こまごまいろいろ | ナノ


22:58 文字書きさんに100のお題 51〜60


051:携帯電話
仕事柄、私は細工師の双子に用があることが多い。ガラスの瓶やら銀のチェーンやらは私の拾う星との相性が抜群にいいのだ。
「ケータイがあったら楽なんだけどなー……」
歩いていけるところに店があると言っても、距離があることに変わりはない。わざわざ会いに行かないと連絡がとれないというのは不便だ。こういう時はあの情報社会を懐かしく感じてしまう。
するて、私のつぶやきを聞いていたらしい銀細工師がこう言った。彼女もまた、私のいた世界と似たようなところから落ちてきた子だったからケータイがなんたるかを知っているのだ。
「あ、じゃあ、糸電話とか使えばいいんじゃない?」
これならどうだ!と言わんばかりのキメ顔だった。彼女の意見に対する私の見解としては『現実味がないから却下』といったところである。しかしそれを口にするのはやはりはばかられ、いつものように曖昧な笑みを浮かべておいた。
「馬鹿丸出しだから喋るのやめろ。」
わざわざ作業場から顔を出してガラス細工師はにべもなく言い放つ。わざわざ怒らせるようなこと言わなくてもいいのに、とは思うけど、あれはきっと彼の趣味なんだろう。


052:真昼の月
「よーいしょ、と。」
鍵屋の腕より太い鍵が、ずぶりとクローゼットの鍵穴に吸い込まれていくのはなんとも不思議な感じがする。鍵穴に差し込むまでは鍵屋が背負わないと持ち運べないくらい大きかったのに今や手のひらサイズの普通の鍵の大きさにまで縮んでいた。
「これで型はできた。あとはボクんちでできるから、もう帰るね。」
「うん、ありがとう鍵屋。」
「もう、なくしたらだめだからね。」そう言って、彼はあどけない笑みを浮かべた。


053:壊れた時計
妖精屋の骨董品の扱いは天下一品である。それ故彼女はたびたび"イノナカ"の住民から古いものの修理の依頼を受けることがあった。
今、妖精屋の手の中にあるのは鈍い銀色をした腕時計。細身の針は音も立てず静止している。革紐のなめらかさと文字盤の傷から、相当古いものであるとわかった。
豊かなまつげを揺らしつつ時計を審査する彼女の眼差しは真剣そのものである。じきに妖精屋は時計から目を離し、そのきらめきを秘めた瞳をきゅうっと隠すのだ。
「大丈夫、修理できるわ〜。三日くらい時間をくださるかしら〜?」


054:子馬
まったく。とんだじゃじゃ馬娘だ。
泥棒でも入ったかのような部屋の荒れ具合には、流石の案内屋もため息をつく。
同時に、メリーアンがはっとした表情で彼を振り返る。どうやらクローゼットの中身を漁っていたらしい、彼女の手にはストライプのシャツとグレーのスーツがあった。ばつが悪そうにゆっくり目をそらし、メリーアンは手のひらを開いた。
「……メリーアン。」
言わなくちゃいけないことが、あるんじゃないかね?
案内屋はあくまでも穏やかな声色で尋ねた。


055:砂礫王国
どこまでものびやかで、それでいて儚さの感じられるソプラノであった。通りすがった人々はおとなもこどもも皆足を止める。しかし彼――もしくは彼女――にとって、この歌はほんの前座に過ぎない。歌声に惹かれ立ち止まった客人らは、じきに自分が目的地を目指していたことを忘れてしまうだろう。
人形師が歌い語るのは、今は朽ちた砂漠の王国のお話。これから人形師が上演するマリオネットの物語のあらすじを読んだものである。


056:踏切
「ねぇ。」
「なに?」
「星拾い屋は、"イノナカ"におちてよかったとおもう?」
「うん、思ってる。幸せだよ。」
「そっか。」
「そうだよ。」
「よかった。あなたが幸せで、わたしも嬉しいわ。」


057:熱海
旅行に行きたいな、と昔はよく考えた。安いところでもいいから行きたかった。しかし我が家の家計に余裕はなかったし、そもそも父親はそういう浮ついたことが嫌いだった。
だから、僕が郵便屋としていろいろな世界を駆けずり回っているというのは随分不思議な話だと思う。


058:風切羽(かざきりばね。鳥が飛ぶ為の羽)
「拾ったから、やるよ。」
奪い屋がなにかを投げてよこした。ひらひらと揺れ風に煽られるそれは、なにかの鳥の羽のようだった。鍵屋はなんとか捕まえようと手を伸ばすものの、風に弄ばれる羽はなかなか手に届かない。
何度か指の間をくぐらせたのち、ようやく彼は手のひらを握り込んだ。吹き飛ばされないよう、そっと手を開くと光り輝くような純白が目に飛び込む。大きさから推測するに、白鳥ほどもない小さな白い鳥の羽だったんだろうか。
「ありがと。きれいだね、この羽。」
「だろー?ソレの飾りにでもしな。」
ちょい、と指差されたのは頭に巻いた布の先端。それに従い鍵屋は垂れ下がった房飾りをつまんでみる。なるほど、確かに紐だけではさみしすぎる。
「うん、そーしよっかなぁ。」


059:グランドキャニオン
細工師の双子はふたりとも口は悪いけど、気のいい人たちだ。ふたりともよく似ているのにどうして仲が悪いんだろう、と俺は不思議でならない。
似てるなんて言ったらふたりは怒るかもしれない。でもたとえば言葉の選び方とかはそっくり。正反対のことを同じ言葉で言うもんだから、余計に似てるってはっきりわかる。でもどうやらふたりは気がつかないらしい。
どうしてあの子たちがあんなに喧嘩ばっかりしてるのかはわからないけど、俺は今度、ふたりが喜んでくれるような飴を作ろうと思うんだ。飴を分け合ったらきっとちょっぴり仲良くなれるんじゃないかな。


060:轍(わだち、車輪の跡)
ぐらぐらと揺れる視界に酔いそうになりつつ、彼女は足に力を入れる。バランスを取ることより前に進むこと、それが大切だと師は言った。だから彼女はは必死に進もうとする。しかし、足は意思に反して動こうとしない。ぎ、と強く歯を食いしばりながら足を前へ前へと押し出していく。
「ほら、乗れたじゃない!」
子守妖精の嬉しそうな声がはるか後ろから聞こえた。夢中で自転車をこいでいたメリーアンはそこでようやく足を地につける。軽快な足音を聞きながら、彼女は愛車のハンドルを撫ぜた。


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