ワン、こんにちは。俺シロだよ。
 桃太郎と一緒に鬼退治をした神獣で今は鬼灯様の勧めで不喜処地獄で獄卒をしてるんだ。亡者の肉って結構美味しいんだよ、今度桃太郎にもおすそ分けしようかな。
 そんな俺、今日はお休みで閻魔庁に来てみたんだ。鬼灯様に遊んでもらいたかったんだけど忙しいみたい。目の下に真っ黒な隈が出来てたから多分徹夜したんだろうね。今日は寝られればいいけど…ん?良い匂いがする。石鹸の匂い、これは、

「あら、シロちゃん」

 名前さんだ!鬼灯様の奥さんで多喜くんのお母さん!
 石鹸の匂いってお母さんの匂いの定番だよね。

「名前さん、鬼灯様に会いにきたの?」
「ええ、少し差し入れを」

 バスケットの中から良い匂いがする!これは多分唐揚げと、ツンとするから梅干し入りのおにぎりだね。
 名前さんが背中を撫でてくれる。優しいお母さんの手は俺好きだ。

「でも忙しいみたいだから少し暇をつぶそうと思うの」
「なら俺が話相手になってあげるー!」

 やったね、俺の暇してたから名前さんと話せるのは嬉しいや。
 鬼灯様の趣味で育ててる金魚草が揺れる中庭で俺と名前さんは座る。あ、なんかお腹空いた。

「良かったら少し食べる?作りすぎちゃったの」
「食べる!」

 名前さんはバスケットから数個の唐揚げを出してくれた。小さく一口大にちぎって食べさせてくれる。美味しい、名前さんが料理上手だって話は前に聞いてたけどほんとにこれ美味しいよ。おねだりして三個食べた俺のお腹はもうパンパンだった。
 だらんと名前さんの膝に凭れかかるとまた撫でてくれる。あー耳の後ろが気持ちいい。って、あれ?俺前なんか名前さんに会ったらしようと思ってた事が…

「あ、そうだ!俺名前さんに聞きたい事あったんだ!」
「え?」
「名前さんって鬼灯様と"おさななじみ"なんだよね?こどもの頃から好きだったの?」

 そうだ、俺これが聞きたかったんだよ!夜叉一先輩とお局様が前に話してたんだ。おさななじみで結婚っていいなあって!
 俺は名前さんからのお返事を待った。俺はちゃんと待ても出来るんだ。
 でも何時まで経っても何も言ってくれないとつまらないよ。って、あれ?名前さん耳真っ赤だよ?どうしたの?

「えっと、その…多分、そうね、子供の頃からかな…」
「へえ!そんでそんで?どんな所が好きなの?」
「シ、シロちゃん、私もう限界…」
「えーおねがいー教えてよー」

 あ、頭の中でルリオと柿助がため息をついたよ、失礼だよね。

「好きな所って言われてもそんな思いつかないよ」
「なんで?色々あるじゃん、たとえば顔が好きとか金があるとか」
「シロちゃん可愛い顔して黒いわね貴方…」

 名前さんの頬っぺたがピクピク動いた。なんで?って首を傾げてみたら名前さんは疲れた顔で首を横に振る。そんで呟いたんだ。

「優しい、ところかな」

 それは多分犬の俺じゃなきゃ聞き取れないほど小さな声だった。恥ずかしそうに震えながら言った名前さんはバっと顔を上げて立ち上がる。
 まだ凭れかかったままだった俺は地面に転がり落ちた。うう、痛い。涙目で見上げた名前さんは焦った表情をして「ごめんね」って言うと、そのまま走って行った。
 それを目で追ってると鬼灯様が出て来た。なんか話してる。名前さん赤くなった。あ、顔が近…ああ!

「あつあつー」

 俺は頭が良いだけじゃない空気も読める犬なんだ。衝撃のシーンを目撃した俺は不喜処に戻る事にした。んー、でも名前さん鬼灯様の事優しいって言うけどあんな事する辺り、あんまし優しくないんじゃないかなあ?多分ああいうのって意地悪って言うんだと思うんだよね俺。

「どう思う多喜くん?」
「なんで息子の俺にそんな事報告するんですか!?」

140406