短編 | ナノ
あの日と同じで星だけが眩しい

※現パロで転生竹くく。竹谷記憶無し。



















プラネタリウム。
月や星など天体を映写機で丸天井にうつし出して見せる装置の事だ。


「ハチ、プラネタリウムに行きたい」


兵助は隣に座って弁当を食べていた八左ヱ門に突然そう切り出した。
昼休みを少し過ぎた屋上。立ち入り禁止のこの場所は、二人の溜まり場でもあった。屋上の扉の鍵は、偶然手に入れた日にスペアキーを作っておいた。バレたらタダじゃ済まないなと互いに笑った日から今まで、まだ教師にこの事は知られていない。


「…プラネタリウムって、星とか月とかがうわーって天井いっぱいに出るやつのことか?」
「他に無いだろ。お願い、連れていって」
「んー。よし分かった。明日は土曜日だし、明日行こう」


兵助は今までに見せたことのないような顔をして笑った。つい口元が緩んでしまった。












天文台に併設しているプラネタリウムに二人はいた。今日は休日ということもあってかお客さんで満員御礼だ。二人はなんとかチケットを購入し、座席についた。

暗くなっていく室内。唯一確認できる光は、左右にある非常口の場所を知らせる緑色の光だ。やがてそれも消えていき、暗闇に包まれる。
ぽつり、と小さな星が浮かんだ。
あれは一番星ですとアナウンスが告げた。兵助はその一つの星をじっと見ている。そんな兵助を八左ヱ門は嬉しそうに見やり、天井のスクリーンに視線を戻した。


「……っ?」


八左ヱ門に異変が起こったのは次の星が現れ出た時だった。今まで聞こえていたはずの音楽が、アナウンスが、誰かの呼吸が、一切聞こえなくなってしまったのだ。
音が消え去るという異常事態に戸惑っていると、八左ヱ門は兵助がこちらに視線をむけている事に気付いた。星まみれの空間に、今は二人きりのようだった。


「あの時もこんな夜空だったね」


無音の世界で兵助の声ははっきりと聞こえた。頭の隅で、あぁそういえばそうだなと納得する自分がいる事に驚いた。あの時がいつの事かは分からないが、それは確かにあった事実で、忘れてはいけない事のはずだ。
混乱する八左ヱ門をよそに、兵助は笑顔のまま話しかける。それは遠い思い出を懐かしむような、心底嬉しそうな笑顔だった。


「ハチは約束したよね。俺、待ってるから」


約束?
八左ヱ門がそう聞き返そうとすると、足元が草原になった。
彼らの足元から円を描くように、しかしそれは一瞬で。座席から、いつの間にか草原へ腰をおろしていた。見上げれば満点の星空。頬を撫でる夜風が心地よい。

ああ、そうか。
見慣れた藍の装束、月の無い夜、あの晩だ。
兵助は瞳に沢山の星を映り込ませてこちらを見ている。


「もし生まれ変われたらさ、ハチ」
「あぁ」
「また二人で星を見よう」


なんてことはないただの口約束。
そうだな、と八左ヱ門は返した。

プラネタリウムの中に再び意識が戻る。投影される星たちの中に、あの乱世で自分たちが見ていた光があるかもしれない。


「兵助、約束守ったぞ」
「ようやくね」


ずっとずっと待っていたんだから。










あの日と同じでだけが眩しい
(それは今も変わらず、)











−−−−−
現代五年生企画糖衣錠はもういらない様に提出させていただきました!
自分で書いていてプラネタリウムに行きたくなりました。落ち着きますよね、あの暗闇と綺麗な星。
電気の無いあの時代ならさぞかし星空も綺麗に見えた事でしょう。

長々と失礼いたしました。

素敵な企画に参加させていただき、誠にありがとうございました!



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