こまごまいろいろ | ナノ


23:16 文字書きさんに100のお題 61〜70


061:飛行機雲
「あ、飛行機雲。」
空を眺めていたら、つい、声が漏れた。すると、隣にいたメリーアンが甲高い声を上げる。
「ひこーきぐも?なぁに?どれ?」
きょろきょろなんて音が聞こえてきそうなほど大きな動作で彼女は空を見渡す。私はメリーアンの肩を捕まえて、頬を寄せてできるだけ視線を同じにした。それから細長く伸びる雲を端から端まで指差す。
「あの細長くて一直線に伸びた雲のこと。わかる?」
「あ、あれのことかな!」
丸みを帯びた指が、雲をなぞる。この"イノナカ"の空にも飛行機なんてないし、メリーアンは飛行機のことも知らないんだろう。それくらいのことは私にもわかった。
でも彼女にとってあの空を貫く雲は飛行機雲なんだなぁと思うとなんだか不思議な気持ちになる。


062:オレンジ色の猫
「ひとなつこい、ねこ。」
指先でたっぷりとした首元の皮をまさぐる。猫は上機嫌そうに喉をごろごろと鳴らした。ツボをついてやれば、無愛想な猫だってこうして気持ち良さげに目を細めて身体ごと腕にすりつけてくるから、面白い。
「この子、持って帰りたいなぁ。」
でも、持って帰っても、きっとぼくはお世話ができないんだろうから、持って帰るのはよしておこう。あぁ、でもきっと、ぼくが育てられなくてもみんながちゃんと育ててくれるんだろうなぁ。育ててくれる、じゃなくて生かしておいてくれる、かもしれないか。


063:でんせん(漢字は自由)
「別に、雷なんて怖くないよ。」
「……本当に?」
飴屋は片眉をいたずらっぽく持ち上げる。対する星拾い屋は黒檀の瞳を糸のように細めた。それからすました顔をして、そっぽを向く。
「でも、雷がごろごろいってるような晩くらいにしか、君の方からは俺のところには来てくれないでしょ。」
とうとう星拾い屋はちらりとも一瞥もくれなくなった。どうやらからかいすぎてしまったらしい、と飴屋は心中で舌を出す。
「なんだい、君らしくもない反応だなぁ。」


064:洗濯物日和
よくよく乾いた空の日に、鼻歌を歌いながらテーブルクロスを干す。竿にかけるのが郵便屋の仕事、しわを丁寧に伸ばすのがメリーアンの仕事。そして乾いたそれをぐしゃぐしゃにして回収するのがオレの仕事。


065:冬の雀
ふくふくに着ぶくれした人形師を見ると、子守妖精は冬の到来を実感するという。寒さ暑さの影響を受けない彼女からすれば、季節の変化は気にかけるほどのことでもない。
それこそ雪のごとく白い人形師の鼻先に朱が散るのは、冬という季節とは真逆の春を思わせる。例えるのなら春が待ちきれなくて先に駆け出してしまったのような、せっかちな花。その倒錯こそが冬の醍醐味、子供の可愛らしさであった。


066:666
「おとどけものだよ!」
「あー、ありがと。」
小鳥みたいな声といっしょに、包みが届いた。包み紙は濃いむらさき色で、白い顔料でなにかの模様が描いてある。もちろん見覚えはない。
でも、中身は見なくてもなんとなくわかる。紙なんかじゃかくせないものが透けてるんだ。
机の端にあったマッチ箱を手繰り寄せ(火が起こせればなんだってかまわなかった)、擦る。包み紙に火をつければ、炭みたいに黒い炎が上がった。読み通り、呪いの類のものだったらしい。
あーあ。知らない、知らない。なんにもボクは知らないよだ。


067:コインロッカー
「いやぁ、やんなっちゃうよまったく。狂ってるとしか思えないぜ。こんな古臭いものに価値があるなんてさぁ。」
「そうかしらぁ?私は、あまりそうは思わないけども。」
「だとしたらオレが狂ってるのか。アハハ、おかしくてたまんねぇや!」
「毎度毎度ありがとうね〜、貴方の持って来るものっていつも素敵だから、店主としては嬉しいばかりよぉ。」
「ヒューウ、スルースキルたっけーなぁおい。さすがみんなのおねーさまってかぁ?オレとしてはいらねーもん預けてるだけだからこっちこそ感謝感激雨嵐って感じー。」
「本当は私もお代を貴方にあげたいけど、この店のものは貴方にとってはみーんなガラクタですものねぇ……」


068:蝉の死骸
どうやら、"イノナカ"には蝉がいないようだった。夏の暑さは慣れ親しんだ湿気もなく、ただただ気温が高くなるだけの日々だった。
夏の遺体とも呼べそうな、あの惨めな姿を見ずに済むのは嬉しいことだと思う。でも、ちびちゃんたちが虫取り網を持って走って行くところが見られないのは残念だ。あれこそ夏の風物詩。最も、"イノナカ"に住むちびちゃんたちが蝉取りに興味があるかはわからない。


069:片足
けーんけーんぱ、けーんけーんぱ。
響く掛け声は一人遊びに勤しむ鍵屋の声である。独り言の多い彼にとって道ゆく人の眼差しはとっくに慣れっこだったし、殊更辛いことでもなかった。
なに、こうしていればじきに遊び相手はやってくるさ。一人で遊んでいれば誰かがいつか遊んでくれるから。だからこうして、彼はのんびり考えごともせずに友を待つ。


070:ベネチアングラス(ベネチア原産の切子硝子細工)
「チッス、郵便屋。めずらしいじゃん、そっちから来るなんて。なんか用?」
「昨日行った街、工芸品が有名だったらしくてね。お土産があるんだ。」
「マジ!?やったー!!」
「ごめん銀細工師、君じゃない。」
「んだよつまんねーの。喜び損した!」
「銀細工師はまた今度。ガラス細工師、はいこれ。」
「ん……?」
「あんた、礼くらい言いなよ。ダンマリしてないでさぁ。」
「……るっせぇな、言われなくてもそれくらい言えるに決まってんだろ。せっかちすぎんだお前は。あんまりに出来がいい細工だから言葉出なかったんだよ。節穴の目のお前にはわかんねーだろうけどな。」
「あぁ!?」
「馬鹿はほっておくとして、郵便屋、ありがと。いい目利きだな。」
「ん。」


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