こまごまいろいろ | ナノ


23:01 文字書きさんに100のお題 81〜90


081:ハイヒール
べつに、どこにいくわけでもないからかわいい靴を履きたいと思った。かかとが高くて不安定できらきらきれいなハイヒール。私が長い間憧れてきたものだった。


082:プラスチック爆弾
高笑いしながら誰かが駆け抜けて行くのが窓の外に見えた。奪い屋のそれよりはいくぶんか高いし、彼は高笑いなんてのはしない。なにより見えた影が二つあって、子どもの影だったことがなによりの証拠だった。
どうやら今日のお客人はよっぽど騒がしいふたりぐみらしい。やれやれ、賑やかなことで。


083:雨垂れ
「いいかい、石を穿つのは根気強くとうとうと流れ落ちる水滴なんだよ。」
そう言ってやるとメリーアンはふいっとそっぽを向いた。お説教は御免、と言いたげだ。
この小さな娘は座学がてんで駄目らしかった。しかし、僕はメリーアンの保護者として教育を惜しむわけにいかない。困るのはいずれ大人になるであろう彼女なのだから。そんなことがあってはいけないと僕は考えている。
……それにしてもひどすぎる気もするな。真白なままの学習帳を見ていると、なんだかめまいがしそうだった。


084:鼻緒
「なに、その服。面白い。」
メリーアンが身にまとう、見慣れぬ衣装に人形師は目を丸くした。それが郵便屋の故郷の衣服であり、『浴衣』と呼ばれるものであることを人形師はまだ知らない。
「ぜんぜん面白くない。」
一方むすくれたメリーアンは文句をこぼす。着慣れない和服は彼女にとって動きづらいだけである。きつく帯を締められたおなかは圧迫されているし、足も満足に開けない。郵便屋に言われて着てはみたものの彼女としては苦虫を噛み潰したような思いだった。
「トミー、足の親指と人差し指の間がかゆいよ。」
「メリーアンは草履慣れてないからね。少しの間だけ、我慢してくれないか。」
そう言われてしまえばメリーアンも二の句は次げない。その隣では人形師が、メリーアンの履物は草履という名であることを頭に刻み込んでいた。


085:コンビニおにぎり
「これだけは私も譲れない。」
「それはあたしも同じ!」
「仕立て屋の分からずや。」
「アイリスこそなによぉ。」
「なんで……なんで仕立て屋はおにぎりにごま油なんて入れちゃうのよ!ごま油って、油だよ?」
「おいしいから一回食べてみなさいよ。油っていったって、風味付けにしか使ってないんだから。」
「だ、だって……おかしいよそんなの……!」
「郵便屋もおいしいって言ってくれたのよ、一回食べてみなさいって!」


086:肩越し
肩にひょいと顎を乗せて、手元を覗き込む。何故そうしたか?理由は単純だ、そこに子守妖精が立っていたからである。なにやら手紙を読んでいたらしい子守妖精はとっさに紙を握り込んだ。
「やだ飴屋、なにか言ってから見てよ。」
「ごめんごめん、そんなに驚いた?」
飴屋はあまり悪びれた様子もなく舌を出す。子守妖精も怒っているわけではないので、へらりと破顔した。


087:コヨーテ
「なんか奪い屋って猫っぽいよね。気まぐれな感じがして。」
「あらまぁアイリスちゃん!オレが狼だって知っててそれ言ってるのかしら?」
「うーん……知ってはいるけどあんまりしっくりこないから……」
「そうかよ。じゃあ今ここでワンちゃんになって見せようか。」
「それはいい、あとがめんどくさそう。」
「あんたの口からめんどくさそうなんて言葉が出るとは思ってなかったぜ。」


088:髪結の亭主(映画のタイトル、また妻の尻に敷かれる夫)
どこでこんなことを覚えたのか。十中八九奪い屋、大穴で銀細工師といったところだろう。手書きの原稿から顔を上げ、案内屋は感想を言い淀んだ。彼らしくもない、お茶の濁し方である。
「あー……これは、その……また、あまりに親しみやすく、いっそのこと大胆な物語だね」
「うん、あんまり浮き足立ってない話にしようと思ったんだ」
貶されてもいないが褒められてもいないことがわかるらしい。人形師はたんたんと礼を述べた。自分の書いた話の感想を人に求めているわりに、淡白な対応だった。
「浮気男とかかあ天下とは、また君らしくもない話だ」
「たまには、型破りもいいだろう?」


089:マニキュア
ふと、鍵屋は妖精屋の指先が色付いていることに気付く。七色にきらめく貝殻の裏のような色だ。少年の瞳はひとつまたたき、いかにも不思議そうな表情を浮かべる。
それを妖精屋の青い瞳が捉えた。
「なぁに?」
「爪、綺麗だね。」
一寸、妖精屋は驚きの色を見せた。しかしすぐさま鈴を転がすような笑い声をあげて、肩を揺すった。鍵屋はきょとんとしたままただまばたきを繰り返すのみだ。艶っぽい吐息に交えて彼女は感嘆を口にする。
「そういう細かいところに気がつく男の子は、将来きっと女の子に好かれるわねぇ。」
「それはどうかなぁ……」
渋い顔になって首を捻る鍵屋を眺めながら、妖精屋は目尻下げた。


090:イトーヨーカドー(スーパーマーケット)
あぁ、バニラアイスが食べたい。
机に突っ伏し、銀細工師は思った。あの人工的で安っぽい甘みが恋しい。冷凍庫から取り出して蓋を開けたばかりのアイスは少ししゃりしゃりとしていて、舌先で柔らかく解ける感触が堪らない。
などとぼやぼや考えていると、そういえば三時間ほど前に水を飲んで以来なにも口にしていないことに気付く。アイスでなくともなにか甘いものが食べたい頃だ。
とは言え彼女の元いた世界のスーパーマーケットやコンビニのようなものは"イノナカ"にはない。こういう時ばかりは"イノナカ"も不便なものだと元現代っ子は思うのだった。 仕方がないから、飴屋にたかりに行こう。銀細工師は密かに心を決める。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -