「よーうやく会えたなあ、チビ!」

 その言葉と共に突きつけられた刀に多喜は手に持っていた風呂敷をぽろっと落とした。ギギギと錆びついた機械さながらに上を見上げる。そこにはいかにもヤンチャしてきましたと言った金髪の日本角の鬼が凶悪な笑みを浮かべて立っていた。

「ど、どちら様で…?」
「ああ?なんだお前、聞いてないのか?俺はなあ、ぶふあ!!」
「ぶふあ!?」

 せっかく勇気を振り絞って問いかけてみたと言うのに、金髪の鬼は次の瞬間には吹き飛んでしまった。ばたばたと足音が聞こえて、金髪が吹き飛んだ方向に天然パーマの鬼が駆けて行く。あ、なんか苦労してそうだなこの人。彼の顔を見て多喜は思った。

「子供相手になに刀なんて向けてんですか馬鹿」
「お父さん…」
「トラウマになったらどうしてくれる」

 金棒片手に横に立った鬼灯はまるで汚物を見るような目つきで地面に倒れた金髪の鬼を見下ろしている。けれどその口ぶりから知りあいであると悟った多喜はそっと父親に問いかけてみる事にした。

「あのこの人…「鬼灯のちっせえ頃にそっくりだな、ほんと」
「回復早いな」

 が、言い終わるよりも早く金髪が息を吹き返した。彼は多喜の頭に肘を置いて頬杖をつき、それを見たあの天然パーマがそれにぼそっとツッコミを入れた。
 対して多喜は大人の体重をかけられ重いとも言い出せず眉を顰めて耐えていた。その息子の苦労と知ってか知らずか鬼灯が大きく舌打ちをする。

「それで烏頭さん、この子に用があるのでしょう?」
「そうそう、これやろうと思ってな」

 どうやらこの金髪は烏頭と言うらしい。たった今名前の分かった彼は、ケラケラと笑いながら先ほど突きつけて来た刀を多喜へ差し出した。
 またもや刀身を見せつけられた多喜はびくりと肩を震わせる。金棒なら父のせいで何度も見て来たが刀を見るのは生まれて初めてだった。

「妖刀だぜ?すごいだろ」
「妖刀!?」
「レプリカだぞそれ…」
「しかも貴方、自分が買ってやったぜ感だしてますがそれお古でしょう」

 的確なツッコミを入れたのは上から天然パーマ、鬼灯である。
 レプリカであると言う事実に安堵しながら多喜は差し出されたままだった刀を恐る恐ると受け取る。ずっしりと重いそれに少々体がふらついた。

「それで?多喜、先ほど何か言いかけてましたよね?」
「えっと…この人たち知り合い?」
「ああ…」

 ようやく聞く事の叶った多喜は静かに鬼灯の言葉を待つ。鬼灯は二人を交互に見てから事もなげに告げた。

「幼馴染ってやつです」
「ええ!?」
「ちなみに名前もそうですよ」
「ええええ!?」

 父親の存在を知り、地獄に来て早一年が経とうとしているがそんな事は初耳だった。この二人が父親の幼馴染である事もそうだが、名前と鬼灯が幼馴染である事の方が驚きだ。と言うかそもそもこの変わっている父親に友人が存在した事が信じられなかった。

「あだっ!」
「失礼な事考えたでしょう、顔に出やすいのですぐに分かります」

 見事脳天にチョップを喰らってしまった多喜は患部を押さえてその場に蹲る。すると天然パーマが横に来て大丈夫かと聞いてくれた。優しい人柄ならぬ鬼柄に多喜は感動を覚えた。

「蓬さん、甘やかさないでいただけますか」
「これ甘やかしてる内に入るの!?」

 幼馴染であるという鬼二人の名前を知れたのは良いのだが、鬼灯の雰囲気が大層宜しくない。今にも金棒を振りおろして来そうなオーラを漂わせる父親は、地面に座り込んだままの多喜の首根っこを掴みあげる。そのまま持ち上げると唖然とする二人の前に息子の体を突き出して言い放った。

「御紹介が遅れましたがこれが私の息子で多喜です。くれぐれも変な事を教えたりしませんよう」

 目の前の二人は顔色を真っ青にさせて何度も首を縦に振った。そのあまりの必死さに多喜は烏頭に渡された刀を抱いて首を傾げる。多喜には見えていなかったのだ。この時、自分の父親がどれほど恐ろしい形相をしていたかなど。
 こうしてひょんなことから両親の幼馴染と初対面を終えた多喜はこれから後、度々彼らに世話になる事となる。

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