてないわけじゃないんでしょう?」
「この前も鬼灯様、貴女の事心配してわざわざ探しに来たものね」
「雪江ちゃん自信もっていいと思うわァ」

 上からリリス、妲己、お香。一気に攻められては雪江の脆い城壁はすぐに壊されてしまった。赤い顔を隠すように俯いて彼女は力なく一つ頷きを返す。

「大事には、してもらってると思います…もちろん多喜のことも」

 そう、リリスたちの言う通り自分は彼にとても愛されているとは思う。その仕事ぶりから冷徹だと言われがちな鬼灯であるが、彼は妻子にはとても甘い所がある。かつとても嫉妬深く、雪江や多喜が他の男(特に某神獣)と仲良くすると天を貫く勢いで嫉妬の炎を燃やすのだ。
 つい先日もそれで家の壁を壊されてしまった事を思い出した雪江は赤かった顔を今度は真っ青にさせて顔を両手で覆う。ああ、そういえばまだ修理の途中だった。女子会モードから一気に主婦モードへと切り替わる。今度はいくらお金が飛んで行くのかしら…そんな風に自分の思考へもぐるのは彼女の昔からの癖だった。
 それを良く知るお香はすぐに察知してパンと両手を叩く。雪江は肩を跳ねさせて現実へ無事帰還した。

「それで、肝心の夜の話は?」
「え、ええ…本当に話さなきゃならないんですか?」

 すかさず飛んで来た問いかけに全力で拒否しなかったのはきっと気が弱いからと言うだけでなく、酒の力を借りたせいだ。
 うんうんとリリスと妲己が頷き、お香が苦笑する。止める者はここにはいない。彼女はうんと数秒かけて悩んだ挙句、

「別に普通だと思いますよ?」

 話してしまう事にした。

「普通?何か変なプレイ強要されたりしないの?」
「あの方、何か特殊なもの求めて来そうなイメージがあったんだけど」
「特殊なんて…本当にいたって普通です、少し…その意地悪な所はありますけど」
「アラ、意外だわ。でも頻度は高いんじゃない?」
「いえ、ご存知の通り子供もいますし本当にたまにしか」
「まあ、それは鬼灯様お辛いわねェ」
「そうでもありませんよ」

「ん?」

 突然背後から聞こえたバリトンボイスに雪江は首を傾げた。おかしい、聞き間違いだろうか。そう思えど目の前にいる悪女二人は面白そうに笑っているし、横のお香も眉を下げて何故か両手を合わせている。

「で、どこが意地悪なんですか?」
「ほ、鬼灯様っ」

 今度は耳のそばで発せられた艶のある声に雪江はようやくその存在を認識した。椅子から転げる勢いで立ちあがりそのまま振り返る。ちょうど雪江が座っていた椅子の背後に立つ鬼灯はそんな妻にため息をつくと、お香へと向き合った。

「すみません、お香さん。ご連絡ありがとうございました」
「いいえ、アタシこそ助けられなくてごめんなさい。あとタノシイお話ごちそうさま」
「お粗末さまです」

 会話を聞くに、どうやらお香が鬼灯に連絡したらしい。茫然と突っ立つ雪江は鬼灯に腕を引かれるがままに歩きだす。振り向き様に見た三人は満面の笑みで手を振っていて少しばかり腹立たしさを覚えた。

「それで雪江、どこが意地悪なんですか?」
「お願いですからその話は終わりにしてください…」

140630